各論目次

      2 強姦罪(177条)

(強姦)

 177条 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者 → 強姦の罪とし,3年以上の有期懲役

       13歳未満の女子を姦淫した者 → 同様(3年以上の有期懲役)

 強姦罪は,①「暴行・脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫する」(前段)か,②「13歳未満の女子を姦淫する」(後段)という罪です。

保護法益

 本罪の保護法益は,女子の性的自由です。

       (1) 主 体

 本罪の主体は,(女子を姦淫するものなので)原則として男子です。この点において,本罪は一種の真正身分犯とされます(最決昭40・3・30,通説)。

 ただし,女子も,間接正犯・共同正犯(上掲最決)としては本罪の主体となりえます。

       (2) 客 体

 本罪の客体は,「女子」です。

   * 「女子」というと,①「おんなの子。むすめ。」という意味を思い浮かべるかもしれませんが,②「おんな。女性。婦人。」という意味もあります(大辞林)。もちろんここでは②の意味で使われています。

   ※ なお,屍姦は本罪を構成しません。

   ※ 女子が「男子」に性交を強制した場合は,前条(強制わいせつ罪)の問題となります。

夫婦間強姦

 夫が暴行・脅迫を用いて妻を姦淫した場合,強姦罪が成立するかが問題となっています。

   ※ この点は,「妻も客体となるか」と議論されますが(大谷・山中・佐久間),「夫も主体となるか」という問題の立て方をする見解(平川・齊藤)もあるようです。

 一応,学説は以下のように整理できるかと思われます。

A.否定説(泉二,札幌高判昭30・9・15)

 かつては,婚姻中については夫婦が互いに性交渉に応ずべき義務があるなどとして,妻に対しては,(暴行罪・脅迫罪はともかく)強姦罪は成立しないとする見解も主張されたようです。

B.限定的肯定説(青柳・町野・中森・斎藤・林,広島高松江支判昭62・6・18参照)

 しかし,法律上は夫婦であったとしても,婚姻が破綻している場合には,互いに性交渉に応じるという関係は認められません(上掲広島高松江支判)。

 そこで,伝統的には,婚姻制度が継続的な性交渉を前提とするものであるとして,婚姻が実質的に破綻している場合にかぎって強姦罪が成立しうるとされてきました(中森参照)。

   * さらに近時は,婚姻が破綻している場合のほかに,夫が性病やエイズに罹っている場合(林),夫が公衆の面前で妻を姦淫する場合や,友人と共に妻を姦淫する場合(町野)などにも,本罪の成立を認めるべきであると主張されています(上掲広島高松江支判は,婚姻の破綻を理由に本罪の成立を肯定したものですが,友人と共に姦淫したという事案でもあります。)。

     このような場合に限定するのは,根底に「夫婦間の場合とほかの場合とをまったく同じに考えるわけにはいかない」(林)という考えがあるものといえるでしょう。

C.肯定説(平川・西田・山中・山口・佐久間・井田,なお大谷,東京高判平19・9・26)

 これに対して,夫婦間であっても,原則として強姦罪を肯定するという見解が有力になっています。

 妻であっても,女子の意思に反して性交が強制される以上は,本罪の成立を認めるべきであるという考え方といえます(井田参照)。

 たとえば,山口教授は,婚姻関係にあることは,個別の性行為についての妻の同意義務を当然に基礎づけるものではないとして,婚姻関係が破綻している場合でなくても,本罪が成立しうるとされています。

 なお,大谷教授は,強姦罪の客体は「女子」とされているにすぎず,とくに限定が加えられていないから,妻に対して強姦に及べば本罪の構成要件に該当するとします。それゆえ,問題は客体が妻であることが違法性阻却事由となるかどうかであり,これは夫婦間の性交渉として社会的相当性の範囲内にあるかどうかに帰着するとされます。

   * 上掲東京高判も,「強姦罪の構成要件は,その対象を『女子』と規定しているだけであり,婚姻関係にある女子を除外することは,構成要件の解釈としては無理がある。そこで,夫の妻に対する性交を求める権利の行使として違法性が阻却されると解することも考えられるが,かかる権利が存在するとしても,それを実現する方法が社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を超える場合には,違法性を阻却しない」とし,「暴行・脅迫を伴なう場合は,適法な権利行使とは認められず,強姦罪が成立する」旨を判示しています。

