各論目次

      2 強制性交等罪(177条)

  (強制性交等)
 177条 13歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて
     性交,肛門性交又は口腔(こうくう)性交(以下「性交等」という。)をした者
         → (強制性交等の罪とし)5年以上の有期懲役
      13歳未満の者に対し,性交等(性交・肛門性交・口腔性交)をした者
         → 同様(5年以上の有期懲役)

 [参考:旧規定]
  (強姦)
  177条 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者 → 
(強姦の罪とし)3年以上の有期懲役
      13歳未満の女子を姦淫した者 → 同様(3年以上の有期懲役)

   ※ 以下,平29改正部分については,主に,橋本『刑法各論[初版]』126頁~130頁と,有斐閣のウェブサイトで提供されている井田教授の新規定の解説(以下『井田解説』)を参照させていただいています(他は改正前の文献です。)。
     なお,ここでは,
改正前の判例・学説等についても,原則として,強姦を「強制性交等」に置き換えて記述することにします。

 「強制性交等罪」は,
 (1)「13歳以上の者に対し,暴行・脅迫を用いて,性交・肛門性交・口腔性交をする」
か(前段),
 (2)「13歳未満の者に対し,性交・肛門性交・口腔性交をする」
(後段)
という罪
です。

  * 改正前の本条(強姦罪)は,「女子を姦淫」する罪でした。つまり,男子が「女子」に対して「性交」を強制するもので,それ以外のわいせつ行為は前条(強制わいせつ罪)でより軽く処罰されることになっていました。
    しかし,第1に,不本意な性交等の対象とされることは男女を問わず等しく否定されるべきです。それゆえ,本条の行為の客体は「者」に改められました。
    また,第2に,男性器(陰茎)を,「女性器(膣)」に挿入する「性交」のみでなく,「肛門」や「口の中」に入れることも,身体への侵入を伴う濃密な接触として,同等の重大な苦痛を与える行為というべきです。それゆえ,「性交」に加えて,「肛門性交」・「口腔性交」も,本条で重く処罰する対象に含めることにしました。
    このように,本条は,「わいせつな行為」のうち「性交・肛門性交・口腔性交」(=性交等)をとくに重く処罰するためのもので,強制わいせつ罪(前条)の加重特別類型ととらえることができます(井田解説参照)。

       (1) 主 体

 本罪の行為の主体は,とくに制限はありません。
  * 改正前は,客体が「女子」で,行為が「性交(男性器の膣への挿入)」だったので,主体は事実上「男子」に限られていました(ただし,女子も間接正犯・共同正犯にはなりうるとするのが通説でした。)。しかし,改正により客体が男女を問わないことになったので,主体の制限もなくなりました。
    もっとも,本罪の性交等は,「男性器」を「膣・肛門・口腔」に入れることなので,少なくとも行為者か被害者のいずれかが男子であることは必要です。ただし,女子も,やはり間接正犯・共同正犯の形態では,女子を被害者とする本罪の主体となることは可能でしょう(井田解説参照)。
    たとえば「甲女は,A女に対し恨みを抱いていたので,乙男と共謀の上,乙男が性交をするため,抵抗するA女に暴行を加える際,A女の体を押さえつけていた。そのため,乙男はA女に性交をすることができた。」というような場合は,強制性交等罪の共同正犯が成立します(最決昭40・3・30参照)。

       (2) 客 体

 本罪の行為の客体は,前段が「13歳以上の者」,後段が「13歳未満の者」です。男女は問いません。
   * なお,いわゆる屍姦は本罪を構成しません。たとえば「甲は,A女を殺害したが,その後,性交の意思が生じて同人に性交をした。」という場合は,強制性交等罪は成立しません。

夫婦間強制性交等
 夫が,妻に対し,暴行・脅迫を用いて性交等をした場合,強制性交等罪が成立するかが問題となります。
  * 改正後は,妻が「夫」に対し性交等を強制することも本罪の問題となりえます。
 一応,従来の学説は以下のように整理できるかと思われます。

(a)否定説(泉二,札幌高判昭30・9・15)
 かつては,婚姻中については夫婦が互いに性交渉に応ずべき義務があるなどとして,夫婦間では,(暴行罪・脅迫罪はともかく)強制性交等罪は成立しないとする見解も主張されたようです。

