各論目次

       6 強制わいせつ等致死傷罪(181条)

 (強制わいせつ等致死傷)
 181条1項 176条(強制わいせつ),178条1項(準強制わいせつ)若しくは179条1項(監護者わいせつ)の罪
       又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって人を死傷させた者 
          → 無期又は3年以上の懲役
     2項 177条(強制性交等),178条2項(準強制性交等)若しくは179条2項(監護者性交等)の罪
       又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって人を死傷させた者 
          → 無期又は6年以上の懲役

   ※ 3項(集団強姦等致死傷)は削除されました(平29改正)。

    ※ 以下,平29改正部分については,主に,橋本『刑法各論[初版]』126頁~130頁と,有斐閣のウェブサイトで提供されている井田教授の新規定の解説(以下『井田解説』)を参照させていただいています(他は改正前の文献です。)。
     なお,ここでは,
改正前の判例・学説等についても,原則として,強姦を「強制性交等」に置き換えて記述することにします。

 「強制わいせつ等致死傷罪」は,強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪・監護者わいせつ罪・これらの未遂罪を犯し,よって人を死傷させる罪です(1項)。
 「強制性交等致死傷罪」は,強制性交等罪・準強制性交等罪・監護者性交等罪・これらの未遂罪を犯し,よって人を死傷させる罪です(2項)。
 強制わいせつ罪などを基本犯として,死傷結果を生じさせる結果的加重犯です。
   * なお,2項については,改正により法定刑の下限が懲役5年から「6年」に引き上げられました。

       (1) 原因行為

わいせつ行為・性交等(→死傷)/暴行・脅迫(→死傷)
 本罪の基本となる行為(死傷結果を発生させる原因となる行為)は,「わいせつ行為・性交等」自体だけでなく,その「手段である暴行・脅迫」も含みます(最決昭43・9・17)。

密接関連行為(→死傷)
 またさらに,わいせつ行為・性交等の機会に行われた「密接に関連する行為」も含まれると解されます(大塚・川端・前田・佐久間,なお中森・山口,反対;大谷・曽根・井田)。
 わいせつ行為等の際には,逃れようとした被害者が転倒して怪我をすることなどは刑事学上十分に予想されることなので,本条がこのような場合を除外する趣旨とは解されません。
 たとえば,性交しようとして女子に抱きついたが,振りきって逃げたので,100メートルほど追いかけたところ,同女が転んで負傷したというような場合には,強制性交等致傷罪が成立します。
 判例においても,甲がA女に性交を強制した後,他の共犯者による性交の危険を感じた同女が,逃走する際,転倒して傷害を受けたときは,強制性交等致傷罪が成立するとされたものがあります(最決昭46・9・22)。

   * 判例は,本罪は,死傷の結果がわいせつ行為・性交等に「随伴する行為」から生じたものであれば足りるとして,強制性交等未遂後,逃走のため傷害を負わせたときも,これにあたるとしています(大判明44・6・29)。
     近時の事案としても,熟睡中の被害者にわいせつ行為をした者が,覚せいした被害者から衣服をつかまれるなどされたため,わいせつ行為をする意思を喪失した後,その場から逃走するため,暴行を加えて傷害を負わせたという場合に,その暴行は,準強制わいせつ行為に「随伴するもの」といえるとして,強制わいせつ致傷罪が成立するとされたものがあります(最決平20・1・22)。
     なお,わいせつ行為に「随伴するもの」かどうかについては,時間的・場所的接着性があるか,意思の同一性があるかなどの諸要素が総合考慮された上で判断すべきとされています(西田参照)。

   * 他方,性交を遂げた後,被害者に内密にするように迫り,暴行を加えて負傷させたときは,本罪ではなく,強制性交等罪と傷害罪の併合罪とされます(大判大15・5・14)。
     また,性交を遂げた後,発覚をおそれて殺意を生じ,被害者を殺害したときは,強制性交等罪と殺人罪の併合罪になるものとされています(大判昭7・2・22)。

   * なお,本罪の基本犯には各未遂罪も含まれているので,基本行為によって死傷させた場合は,たとえ性交等が未遂に終わったとしても,本罪が成立することになります。
     たとえば「被害者に性交を強制する目的で暴行を加えたところ,同人が死亡したため,性交をするに至らなかった。」という場合も,強制性交等致死罪が成立します。
     また「甲は,A女に暴行を加えて反抗を著しく困難にさせたうえで性交をしようと思い,同人の顔面を殴ったところ,同人に逃げられ,性交をすることはできなかったが,前記殴打行為により同人に鼻骨骨折の傷害を負わせた。」という場合,強制性交等致傷罪が成立します。
     それゆえ「甲は,性交をするつもりでA女に暴行を加えてけがをさせたが,悔悟して性交をやめた。」という場合でも,中止未遂にはなりません。

