各論目次

       3 準強制わいせつ罪・準強姦罪(178条)

  (準強制わいせつ及び準強制性交等)
 178条1項 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,
       又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,
       わいせつな行為をした者
          →176条の例による(6月以上10年以下の懲役)
      2項 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,
       又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,
       性交等をした者
          → 前条の例による(5年以上の有期懲役)

   ※ 2項のみ改正されました。ここでは,改正前の判例・学説等についても,原則として,準強姦を「準強制性交等」に置き換えて記述することにします。

準強制わいせつ罪(1項)
 準強制わいせつ罪は,人の心神喪失・抗拒不能に乗じるか,心神喪失・抗拒不能にさせて,わいせつな行為をするという罪です。

準強制性交等罪(2項)
 準強制性交等罪は,人の心神喪失・抗拒不能に乗じるか,心神喪失・抗拒不能にさせて,性交等(性交・肛門性交・口腔性交)をするという罪です。

趣 旨
 本罪は,任意性を害してわいせつ行為等をする者を処罰する趣旨から,人の心神喪失・抗拒不能の状態を利用して,わいせつ行為・性交等をした者を,強制わいせつ罪(176条)・強制性交等罪(177条)と同様に処罰するための規定となります(大谷参照)。

       (1) 行 為

        ア 心神喪失

 本条にいう「心神喪失」とは,意識喪失(睡眠・泥酔など),高度の精神障害などによって性的行為につき正常な判断ができない状態にあることをいいます(通説)。
   * 睡眠(熟睡)については,(a)「心神喪失」に位置づける見解(最判平20・1・22,板倉・堀内・西田・高橋・伊東・山口・橋本,塩谷『基本刑法Ⅱ』)と,(b)「抗拒不能」の方に位置づける見解(大判大13・11・7,団藤・大塚・大谷・中森・川端・斉藤・前田)があります。本HPでは(a)前者に従っておきます。もっとも,両者の区別はさほど重要ではないとされています(中森)。

 刑事責任能力における心神喪失(39条1項)と同じ意味ではなく,重度の精神薄弱者などで,責任無能力(39条1項の「心神喪失」)の状態であっても,性交の意味を理解できる場合には,本罪における「心神喪失」にはあたらないと解されます。
   * 39条1項にいう「心神喪失」とは,精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力のない状態,または,その弁識に従って行動する能力のない状態をいいます。

        イ 抗拒不能

 「抗拒不能」とは,心神喪失以外の理由で,物理的・心理的に抵抗することが不可能または著しく困難な状態にあることをいいます(通説)。
 たとえば,縛られて物理的に抵抗できない場合や,錯誤・無知から心理的に抵抗できない状態にある場合などが,これにあたります。
 雇用関係・身分関係にもとづく従属的地位にあるために「抗拒不能」とみられる場合もありえます(大塚・大谷・山中)。
   * 「成年の女子に対し『結婚してあげる』と甘言を弄して,相手がそれを信じたのに乗じて性交をした」というような場合は,準強制性交等罪にはならないとされます。
   * なお,自己に対してわいせつ行為・性交等が行われていることの認識を欠く場合が「心神喪失」で,その認識はあるが抵抗が著しく困難な場合が「抗拒不能」であると区分する見解もあります(西田・伊東・塩谷,批判;林)。

        ウ 「乗じ」

 心神喪失・抗拒不能に「乗じ」とは,これらの状態にあることを利用することを意味します。
 たとえば,被害者が睡気などから犯人を夫であると誤認している状態を利用して性交をした場合は,これにあたります(広島高判昭33・12・24)。

        エ 「させて」

 心神喪失・抗拒不能に「させ」るとは,暴行・脅迫以外の手段を用いて,これらの状態を作り出すことを意味します。
 たとえば,催眠術を施用して身動きできない状態にする場合(東京高判昭51・8・16)や,多量に飲酒させて泥酔状態に陥れる場合などが,「心神を喪失させ」にあたります。
 また,医師が治療のために必要であると信じさせて抵抗できない状態にさせる場合などが,「抗拒不能にさせ」にあたりえます。
   * 大判大15・6・25は,患者の少女が医師を信頼しているのに乗じ,必要な施術をするかのように誤信させ,陰部に薬を挿入すると偽り,目を閉じさせるなどして性交をしたという事案につき,「抗拒不能」にさせた場合にあたるとしています。
     他方で,東京地判昭58・3・1は,被告人が霊感治療と称して女子に性交をしても,正常な判断能力を有する成人女性が性行為をもつことを認識しながらこれに応じた場合,暴行・脅迫と同程度に相手方の自由意思を無視したと認めざるをえないような特段の事情が認められないときは,「抗拒不能」にあたらないとしています。

 この点に関し,大谷博士は,本罪は,強制わいせつ罪・強制性交等罪と同じ法定刑で処罰されるのであるから,暴行・脅迫を用いたのと同程度に相手方の自由意思を侵害してわいせつ行為・性交等をすることを要するとして,単に治療のためと偽っただけでは本罪は成立しないが,性交等を拒否することにより被ると予想される危難を避けるため,それを受け容れるほかはないとの心理状態に追い込んだときは,本罪にあたるとされています(東京地判昭62・4・15参照)。

   * 「暴行」・「脅迫」をもって,心神喪失・抗拒不能にさせて,わいせつ行為・性交等をした場合は,本条ではなく,176条(強制わいせつ罪)・177条(強制性交等罪)に該当します。たとえば「甲は,性交をするために,反抗を著しく困難にする程度の暴行をA女に加えたところ,その暴行により同人が脳震とうを起こして失神した。甲は失神した同人に性交をした。」という場合,準強制性交等罪ではなく,強制性交等罪(177条)が成立することになります。
     他方,他の目的(制裁など)で暴行を加えて失神させた後,その状態を利用して性交をしたときは,準強制性交等罪(178条2項)が適用されることになります。第三者の暴行・脅迫によって女子が抗拒不能の状態に陥っているのを利用して,同人に性交をした場合も,準強制性交等罪が成立します。

        オ わいせつ行為・性交等

 わいせつ行為・性交等の意義については,それぞれ176条・177条の解説を参照してください。

        カ 着手時期

 心神喪失・抗拒不能に「乗じ」る場合は,わいせつ行為・性交等を開始したときが着手となります。
   * 必ずしもわいせつ行為・性交等自体であることは要しないが,これらに向けて通常行われる接着した行為を開始することが必要とされます(条解)。
 心神喪失・抗拒不能に「させ」る場合は,わいせつ行為・性交等をする目的をもって心神喪失・抗拒不能にさせる行為を開始したときが着手となります。
   * たとえば,「甲は,A(14歳)を熟睡させたうえ,同人にわいせつな行為をすることを企て,睡眠薬を混入させた缶飲料を同人に飲ませた。」という場合,準強制わいせつ未遂罪が成立しうるでしょう。

       (2) 構成要件的故意

 本罪の構成要件的故意としては,心神喪失・抗拒不能に乗じ,またはこれらの状態にさせて,わいせつ行為・性交等をすることの認識・認容が必要です。
 睡眠薬を多量に飲んで寝ている女子を,それを知らずに縛り上げて性交したというように,客観的には準強制性交等となるが,主観的には強制性交等の認識だったという場合は,性的自由の侵害の点で構成要件が重なり合うので,準強制性交等罪が成立するものと解されます(津地判平4・12・14)。

 

                                                                監護者わいせつ・監護者性交等罪