各論目次

※ 改正未対応。平成29年7月13日以降の事件では改正後の規定が適用されます。

      6 強制わいせつ等致死傷罪(181条)

(強制わいせつ等致死傷)

 181条1項 176条(強制わいせつ)若しくは178条第1項(準強制わいせつ)の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって人を死傷させた者

            ↓

         無期又は3年以上の懲役

     2項 177条(強姦)若しくは第178条第2項(準強姦)の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって女子を死傷させた者

            ↓

         無期又は5年以上の懲役

     3項 178条の2(集団強姦等)の罪又はその未遂罪を犯し,よって女子を死傷させた者

            ↓

         無期又は6年以上の懲役

 「強制わいせつ等致死傷罪」は,強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪・これらの未遂罪を犯し,よって人を死傷させる罪です(1項)。

 「強姦等致死傷罪」は,強姦罪・準強姦罪・これらの未遂罪を犯し,よって女子を死傷させる罪です(2項)。

 「集団強姦等致死傷罪」は,集団強姦罪・集団準強姦罪・これらの未遂罪を犯し,よって女子を死傷させる罪です(3項)。

 強制わいせつ罪等を基本犯として,死傷結果を生じさせる結果的加重犯です。

非親告罪

 本罪は,法益侵害の程度が重大であり,訴追を被害者個人の意思にゆだねることができないことから,親告罪とはされていません(大塚)。

       (1) 原因行為

わいせつ行為・姦淫(→死傷)/暴行・脅迫(→死傷)

 本罪の基本となる行為(死傷結果を発生させる原因となる行為)は,「わいせつ行為・姦淫」自体だけでなく,その「手段である暴行・脅迫」も含みます(最決昭43・9・17)。

密接関連行為(→死傷)

 またさらに,わいせつ行為・姦淫の機会に行われた「密接に関連する行為」も含まれると解されます(大塚・川端・前田・佐久間,なお中森・山口,反対;大谷・曽根)。

 わいせつ行為の際には,逃れようとした被害者が転倒して怪我をすることなどは刑事学上十分に予想されることなので,本条がこのような場合を除外する趣旨とは解されません。

 たとえば,強姦しようとして女子に抱きついたが,振りきって逃げたので,100メートルほど追いかけたところ,同女が転んで負傷したというような場合には,強姦致傷罪が成立します。

   ※ 基本犯には各未遂罪も含まれているので,基本行為によって傷害を負わせた場合は,たとえ姦淫が未遂に終わっても,強姦致傷罪が成立することになります。

 判例においても,甲がA女を強姦した後,他の共犯者による強姦の危険を感じた同女が,逃走する際,転倒して傷害を受けたときは,強姦致傷罪が成立するとされたものがあります(最決昭46・9・22)。

   * 判例は,本罪は,死傷の結果がわいせつ・強姦罪に「随伴する行為」から生じたものであれば足りるとして,強姦未遂後,逃走のため傷害を負わせたときも,これにあたるとしています(大判明44・6・29)。

     最近の事案としても,熟睡中の被害者にわいせつ行為をした者が,覚せいした被害者から衣服をつかまれるなどされたため,わいせつ行為をする意思を喪失した後,その場から逃走するため,暴行を加えて傷害を負わせたという場合に,その暴行は,準強制わいせつ行為に「随伴するもの」といえるとして,強制わいせつ致傷罪が成立するとされたものがあります(最決平20・1・22)。

     なお,わいせつ行為に「随伴するもの」かどうかについては,時間的・場所的接着性があるか,意思の同一性があるかなどの諸要素が総合考慮された上で判断すべきとされています(西田94頁参照)。

       ※ 犯行後の行為から死傷結果が生じた場合に関しては,山口教授は本罪の成立を広く肯定することは疑問であるとされますが,前田教授は,「姦淫目的の暴行・脅迫と接着」して行われ,逃走のための行為として「通常随伴する」行為について,肯定しうるとされています。

   * 他方,強姦を遂げた後,被害者に内密にするように迫り,暴行を加えて負傷させたときは,本罪ではなく,強姦罪と傷害罪の併合罪とされます(大判大15・5・14)。

     また,強姦終了後,発覚をおそれて殺意を生じ,被害者を殺害したときは,強姦罪(177条)と殺人罪(199条)の併合罪になるものとされています(大判昭7・2・22)。

