各論目次

※ 改正未対応(2項)。平成29年7月13日以降の事件では改正後の規定が適用されます。

      3 準強制わいせつ罪・準強姦罪(178条)

(準強制わいせつ及び準強姦)

 178条1項 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,

         又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,

         わいせつな行為をした者                → 176条の例による(6月以上10年以下の懲役)

     2項 女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,

        又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,

        姦淫した者                         → 前条の例による(3年以上の有期懲役)

準強制わいせつ罪(1項)

 準強制わいせつ罪は,人の心神喪失・抗拒不能に乗じるか,心神喪失・抗拒不能にさせて,わいせつな行為をするという罪です。

準強姦罪(2項)

 準強姦罪は,女子の心神喪失・抗拒不能に乗じるか,心神喪失・抗拒不能にさせて,姦淫するという罪です。

趣 旨

 本罪は,任意性を害してわいせつ行為・姦淫をする者を処罰する趣旨から,人の心神喪失・抗拒不能の状態を利用して,わいせつ行為・姦淫をした者を,強制わいせつ罪(176条)・強姦罪(177条)と同様に処罰するための規定となります(大谷)。

       (1) 行 為

        ア 心神喪失

 本条にいう「心神喪失」とは,精神または意識の障害によって,性的行為について正常な判断ができない状態にあることをいいます(通説)。

 たとえば,泥酔・重篤な精神障害などにより,自己の性的自由が侵害されていることの認識を欠く場合などが,これにあたります。

 それゆえ,刑事責任能力に関する「心神喪失」(39条1項)と同じものではなく,重度の精神薄弱者などで,責任無能力(39条1項の「心神喪失」)の状態であっても,性交の意味を理解できる場合には,本条にいう「心神喪失」ではないと解されます。

   * 39条1項にいう「心神喪失」とは,精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力のない状態,または,その弁識に従って行動する能力のない状態をいいます。

        イ 抗拒不能

 「抗拒不能」とは,心神喪失以外の理由で,物理的・心理的に抵抗できない状態,または抵抗するのが著しく困難な状態にあることをいいます(通説)。

 原因のいかんは問いません。たとえば,縛られていて物理的に身体の自由が奪われている状態にある場合や,錯覚・無知などから行為の意味を理解できないために心理的に抵抗ができない状態にある場合が,これにあたります。

   * 「熟睡」も一般的には「抗拒不能」の典型例としてあげられますが(大判大13・11・7),最判平20・1・22では「心神喪失」とされています(なお山口)。もっとも,両者の区別はさほど重要ではないとされます(中森)。

 雇用関係・身分関係にもとづく従属的地位にあるために「抗拒不能」とみられる場合もありえます(大塚・大谷・山中)。

   ※ なお,成年の女子に対して,結婚すると甘言を弄して,相手がそれを信じたのに乗じて姦淫した場合などは,準強姦罪は成立しないとされます。

        ウ 「乗じ」

 心神喪失・抗拒不能に「乗じ」とは,これらの状態にあることを利用することを意味します。

 たとえば,被害者が睡気などから犯人を夫であると誤認している状態を利用して姦淫した場合は,これにあたります(広島高判昭33・12・24)。

        エ 「させて」

 心神喪失・抗拒不能に「させ」るとは,暴行・脅迫以外の手段を用いて,これらの状態を作り出すことを意味します。

   * 「暴行」・「脅迫」をもって,心神喪失・抗拒不能にさせて,わいせつ行為・姦淫をした場合は,本条ではなく,176条(強制わいせつ罪)・177条(強姦罪)に該当します。

     たとえば,女子に対して姦淫の目的で暴行を加え,その心神を喪失させて姦淫したときは,強姦罪(177条)が成立することになります。

     他方,他の目的(制裁など)で暴行を加えて失神させた後,その状態を利用して姦淫したときは,準強姦罪が適用されることになります。

 たとえば,催眠術を施用して身動きできない状態にする場合(東京高判昭51・8・16)や,多量に飲酒させて泥酔状態に陥れる場合などが,「心神を喪失させ」にあたります。

 また,医師が治療のために必要であると信じさせて抵抗できない状態にさせる場合などが,「抗拒不能にさせ」にあたりえます。

   * 大判大15・6・25は,患者の少女が医師を信頼しているのに乗じ,必要な施術をするかのように誤信させ,陰部に薬を挿入すると偽り,目を閉じさせるなどして姦淫したという事案につき,「抗拒不能」にさせた場合にあたるとしています。

     他方で,東京地判昭58・3・1は,被告人が霊感治療と称して女子を姦淫しても,正常な判断能力を有する成人女性が性行為をもつことを認識しながらこれに応じた場合,暴行・脅迫と同程度に相手方の自由意思を無視したと認めざるをえないような特段の事情が認められないときは,「抗拒不能」にあたらないとしています。

 この点に関し,大谷教授は,本罪は,強制わいせつ罪・強姦罪と同じ法定刑で処罰されるのであるから,暴行・脅迫を用いたのと同程度に相手方の自由意思を侵害してわいせつ行為・姦淫をすることを要するとして,単に治療のためと偽っただけでは本罪は成立しないが,姦淫を拒むことにより被ると予想される危難を避けるため,それを受け容れるほかはないとの心理状態に追い込んだときは,本罪にあたるとされています(東京地判昭62・4・15参照)。

        オ わいせつ行為・姦淫

 わいせつ行為・姦淫の意義については,それぞれ176条・177条の解説を参照してください。

        カ 着手時期

 心神喪失・抗拒不能に「乗じ」る場合は,わいせつ行為・姦淫を開始したときが着手となります。

   ※ 必ずしもわいせつ行為・姦淫自体であることは要しないが,これらに向けて通常行われる接着した行為を開始することが必要とされます(条解)。

 心神喪失・抗拒不能に「させ」る場合は,わいせつ行為・姦淫する目的をもって心神喪失・抗拒不能にさせる行為を開始したときが着手となります。

       (2) 故意(構成要件的故意)

 本罪の故意としては,心神喪失・抗拒不能に乗じ,またはこれらの状態にさせて,わいせつ行為・姦淫をすることの認識・認容が必要です。

 睡眠薬を多量に飲んで寝ている女子を,それを知らずに縛り上げて姦淫したというように,客観的には準強姦となるが,主観的には強姦の認識だったという場合は,性的自由の侵害の点で構成要件が重なり合うので,準強姦罪が成立するものと解されます(津地判平4・12・14)。

 

                                                                            集団強姦等罪