各論目次

  第1節 住居を侵す罪(130条・132条)

    1 住居等侵入罪(130条)

(住居侵入等)

 130条 正当な理由がないのに,人の住居若しくは人の看守する邸宅,建造物若しくは艦船に侵入し,

       又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者

        →3年以下の懲役又は10万円以下の罰金

意 義

 「住居を侵す罪」は,人の住居,または,人の看守する邸宅・建造物・艦船の住居権ないし支配・管理権を侵害する犯罪です(後述の「住居権説」からの表現です。)

 行為の態様にしたがって,①住居等侵入罪(130条前段)と,②不退去罪(同条後段とに分かれます。

 また,未遂罪の処罰規定があります(132条)。

   ※ 131条(皇居等侵入)は,削除されています(昭和22年)。

     (1) 住居等侵入罪(前段)

 住居(等)侵入罪は,人の住居等に侵入することを内容とする犯罪です。

保護法益

 住居侵入罪の保護法益については

  (A) 家長(夫)が専有する住居権であるとする旧住居権説(大判大7・12・6など戦前の考え方)

  (B) 住居等の事実上の平穏であるとする平穏説(最判昭49・5・31,団藤・福田・大塚・藤木・前田・井田) 

  (C) 住居等に対する事実上の支配・管理権であるとする新住居権説(最判昭58・4・8,平野・大谷・中森・川端・日高・山口)

が,あります。

   ※ 新住居権説は「住居に誰を立ち入らせるかを決める自由」という表現もされます(不退去罪については「誰の滞留を許すかを決める自由」となるでしょう。)。

  本罪は,今日,個人的法益に対する罪と理解されており,これを徹底する見地から,人が住居などを支配・管理している状態を権利として保護するものと解すべきです。

 したがって,(C)新住居権説を妥当と考えます(以下,「住居権説」というときは,とくに区別がないかぎり,新住居権説をさすこととします。)

   ※ この論点は,主に「侵入」の意義と関連して問題となります(後述)。

      ア 客 体

 他人の住居,または,他人の看守する邸宅・建造物・艦船です。

       (ア) 人の住居

意 義

 「住居」とは,(A)「起臥寝食(きがしんしょく=寝起きと食事)に使用される場所」とするのが通説です(団藤・藤木・川端・前田・井田)。

 他方,人が日常生活に使用するため同意なしには他人の立入りを認めない場所については,住居権を認めるべきであるなどとして,(B)「日常生活に使用されている場所」であればよい(起臥寝食に使用することは必ずしも要しない)とする見解も有力です(札幌高判函館支判昭27・11・5,大塚・大谷・西田,なお山口)。

 事務室(最判昭42・2・7)・研究室・実験室なども,(B)説によれば,日常生活が可能な設備を備えているかぎり,「住居」となりえます。

 他方,(A)説からは,これらは「建造物」の方にあたることになります(その意味では,結論に違いが生ずるものではありません)。

具体例

 一時的な滞在の場所であるホテルの一室も「住居」にあたります(団藤・大谷・山口など通説)。

 テント舎・キャンピングカーなども「住居」になりえます。

   ※ 「航海中の船舶の乗客が,窃盗の目的で,他の乗客の船室に入る行為」も,本条の罪にあたります(仮に起臥寝食ないし日常生活が可能な設備を備えていないとしても,後掲の「人の看守する船舶」にはあたるでしょう。)。

 初めて訪問した家の応接間に通された者が,家人に無断で寝室に立ち入ったような場合,住居侵入罪が成立します。

 住居等の屋根やベランダなども「住居」の一部です。たとえば,①窃盗犯人が警察官に追われて,他人の住居の屋根によじ登る行為や,②窃盗の目的で,他人の家のベランダに上がる行為も,本罪にあたります。