       (2) 死傷結果

 処女膜を裂傷させること(最大判昭25・3・15)や,性病を感染させること(大判大14・4・23)なども,傷害にあたります。
 判例は,傷害が「軽度」なものであっても本罪が成立するとしています(最判昭24・7・26)。
 学説上は,本罪の法定刑の高さから,軽度の内出血などは本条の傷害には含まれない(前田)とするなど,限定的に解する見解が多いようです。

       (3) 因果関係

 基本行為(わいせつ行為・性交等,その手段である暴行・脅迫,密接に関連する行為)と,死傷結果との間には,因果関係が存在することを要します。
 性交の目的で暴行を加えたところ,被害者が救いを求めて2階から飛び降り負傷した場合などには,因果関係が認められています(最決昭35・2・11)。
 他方,強制性交の被害者が自殺した場合は,通常,因果関係は認められないとされます(通説)。
   ※ なお,数名がA女に対する強制性交を共同実行して傷害を与えた場合は,その傷害がだれの行為により生じたのか不明でも,全員が強制性交等致傷罪の責任を負うことになります(最判昭24・7・12参照)。

       (4) 故意(構成要件的故意)

死傷結果について故意は不要
 本罪は,結果的加重犯なので,基本犯について故意があれば,死傷結果の認識は必要ではありません。
   ※ 過失(死傷結果の予見可能性)は必要だとするのが通説ですが,判例は反対です。

死傷結果の故意がある場合
 では,死傷結果について故意があった場合は,どうすべきでしょうか。
 強制性交のケースを例に,殺人の故意(殺意)を有していた場合と,傷害の故意を有していた場合とに分けて考えてみましょう。
  * ここでは,(1)「死亡」と「傷害」が「死傷させた」として同一条文で規定されていること,(2)死傷結果について故意がない場合に本条が適用されること(に争いがないこと)を,頭の片隅に置いておいてください。

        ア 殺人の故意を有していた場合

(参考)                                                        

 強制性交等罪(§177)

 

 

  懲役20年~ 5年

 強制性交等致死罪(§181Ⅱ)

 

  無期懲役

  懲役20年   ~ 6年

 殺人罪(§199)  

 死 刑

  無期懲役

  懲役20年   ~ 5年

                                              *12条1項

   観念的競合(§54Ⅰ前) - 1個の行為が2個以上の罪名に触れるときは,
                    その最も重い刑により処断する。

事 案
 たとえば「甲は,性交をするため,殺意をもってA女に強度の暴行を加え同女に性交をするとともに,同暴行により同女を死亡させた。」という場合,甲の罪責はどうなるでしょうか。
  * この論点については,改正により,181条2項の法定刑の下限が懲役5年から「6年」に引き上げられたことが影響すると考えられます(廃止された集団強姦致死罪の下限が6年だったので,その議論が類推できるでしょう。))。

(a)「強制性交等致死罪」とする説(?)
 まず,一応,思いつくのは,殺人の故意がある場合でも,「強制性交等致死罪」(181条2項)のみを成立させればよいのではないかという考え方です。
   * 後で勉強するように,「強盗」の場合は,殺人の故意があるときであっても,強盗致死(強盗殺人)一罪(240条後段)とするのが判例・通説ですが,これと同様に考えようとするわけです。
 しかし,これによると刑の上限が「無期懲役」となってしまいます。他方,通常の殺人罪では「死刑」もありえます(199条)。そうすると,性交をして殺した方が刑が軽くなるという不均衡を生じます。
 よって,この考え方を採ることはできません。
   ※ 後掲昭31年判決の事案において弁護人が主張したようですが(笠井=前田『ケースブック刑法』参照),学説としては現に存在はしないと思われます。