(b)限定的肯定説(中森・斎藤・林,町野『犯罪各論の現在』,広島高松江支判昭62・6・18)
 しかし,法律上は夫婦であったとしても,婚姻が破綻している場合には,互いに性交渉に応じるという関係は認められません(上掲広島高松江支判)。
 そこで,伝統的には,婚姻制度が継続的な性交渉を前提とするものであるとして,婚姻が実質的に破綻している場合にかぎって強制性交等罪が成立しうるとされてきました(中森参照)。
   * さらに近時は,婚姻が破綻している場合のほかに,夫が性病やエイズに罹っている場合(林),夫が公衆の面前で妻に性交等を強制する場合や,友人と共に性交等をする場合(町野)などにも,本罪の成立を認めるべきであると主張されています(上掲広島高松江支判は,婚姻の破綻を理由に本罪の成立を肯定したものですが,友人と共に性交をしたという事案でもあります。)。
     このような場合に限定するのは,根底に「夫婦間の場合とほかの場合とをまったく同じに考えるわけにはいかない」(林)という考えがあるものといえるでしょう。

(c)肯定説(西田・伊東・山口・高橋・佐久間・井田・橋本)
 これに対して,夫婦間であっても,原則として強制性交等罪を肯定するという見解が有力になっています。
 意思に反して性交が強制されるかぎり,夫婦間という理由だけで本罪の成立を否定するのは不当であるという考え方といえます(井田参照)。
 たとえば,山口教授は,婚姻関係にあることは,個別の性行為についての同意義務を当然に基礎づけるものではないとして,婚姻関係が破綻している場合でなくても,本罪が成立しうるとされています。

(c')違法性阻却説(大谷)
 なお,肯定説を前提として(強制性交等罪の構成要件該当性を肯定したうえで),違法性阻却の問題であるとする見解もあります。
 この点につき,大谷博士は「本罪の客体はとくに限定が加えられていないから,妻に対して性交等を強制すれば本罪の構成要件に該当する。それゆえ,問題は客体が配偶者であることが違法性阻却事由となるかどうかであり,これは夫婦間の性交渉として社会的相当性の範囲内にあるかどうかに帰着する。」という趣旨の指摘をされています。
   * 東京高判平19・9・26は,「婚姻関係にある者を除外することは,構成要件の解釈としては無理がある」とし,「夫の妻に対する性交を求める権利の行使として違法性が阻却されると解することも考えられるが,かかる権利が存在するとしても,それを実現する方法が社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を超える場合には,違法性を阻却しない」として,「暴行・脅迫を伴なう場合は,適法な権利行使とは認められず,本罪が成立する」旨を判示しています。

       (3) 行 為

 本罪の行為は,客体が,(1)13歳以上のときは,「暴行・脅迫」を用いて,「性交・肛門性交・口腔性交」をすることです。
 (2)13歳未満のときは,単に「性交・肛門性交・口腔性交」をすることです(外形上「同意」があっても「強制性交等」になります。)。
 「13歳未満」の者に対し,「暴行・脅迫」を用いて,性交等をしたときは,本条に該当する「強制性交等罪」一罪となります(大判大2・11・19参照)。

暴行・脅迫(前段)
 本罪(前段)の暴行・脅迫は,相手方の反抗を著しく困難にさせる程度のものと解されます(最判昭24・5・10参照,通説)。
 この程度の暴行・脅迫を加えるときに,被害者の意思に反する性交等の強制があるといえるでしょう。
 後で勉強する「強盗罪」のように,反抗を抑圧する程度である必要まではないわけです。

性交等
 「性交」とは,男性器(陰茎)を「女性器(膣)」に入れることです。
 「肛門性交」とは,男性器を「肛門」に入れることです。
 「口腔性交」とは,男性器を「口腔」に入れることです。

着手時期(前段)
 本罪の着手時期は,客体が「13歳以上」のときは,強制性交等罪を実現する意思で「暴行・脅迫」を開始した時点となります。
   * たとえば「甲は,知り合いの女性Aを自己が運転する自動車に乗せて同車内において強いて性交しようと考え,Aに対し『自宅まで送ってあげる。』とうそを言ったところ,Aはこれを信じて同車に乗り込んだが,甲の態度を不審に思い即座に同車から降りた。」という場合は,まだ暴行・脅迫に着手していないので,強制性交等罪の未遂にはなりません。