 住居は,住居者が常に現在している必要ないので,一時不在の場所や,一定の期間だけ使用している別荘なども,これにあたります。

 農産物を貯蔵してある山腹の洞穴など,日常生活等に耐えうる設備を有していない場所は,本罪の客体にあたりません。

囲繞地

 住居に使用される建物のほか,囲繞地(いにょうち=まわりを囲まれた土地)も「住居」の一部となるというのが通説です(団藤・大塚・大谷・山口)。

 囲繞地部分への侵入により,建物自体への侵入に準ずる程度に住居権が害されるといえるからです(最判昭51・3・4<東大地震研事件>参照)。

   ※ 最判昭32・4・4は,住居の囲繞地は「邸宅」とみていたようですが,上掲最判昭51は,建造物の囲繞地は「建造物」に含まれるとしています。そうだとすれば,通説のように,住居の囲繞地も「住居」に含まれるとするのが自然なようにも思われます(前田)。

 囲繞地であるためには,その土地が,①建物に接してその周辺に存在し,かつ,②管理者が門塀等の囲障を設置することにより,建物の付属地として,建物利用のために供されるものであることが明示されればよいとされます(上掲最判昭51)。

   ※ 上掲最判昭51は,その囲障が通常の門塀に準じ外部との交通を阻止しうる程度の構造を有する金網冊であれば,囲繞地にあたるとしています。 

 たとえば,他人の家をのぞき見る目的で,他人の家の垣根をこえて,中庭に入る行為も,本条の罪にあたります。

住居権

 住居権は,現に住居を支配・管理しているという「事実」を基礎とするものです。それゆえ,必ずしも居住者が法律上正当な権限をもって居住していることは要しません(最判昭28・5・14)。

 たとえば,借家人が賃貸借契約終了後も居すわっているからといって,家主が,借家人の意思に反して,その借家に立ち入れば,住居侵入罪が成立しえます。

 「人」の住居とは,「他人」の住居を意味します。ここでいう「他人」は,当該住居に対して住居権を有する者です。

 以前には住居権を有して他人と同居していた者が,その住居から離脱した後に,その住居に侵入すれば,その者はすでに住居権を失っているので,その行為は住居侵入罪にあたることになります。

 たとえば,家出をしていた息子が,強盗の目的で,実父宅に立ち入る行為は,本罪にあたります(最判昭23・11・25)。

       (イ) 人の看守する邸宅・建造物・艦船

看 守

 「看守」とは,人が事実上支配・管理することをいいます。一定の場所に他人の侵入を防止する人的・物的設備を施すことを意味します。

 管理人・監視人を置くこと,施錠することなど,その方法を問いません。

 ただし,立入禁止の札を立てるのみでは,侵入防止の設備とはいえないので,「看守」していることにはなりません。

邸 宅

 「邸宅」とは,居住用の建造物で,住居以外のものをいいます。

 現に住居に使用されていれば「住居」にあたるので,空き家や閉鎖された別荘などが,これにあたることになります。

 たとえば,冬期閉鎖中の他人のバンガローに立ち入る行為は,本条の罪にあたります。

 最判平20・4・11は,管理者が管理する,公務員宿舎である「集合住宅の1階出入口から各室玄関前までの部分」は,人の看取する「邸宅」にあたり,また門塀等の囲障を設置したその敷地は邸宅の囲にょう地として,邸宅侵入罪の客体になるとしました。

建造物

 「建造物」とは,一般に,屋根を有し支柱などによって支えられた土地の定着物で,人が出入りすることのできる構造のものをいいます。

 本罪においては,官公署・学校・工場などが,これにあたります。たとえば,ホームレスが,物置小屋に忍び込んだ場合には,本罪が成立します。

 建造物の一部である事務室・会議室なども「建造物」となります。たとえば,料亭で宴会中の客が,別室で密談中の他の客の話を盗み聞きする目的で,その隣の空き室に入る行為も,本条の罪にあたります。

 建造物は,家屋だけではなく,その囲繞地を含みます(最大判昭25・9・27)。

 最決平21・7・13は,警察署庁舎建物および中庭への外部からの交通を制限し,みだりに立入りすることを禁止するために設置された高さ約2.4mの「塀」は,庁舎建物の利用のために供されている工作物であって,本条にいう「建造物」の一部を構成するものとして,塀に上がった行為につき本罪の成立を認めています。