(b)「強制性交等致死罪」と「殺人罪」の観念的競合とする説(大判大4・12・11,最判昭31・10・25,平野・香川・中山・藤木・川端・船山・國田・前田・木村・松宮,なお団藤)
 「強制性交等致死罪」の法定刑からみると,本罪が殺人の故意ある場合を含んでいるとは解されません。
 そこで,判例・従来の通説は,殺人の故意がある場合については,「強制性交等致死罪」のほかに,「殺人罪」の成立を認めて,観念的競合(54条1項前段)としてきました。
 これによると,処断刑は「死刑又は無期若しくは6年以上の懲役」となります。それゆえ,通常の殺人より軽くなるという不均衡は生じません。
   * 観念的競合の場合,「その最も重い刑により処断する」とされます。
     これは,判例によると,「数個の罪名中,最も重い刑を定める法条によって処断する」が,「他の法条の最下限の刑より軽く処断することはできない」という趣旨であるとされます(最判昭28・4・14)。
     強制性交等致死罪の法定刑は「無期又は6年以上の懲役」で,殺人罪の法定刑は「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」です。それゆえ,「死刑」のある殺人罪が「最も重い刑を定める法条」となり(10条1項本文・9条),これによって処断されることになります。
     ただし,殺人罪の最下限の刑が「懲役5年」なのに対して,強制性交等致死罪の最下限の刑は「懲役6年」です。そうすると,「懲役6年」より軽く処断することはできないことになります。
     したがって,本件の場合の処断刑は,上記のとおり「死刑又は無期若しくは6年以上の懲役」ということになるわけです。
 この点,故意がある場合でも,強制性交等罪を犯して人を死亡させたという強制性交等致死罪の要件を充たすということはできるでしょう。
   * 法文上,「よって」死傷させたとありますが,これは故意を「不要」とするのみと解しうるので(斎藤参照),故意のある場合に適用できないとまでいう必要はないと思われます。
 また,刑の均衡という観点からも,故意がある点については殺人罪として評価することは妥当と解されます。
 ただし,この見解に対しては,1人の人の死を(「致死」と「殺人」で)二重に評価することになるという批判があります。

(c)「強制性交等罪」と「殺人罪」の観念的競合とする説(井田解説,大塚・大谷・曽根・中森・斎藤・伊東・佐久間,齊藤『アクチュアル各論』,なお高橋・山口)
 (b)説のように,「強制性交等致死罪」を殺人の故意ある場合を含まないと解するのであれば,故意がある場合には本罪は適用しないというのが簡明とはいえます。
 そこで,この場合には,「強制性交等罪」(177条)と「殺人罪」(199条)の観念的競合とすればよいのではないかとも考えられます。
 この見解は,本論点にかぎれば難点が少ないものとして,支持を増やしてきました。
 ただ,後でみるように,仮に「傷害」の故意がある場合にも同様の理論構成をとろうとすると(大塚・曽根),不都合が生じます。
 また,新たに,改正により,「強制性交等致死罪」の法定刑の下限が「懲役6年」に引き上げられたことの影響を受けざるをえないと思われます(私見)
   * この場合,(c)説によると,強制性交等罪の法定刑が「5年以上の有期懲役」で,殺人罪の法定刑が「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」なので,後者によって処断されることになります。
     しかし,そうすると,殺人の故意のない場合には「強制性交等致死罪」(181条2項)として軽くても「懲役6年」なのに(この点は争いはありません。),(c)説によれば,故意のある場合は「懲役5年」もありうるという不均衡を生じることになります。

本HPの立場
 以上の検討からすると,結果の二重評価という形式的な批判はあるものの,刑の不均衡を避けることができるのは,(b)説のみということになります。
 したがって,本HPでは(b)説を採ります(前田・木村参照)。
   ※ 高橋教授・山口教授は,従来,(c)説を妥当としつつも,上記と同じ不均衡を生じた集団強姦致死の場合には(b)説のように考えざるをえないとされていました。そうだとすると,改正をふまえて(b)に改説される可能性も考えられます。
     他方,齊藤彰子教授は,(c)説を支持し,集団強姦致死が殺意をもって行われた場合には「実際の運用において,6年未満の刑を言い渡さないようにするほかない」旨を述べられていました。改正後も(c)説を採るのであれば,このような配慮が必要でしょう。
     ただ,とくに今回の改正もふまえると,判例が(b)説の立場を変える可能性はほとんどないように思われます(私見)。

        イ 傷害の故意があった場合

(参考)                                                                      

 強制性交等罪(§177)

 

 懲役20年 ~ 5年

 

 強制性交等致傷罪(§181Ⅱ)

 無期懲役

 懲役20年 ~ 6年

 

 傷害罪(§204)

 

 懲役15年 ~ 1月

 罰金50万円 ~ 1万円**

                                           *12条1項 **15条本文

 では,傷害の故意があった場合はどうでしょうか。

(a')「強制性交等致傷罪」とする説(井田解説、大谷・中森・船山・前田・高橋・山口・佐久間・木村・齊藤
 傷害の故意ある場合については,強制性交等致傷罪(181条2項)に含まれていると考えて,同罪のみが成立するとすれば足りるとする見解が有力です。
 つまり,「強制性交等致傷罪」については,結果的加重犯と故意犯の両方の形態を持っているものと考えるわけです。
 これによると,刑の上限が「無期懲役」なので,殺人の場合(前記(a)説)とは異なり,通常の傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)より刑が軽くなるという不均衡は生じません。
 ただし,この見解によると,単一の条文であるにもかかわらず,致死の場合と致傷の場合とで扱いが異なることは避けられません。
   * ここで(a')説を採るとしても,殺人の場合については,「強制性交等致死罪」のみを認める見解((a)説)は採れないので,他の構成((b)説・(c)説)を支持するほかありません。そうすると,181条2項の「死傷」のうち,「死」は故意のある場合を含まず,「傷」は故意のある場合を含むというように,異なる解釈をせざるをえなくなるわけです。
   ※ なお,団藤博士は,本説を採り,(整合上)「致死」の場合も故意がある場合を含むとしたうえで,刑の不均衡を避けるため,殺人罪の成立も認めることで,結果的には前記B説と同じ結論を採られていました。