       (3) 行 為

 本罪の行為は,客体が,①13歳以上の女子のときは,「暴行・脅迫」を用いて「姦淫」すること,②13歳未満の女子のときは,単に「姦淫」することです(13歳未満のときは,外形上「同意」があっても「強姦」になります。)。

 「13歳未満の女子」を「暴行・脅迫」を用いて姦淫したときは,本条に該当する「強姦罪」一罪とされます(大判大2・11・19)。

暴行・脅迫(前段)

 本罪の暴行・脅迫(前段)は,相手方の反抗を著しく困難にさせる程度のものと解されます(最判昭24・5・10,通説)。

 この程度の暴行・脅迫を加えるときに,被害者の意思に反する性的行為の強制があるといえるでしょう(井田参照)。

姦 淫

 「姦淫」とは,男性器を女性器に挿入すること(性交)をいいます。

着手時期(前段)

 本罪の着手時期は,客体が「13歳以上の女子」のときは,強姦罪を実現する意思で「暴行・脅迫」を開始した時点となります。

 暴行・脅迫が,姦淫の直接の手段でない場合でも,「強姦に至る客観的な危険性」(切迫した危険性)が認められるときは,着手が肯定されます(大谷・川端・山口)。

 最決昭45・7・28も,被告人が,通行中の女性を車内で強姦する目的で,ダンプカーの運転席に引きずり込もうとした時点において,すでに強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められるとして,強姦の着手があったとしています。

   ※ 上記判例の事案では,その後,姦淫にまで至っています。通常,強姦が既遂になったときは,着手時期を問題とする実益はあまりないのですが,本件では,引きずり込もうとした段階の暴行により被害者に傷害を負わせたという事情がありました。それゆえ,強姦の着手があれば後述の強姦致傷罪(181条2項)となり,これがなければ傷害罪(204条)等にとどまるという違いがあったわけです。

   * なお,「自動車に引きずり込もうとした時点=強姦の着手だ」という短絡的な暗記は厳禁です。あくまで当該時点において「強姦に至る客観的な危険性」が認められるかどうかをしっかり認定することが重要です。

     上記最決より前の下級審判例ですが,「被告人が通行中のA女を強姦しようとして,運転席に1人,後部座席に2人が乗車している軽4輪乗用車の助手席に同女を連れ込もうとした(つまり自らもA女と共に助手席に乗ろうとした)」という事案において,助手席に2人も乗車することはきわめて困難なこと,友人3名は車中において拱手傍観していたこと,被告人の暴行もA女の腰部に抱きつき口を手で覆い引っ張った程度であることから,「抵抗するA女を車内に引きずり込むことすら不可能な状況にあったもので,同女が姦淫される具体的危険性はその段階では生じていたものとは認められない」旨を判示したものがあります(京都地判昭43・11・26,齊藤『アクチュアル刑法各論』92頁参照)。

 なお,強制わいせつ罪と強姦罪は,いずれも暴行・脅迫の開始時が着手時期となるため,未遂の段階では行為者の意図がいずれにあったかによって区別せざるをえないとされます(大判大3・7・21,大谷・佐久間)。

着手時期(後段)

 客体が「13歳未満の女子」のときは,姦淫行為を始めた時点が着手時期となります。

既遂時期

 「姦淫した」というためには,交接作用を標準とし,生殖作用を遂げたことを要しません(大判大2・11・19)。

 つまり,男性器の一部を挿入した時点で既遂となるのであって,射精したかどうかは関係ありません。

   ※ 犯人が性的に満足を得たかどうかは重要ではないわけです(佐久間)。なお,林教授は,強姦罪は,誰の子を生むかの自由ではなく,誰と性交渉をもつかの自由を保護するものであるとして,判例は正当であるとされます。

       (4) 故意(構成要件的故意)

 前段の罪の故意は,「暴行または脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫」することの認識・認容です。本罪の暴行・脅迫は,姦淫のため被害者の反抗を困難にする意思で行われることを要します。

 後段の罪の故意は,「13歳未満の女子を姦淫」することの認識・認容です。

 年齢に関する錯誤については,前条と同様です。

 

                                                                   準強制わいせつ罪・準強姦罪