艦 船

 「艦船」とは,軍艦および船舶のことです。

   ※ 大小は問いませんが,侵入できる構造のものでなければならないことは当然です。

      イ 行 為

 本罪の行為は,正当な理由なしに「侵入」することです。

   ※ 「正当な理由がないのに」とは,「違法に」という意味ですが,単に語調のうえから添えられたもので特別の意味はなく,一般の違法性阻却事由を考慮すれば足りるとされます(川端)。なお,前田教授は,この文言は,住居等への訪問行為は一般に広く行われるので,その中でとくに正当な理由のないものだけが住居侵入罪の構成要件該当性があるとする注意規定だと説明されています(条解349頁参照)。

       (ア) 「侵入」の意義

(A)意思侵害説

 「侵入」の意義については,住居侵入罪の保護法益を「住居権」であると考える立場(住居権説)からすれば,「居住者(看守者)の意思に反して立ち入ること」と解されます(意思侵害説,最判昭58・4・8)。

   ※ 上記最判昭58・4・8は,「130条前段にいう『侵入し』とは,他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから,管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても,該建造物の性質・使用目的・管理状況・管理権者の態度・立入りの目的などからみて,現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは,他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上,同条の罪の成立を免れないというべきである」とします。

(B)平穏侵害説

 他方,保護法益を「住居の平穏」であると考える立場(平穏説)からは,一般に,「住居の平穏を害する態様で立ち入ること」と解されることになります(平穏侵害説)。

   ※ 「侵入」の意義に関する「意思侵害説」と「平穏侵害説」は,基本的に,保護法益に関する「住居権説」と「平穏説」の対立に対応するものといえますが,「平穏説」から「意思侵害説」を主張する見解もあります(大塚)。

 本HPでは,住居権説の立場から意思侵害説を採ります。

   ※ なお,上記のように「侵入」の意義については両説ありますが,「住居の平穏を害するような立入りは,ほとんど住居権者の意思に反する」であろうし,また,「住居権者の意思に反したかどうかが,住居の平穏を害したかどうかの重要な判断資料になる」から,両説でその処罰範囲は実際上かなりの部分重なり合うという指摘もあります。

[短答式試験問題の検討]

 旧試験の過去問を例に,それぞれの説の内容を検討してみましょう(なお,平成17年の問題を参考にしていますが,必然的な帰結とは限らないようにも思われますので,結論を覚えるようなことはしなくてよいと考えます)。

  [事例①]

 「甲は,昼間,訪問販売の目的で,玄関ドアに『訪問販売お断り』と書いた紙が貼られている一人暮らしのX宅の無施錠の玄関内に,呼び鈴を鳴らして立ち入った」という事例において,甲に住居侵入罪が成立するでしょうか。

 この点,(B)平穏侵害説によると,「平穏を害する態様」の立入りではないので,住居侵入罪は成立しないことになるでしょう。

 他方,(A)意思侵害説によった場合,このような事例でも,「居住者の意思に反する立入り」のため,同罪が成立することとなってしまい,妥当ではないという批判がありえます。

 これに対する意思侵害説からの1つの回答としては,「(ア)このような事例においては,甲がもっぱら訪問販売の目的で立ち入ることをXが真に拒否しているとはいえない場合や,これをXが真に拒否していても甲にその認識(故意)がない場合もあり,これらの場合には同罪は成立しない」が,他方,「(イ)甲がもっぱらその目的で立ち入ることをXが真に拒否しており,甲にその認識がある場合には,むしろ同罪の成立を認めてよい」ということが考えられるでしょう。

  [事例②]

 「甲は,昼間,強盗の目的で,一人暮らしのX宅の無施錠の玄関内に,呼び鈴を鳴らして立ち入った」という事例ではどうでしょうか。

 (A)意思侵害説によれば,「居住者の意思に反する立入り」として,住居侵入罪が成立しうるでしょう。

   ※ なお,Xが「お入りください」と答えるなど,立ち入ることを承諾したときは,後述の「同意と錯誤」の問題となります。

 これに対して,(B)平穏侵害説に立ち,かつ,「侵入」にあたるか否かは「立入り行為の客観的態様から判断するべき」と考えると(前田),住居侵入罪が成立しないこととなり,妥当でないとの批判がありえます。