(b')「強制性交等致傷罪」と「傷害罪」の観念的競合とする説(香川・中山・國田)
 殺人の場合における(b)説と統一的に考えると,傷害の故意ある場合については,「強制性交等致傷罪」と「傷害罪」の観念的競合が成立するということになります。
 この見解は,傷害の故意がない場合との刑の均衡上,強制性交等致傷罪の成立を認める一方で,同罪が故意ある場合を含まない結果的加重犯であるという考え方を一貫するため,傷害罪の成立も認めるものといえます。
 これによると,強制性交等致傷罪の刑(無期又は6年以上の懲役)の方が傷害罪の刑よりも(上限・下限とも)重いので,前者により処断されることになります。したがって,刑の不均衡という問題は生じません。
 ただし,やはり同じ傷害を二重に評価することになるとの批判があります。

(c')「強制性交等罪」と「傷害罪」の観念的競合とする説(大塚・曽根)
 殺人の場合における(c)説と統一的に考えると,強制性交等致傷罪(181条2項)は故意ある場合には適用しないことになるので,本件については,「強制性交等罪」(177条)と「傷害罪」(204条)の観念的競合ということになります。
 しかし,この見解によると,被害者を故意に傷害した犯人の方が,傷害する気のなかった犯人より刑が軽いことになってしまい,不合理です。
   * 傷害の故意がない場合,強制性交等致傷罪が成立するので,「無期又は6年以上の懲役」の刑が科せられることになります。
     他方,(c')説によると,傷害の故意がある場合,「強制性交等罪」と「傷害罪」のうち,重い前者の刑(5年以上(・20年以下)の有期懲役)で処断されることになります。
     しかしそうすると,傷害の故意がない場合よりも,故意がある場合の方が刑が軽くなるという不均衡を生じるわけです。

検討(1)
 本HPは,前述のとおり,殺人の場合については,「強制性交等致死罪」と「殺人罪」の観念的競合とする見解((b)説)を支持します。
 これとの統一的な扱いを重視すれば,傷害の場合についても,「強制性交等致傷罪」と「傷害罪」の観念的競合とする見解((b')説)を採るべきことになります((b)説-(b')説,國田)。

検討(2)
 ただ,殺人の場合と異なり,傷害の場合は「強制性交等致傷罪」のみでも不都合がないことからすれば,統一的な取り扱いにこだわらずに,ここでは(a')説を採ってもよいように思われます。
 この場合,異なる扱いをする理由が問題となりますが,強制性交等の実態を考えれば,殺人の故意がある場合は稀であるのに対して,傷害の故意は(とくに未必の故意を含めれば)一般的に伴うものということができるでしょう
 そこで,強制性交等致「死」罪は故意ある場合を含まないが,強制性交等致「傷」罪は故意ある場合も含んでいると解することも不当ではないといえるわけです((b)説-(a')説,前田・木村)。
   ※ これに対して,國田弁護士(元検事)は,実務の経験から強制性交等と殺人も密接に関連しているとして,とりもなおさず死亡や傷害の結果が生じた場合は,強制性交等致死傷罪の成立を認め,そのうえで故意ある場合は別途それぞれの故意犯の成立を認めるべきであると主張されています(『司法試験現代刑法各論』)。

       (5) 罪 数

 強制性交等によって被害者を傷害し,さらに死亡させたときは,傷害は致死の結果に吸収されて,強制性交等致死罪のみが成立します(最判昭23・11・16)。
 強制性交の目的で暴行を加え,死亡させた直後に性交したときは,包括して強制性交等致死罪が成立します(最判昭36・8・17,大塚・大谷・川端)。
   ※ 判例が包括して強制性交「既遂」の結果的加重犯として本罪の成立を認めたことに対しては,屍姦は性交でない以上,強制性交「未遂」の結果的加重犯にとどまるとの異論もあります(平野・高橋・山口)(もっとも前記のように本罪の基本犯は未遂でもよいので結論自体には大差は生じません。)。

 

                                                                      社会的法益に対する罪4