暴行・脅迫が性交等の直接の手段でない場合
 暴行・脅迫が,性交等の直接の手段でない場合でも,「性交等に至る客観的な危険性」(切迫した危険性)が認められるときは,着手が肯定されます(大谷・川端・伊東・山口)。
 最決昭45・7・28も,被告人が,通行中の女性に対して車内で性交をする目的で,これをダンプカーの運転席に引きずり込もうとした時点において,すでに性交に至る客観的な危険性が明らかに認められるとして,強制性交の着手があったとしています。
   ※ 上記判例の事案では,その後,性交にまで至っています。通常,強制性交が既遂になったときは,着手時期を問題とする実益はあまりないのですが,本件では,引きずり込もうとした段階の暴行により被害者に傷害を負わせたという事情がありました。それゆえ,強制性交の着手があれば後述の強制性交等致傷罪(181条2項)となり,これがなければ傷害罪(204条)等にとどまるという違いがあったわけです。
   * なお,「自動車に引きずり込もうとした時点=強制性交等の着手だ」という短絡的な暗記は厳禁です。あくまで当該時点において「性交等に至る客観的な危険性」が認められるかどうかをしっかり認定することが重要です。
     上記最決より前の下級審判例ですが,「被告人が通行中のA女に性交しようとして,運転席に1人,後部座席に2人が乗車している軽4輪乗用車の助手席に同女を連れ込もうとした(自らもA女と共に助手席に乗ろうとした)」という事案において,助手席に2人も乗車することはきわめて困難なこと,友人3名は車中において拱手傍観していたこと,被告人の暴行もA女の腰部に抱きつき口を手で覆い引っ張った程度であることから,「抵抗するA女を車内に引きずり込むことすら不可能な状況にあったもので,同女が性交をされる具体的危険性はその段階では生じていたものとは認められない」旨を判示したものがあります(京都地判昭43・11・26,齊藤『アクチュアル刑法各論』92頁参照)。

強制わいせつ罪の着手との区別
 なお,強制わいせつ罪と強制性交等罪は,いずれも暴行・脅迫の開始時が着手時期となるため,未遂の段階では行為者の意図がいずれにあったかによって区別せざるをえないとされます(大判大3・7・21,大谷・佐久間)。
 
着手時期(後段)
 客体が「13歳未満」のときは,性交等を始めた時点が着手時期となります。
   * 「自動車内で性交をするつもりで,12歳の少女に『家まで送ってあげる』と誘った。」というだけでは,本罪の実行の着手は認められません。

既遂時期
 「性交等をした」というためには,交接作用を標準とします(大判大2・11・19参照)。つまり,男性器の一部を挿入した時点で既遂となるのであって,射精したかどうかなどは関係ありません。犯人が性的に満足を得たかどうかは重要ではないわけです(佐久間)。
   * なお,本条の性交等は,暴行・脅迫の結果として行われたものであることを要します。したがって,反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫があっても,そのためではなく,真意に出た同意にもとづいて性交が行われたような場合には,既遂にはなりません(大コメ参照)。仮に「甲は,性交を強制する目的で,成年女子に小刀を突きつけたが,相手方は畏怖することもなく性交に応じた。」という場合であれば,未遂罪にとどまることになります。

       (4) 構成要件的故意

 前段の罪の構成要件的故意は,「13歳以上の者に対し,暴行・脅迫を用いて,性交・肛門性交・口腔性交をすること」の認識・認容です。本罪の暴行・脅迫は,性交等のため被害者の反抗を困難にする意思で行われることを要します。
 後段の罪の構成要件的故意は,「13歳未満の者に対し,性交等をすること」の認識・認容です。
 年齢に関する錯誤については,前条と同様です。

   * なお,改正により,本条の法定刑の下限が懲役3年から「5年」に引き上げられました。
     そのため,強姦罪より重く処罰するために設けられた集団強姦等罪(下限は懲役4年)は不要となり削除されました。今後は「強制性交等罪の共同正犯」(60条・177条)として処断されることになるでしょう。

 

                                                               準強制わいせつ罪・準強制性交等罪