   ※ もっとも,前田教授は,「一般観客を装って国体開会式を妨害する目的で陸上競技場に立ち入った行為も,建造物侵入罪に該当するとされるが,それは外形的に妨害目的が明らかになったからであり,その意味で平穏を害した立入りだったからである」とされます。そうだとすると,本事例においても,「強盗の目的が明らか」になれば(違法な目的が顕在化して住居の平穏を害せば),住居侵入罪の成立が肯定されることになるのかもしれません。

 他方,(B)説に立ち,かつ,「侵入」にあたるか否かは「立入り行為の客観的態様だけでなく,行為者の目的等の主観的事情も併せて総合的に判断するべき」と考えれば(福田),本罪が成立することとなるでしょう。

分譲マンションの管理組合の意思に反する立入りとされた事例

 最判平21・11・30は,分譲マンションの各住戸のドアポストにビラ等を投かんする目的で,同マンションの集合ポストと掲示板が設置された玄関ホールの奥にあるドアを開けて廊下等の共用部分に立ち入った行為について,同マンションの構造および管理状況,そのような目的での立入りを禁じたはり紙が掲示板にちょう付されていた状況などの事実関係のもとでは,同マンションの管理組合の意思に反するものであると判示しています

   * さらに,本件は分譲マンションで,行為の態様は7階から3階までの廊下等に立ち入ったというものであることなどに照らすと,法益侵害の程度がきわめて軽微なものであったということはできないとして,本条前段の罪の成立を認めました。

継続犯

 住居等に侵入されている間は,支配・管理権の侵害も継続するので,住居侵入罪は「継続犯」であると解されます。

 したがって,住居侵入罪が成立すれば,退去までずっと本罪が成立し続けることになるので,その侵入者に別に不退去罪が成立することはありません(最決昭31・8・22,通説)

 たとえば,不法に住居に侵入した後,家人から退去の要求があったにもかかわらず,これに応じなかったという場合,住居侵入罪は成立しますが,不退去罪は成立しません。

   ※ 住居侵入罪を状態犯と解する少数説もあります(山口・井田)。山口教授は,住居侵入罪の成立後,不退去罪にもあたるときは,130条に該当する包括一罪が成立するとされています。

       (イ) 同 意

        a 意 義

同意の効果

 本罪は,居住者・看守者の意思に反することが構成要件要素となるので,住居等に立ち入っても,同意があるかぎり構成要件に該当しません(判例・通説)。

任意かつ真意にもとづく同意

 同意は,任意かつ真意にもとづくものであることを要するとされます(判例・通説 →錯誤にもとづく同意)。

同意の範囲を超える立入り

 同意の範囲を超えてなされた立入りは,本罪にあたります。

 たとえば,「甲は,自ら所有し管理するマンションの各室を乙女を含む多数の者に賃貸し,これら賃貸人との間に『火災等の非常事態の場合は,マスターキーを使用して甲は室内に立ち入ることができる』との約款を結んでいた。ところが,某日,甲は,私立探偵丙から,『乙の素行調査のため,ぜひその部屋を見せてほしい』と頼まれ,これを承諾し,乙の外出中マスターキーを使用して,丙とともに同人の部屋に立ち入った。」という場合,甲についても住居侵入罪が成立することになります。

        b 同意権

同意権者

 住居権は,住居に対する支配・管理という事実にもとづく権利ですから,居住者すべてが平等に享有します。

 戦前の判例(大判昭14・12・22)がいったように,家長(夫)が専有する(旧住居権説)というものではありません。

   ※ たとえば,「AとBは,強く反目し,それぞれ家族に対し,相手方の家族を自宅に入れることを禁止していた。ところがA家の長男甲(23歳)とB家の長女乙(21歳)は深く愛し合う間柄となり,某夜,甲は,乙とあらかじめ示し合わせた上,公道に面した同女専用の部屋の窓からその中にBに知られないように立ち入った。」という場合,「乙の同意にもとづき同女専用の部屋に立ち入った」というものですから,甲に住居侵入罪は成立しないでしょう。

 未成年者であっても,同意能力があるかぎり,独立して有効な同意を与えることができるとされます(通説)。

不倫(姦通)目的と住居侵入

 夫の不在中,不倫の目的で,妻の承諾を得て,住居に立ち入った場合,住居侵入罪が成立するでしょうか。

 この点,住居権は住居に対する支配・管理という事実にもとづく権利であり,妻も独立の住居権を有しているのですから,(夫の推定的承諾が得られるかどうかにかかりなく)有効な同意を与えうると解すべきです(大谷)。

 したがって,住居侵入罪は成立しません(次掲(B1)説)。

[学説のポイント]

 この論点については,住居侵入罪の保護法益に関する対立と必ずしも一致しないかたちで,積極・消極両説があります。

   ※ 住居権は家長たる夫が専有するという戦前の判例の考え方(旧住居権説)に立てば,積極的に解せられることになるでしょうが(大判大7・12・6は「たとえ姦通の相手方である妻の承諾をえても,住居権者である不在の夫(家長)の承諾が推測しえない以上,本罪を構成する」としています),この考え方に立たなくても積極説(成立説)はあるし,他方で消極説(不成立説)もあるということです。

(A)積極説

 (A1)新住居権説→積極説(植松)

    新住居権説に立ち,居住者が複数いる場合には「全員の承諾または推定的承諾が必要」であると考えれば,積極説となりえます。

 (A2)平穏説→積極説(大塚)

    平穏説に立ち,「住居の平穏は夫婦に共同のものであるから,夫婦の一方が他方に代わって承諾しうるのは他方の意思に反しない場合でなければならない」と考えれば,積極説となりえます。

(B)消極説

 (B1)新住居権説→消極説(平野・大谷・日高・山口)

    新住居権説に立ち,居住者が複数いる場合にも「現在する者の承諾だけで足りる」と考えれば,消極説となりえます。

 (B2)平穏説→消極説(団藤・前田・井田)

    平穏説に立ち,本事例における立入りを「平穏を害する態様ではない」と考えれば,消極説となりえます。

   ※ なお,「現在では,姦通事例においては住居侵入罪は成立しないとするのがまったく一般的な見解である」との指摘(井田)もあることからすると,受験上も消極説をとるのが無難だろうと思われます。

夫が現在する場合

 では,夫のいる住居に,その意思に反して,妻が不倫相手(姦夫)を引き入れるような場合,その相手に住居侵入罪が成立するでしょうか。

 この点,住居権の行使(同意)が,他の居住者の住居権を侵害する場合には,その範囲で同意の効力が制約を受けることは当然です。そこで,現に住居にいる夫が立入拒否の意思を示している場合には,夫の住居権の侵害となるから,妻の同意は無効であり,本罪が成立すると解するのが多数説です(大谷・中森・川端)。

 ただし,居住者1人(妻)の同意があれば,本罪は成立しないとする見解も有力です(山口)。

        c 推定的同意

 明示的な同意でなくても,推定的同意があるときは,住居侵入罪の構成要件に該当しないと考えられます。

 推定的同意は,外部的な状況から合理的に認識しえれば足ります。

 たとえば,親友の下宿を訪ねたところ,留守であったが,鍵がかかっていなかったので,上がって待っていたという場合であれば,本罪は成立しないでしょう。

 他方,日本刀を携えて勝手口から侵入する場合,家人が知らない間に鍵を開けて侵入する場合,入場券なしに入場する場合などについては,推定的同意は認められないでしょう(大谷)。

        d 違法目的と同意

居住者の錯誤による同意

 違法目的を秘し,家人の同意を得て,その住居に入った場合,住居侵入罪が成立するでしょうか。

 たとえば,「甲は,強盗を行う意図で乙宅を訪れ,玄関先で『今晩は』とあいさつしたところ,乙が『お入りください』と答えたので,それに応じて乙宅に立ち入った」というような事例で問題となります。

 この点,違法な目的は住居侵入の動機にすぎず,立ち入ること自体については承諾があるとして,本罪の成立を否定する見解も有力です(平野・中森・川端・山口)。

 しかし,この場合,家人は強盗とは思わずに立ち入ることを承諾したのであって,この点の錯誤は意思決定に重大な影響を及ぼすものといわざるをえません。このような承諾は無効なものと解すべきです。

 したがって,住居侵入罪が成立すると考えます(最大判昭24・7・22,大谷・日高)。

   ※ これに対しては,「友人が遊びに来たと思って招じ入れたところ,実は借金の取立てにきたのであった」という場合も住居侵入罪になってしまうという批判がありますが,大谷教授は,この場合は,包括的同意に含まれる場合として同意を有効と解すべきであるとされます。

包括的同意

 窃盗の目的で営業中のデパートやホテルのロビーに立ち入った場合,あるいは,無銭飲食の目的で飲食店に立ち入った場合など,建造物侵入罪が成立するでしょうか。

 この点,デパートなどは,その性質上,管理者が顧客を選別することなく自由に立ち入ることを認めているのであって,包括的な同意があるものといえます。

 したがって,建造物侵入罪は成立しないと解されます。

   ※ ただし,住居権説・意思侵害説を前提としても,上記のように「立入先の性質」を強調せずに,ここでも「もっぱら窃盗の目的で立ち入ることを管理者が知った場合にこれを許すことはありえないから,包括的同意の範囲を超え,管理者の意思に反する」と考えれば,住居侵入罪の成立を肯定することは不可能ではありません(頃安)。

   ※ 平穏侵害説からは,「平穏を害する態様ではない」と考えられるので,(違法な目的が顕在化して建造物の平穏を害さないかぎり)本罪の成立は否定されるでしょう(ただし,行為者の目的等の主観的事情を重視すれば,成立を肯定する余地もあるように思われます。)。

 なお,包括的な同意の範囲を超える侵入は,管理者の意思に反する立入りにあたります。

 たとえば,店内の客と闘争する目的で日本刀を携えて侵入するような場合は,建造物侵入罪が成立するといってよいでしょう(大判昭9・12・20,大谷)。

 なお,近時,最高裁は,現金自動預払機利用客のカードの暗証番号などを盗撮する目的で銀行支店出張所に営業中に立ち入ったという事案において,そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるとして,立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客と異なるものでなくても,建造物侵入罪が成立すると判示しました(最決平19・7・2)。

       (ウ) 既遂・未遂

着手時期

 本罪の実行の着手は,住居等への侵入の開始です。

既遂時期

 「侵入した」(既遂)というためには,現実に支配・管理権が侵害されることを要するなどして(大谷),身体の全部が客体に入ることを要するというのが通説です(反対;斎藤[一部で足りる])

      ウ 罪数・他罪との関係

罪数の基準

 本罪の個数は,住居権または支配・管理権を基準として決まることになります。

他罪の手段としての住居侵入罪(牽連犯)

 住居侵入罪は,他の犯罪を実現する手段として犯されることが多く,たとえば,窃盗罪における「侵入」は,同罪の手段に相当する性格をもっています。

 このように,他の犯罪と住居侵入罪が,客観的に目的・手段の関係にあると認められるときは,牽連犯(54条1項後段)となります。

 判例上,窃盗・強盗・殺人・傷害・放火などの各罪と,住居侵入罪との間に,牽連関係が認められています。

   ※ 「手段→目的」の関係にあるかどうかは,犯罪の性質上,客観的・類型的に(つまりそれらの犯罪のパターンとして)そのような関係にあるかどうかによって決まります(最大判昭24・7・12)。したがって,たとえば,住居侵入後に,たまたま窃盗の意思を生じたような場合でも,牽連犯です(大判大6・2・26)。

予備罪と観念的競合になる場合

 強盗(または殺人)の目的で住居に侵入したが,着手にいたらなかった場合は,強盗予備罪(殺人予備罪)と住居侵入罪を1個の行為で犯したことになるので,観念的競合(54条1項前段)になります。

                                                                         不退去罪