       (2) 死傷結果

 処女膜を裂傷させること(最大判昭25・3・15)や,性病を感染させること(大判大14・4・23)なども,傷害にあたります。

 判例は,傷害が「軽度」なものであっても本罪が成立するとしています(最判昭24・7・26)。

 学説上は,本罪の法定刑の高さから,軽度の内出血などは本条の傷害には含まれない(前田)とするなど,限定的に解する見解が多いようです。

       (3) 因果関係

 基本行為(わいせつ行為・姦淫,その手段である暴行・脅迫,密接に関連する行為)と,死傷結果との間には,因果関係が存在することを要します。

 強姦の目的で暴行を加えたところ,被害者が救いを求めて2階から飛び降り負傷した場合などには,因果関係が認められています(最決昭35・2・11)。

 他方,強姦の被害者が自殺した場合は,通常,因果関係は認められないとされます(通説)。

   ※ なお,数名がA女の強姦を共同実行して傷害を与えた場合は,その傷害がだれの行為により生じたのか不明でも,全員が集団強姦致傷罪の責任を負うことになります(最判昭24・7・12参照)。

       (4) 故意(構成要件的故意)

死傷結果について故意は不要

 本罪は,結果的加重犯なので,基本犯について故意があれば,死傷結果の認識は不要です。

   ※ 過失(死傷結果の予見可能性)は必要だとするのが通説ですが,判例は反対です。

死傷結果の故意がある場合

 では,死傷結果について故意があった場合は,どうすべきでしょうか。

 強姦のケースを例に,殺人の故意(殺意)を有していた場合と,傷害の故意を有していた場合とに分けて考えてみましょう。

  * ここでは,①「死亡」と「傷害」がそれぞれ同一条文で規定されていること,②死傷結果について故意がない場合に本条が適用されること(に争いがないこと)を,頭の片隅に置いておいてください。

        ア 殺人の故意を有していた場合

(参考)

 強姦罪(§177)

 

 

 懲役20年~ 3年

 集団強姦罪(§178-2)

 

 

 懲役20年 ~ 4年

 強姦致死罪(§181Ⅱ)

 

 無期懲役

 懲役20年 ~ 5年

 集団強姦致死罪(§181Ⅲ)

 

 無期懲役

 懲役20年 ~ 6年

 殺人罪(§199)

 死 刑

 無期懲役

 懲役20年 ~ 5年

                                                     * 12条1項

 観念的競合(§54Ⅰ前) - 1個の行為が2個以上の罪名に触れるときは,その最も重い刑により処断する

         (ア) 従来の議論(集団強姦でない場合)

 この問題は,「集団強姦致死傷罪」(181条3項)の追加(平成16年)によって新たな問題を生じているのですが,ここではまず集団強姦ではない場合(たとえば,甲が,A女が抵抗したら殺害してでも姦淫の目的を遂げようと考え,実際にA女を強姦するとともに殺害したというような事案)を念頭に,従来の議論を確認しておきます。

A.「強姦致死罪」とする説(?)

 まず,一応,思いつくのは,殺人の故意がある場合でも,「強姦致死罪」(181条2項)のみを成立させればよいのではないかという考え方です。

   ※ 後で勉強するように,「強盗」の場合は,殺人の故意があるときであっても,強盗致死(強盗殺人)一罪(240条後段)とするのが判例・通説ですが,これと同様に考えようとするわけです。

 しかし,これによると刑の上限が「無期懲役」となってしまいます。他方,通常の殺人罪では「死刑」もありえます(199条)。そうすると,強姦して殺した方が刑が軽くなるという不均衡を生じます。

 よって,この考え方を採ることはできません。

   ※ 後掲昭和31年判決において弁護人が主張したようですが(笠井=前田『ケースブック刑法』参照),学説としては現に存在はしないと思われます。

B.「強姦致死罪」と「殺人罪」の観念的競合とする説(大判大4・12・11,最判昭31・10・25,平野・香川・中山・藤木・川端・船山・國田・前田・木村・松宮,なお団藤)

 「強姦致死罪」の法定刑からみると,本罪が殺人の故意ある場合を含んでいるとは解されません。

 そこで,判例・従来の通説は,殺人の故意がある場合については,「強姦致死罪」のほかに,「殺人罪」の成立を認めて,観念的競合(54条1項前段)としてきました。

 これによると,強姦致死罪より殺人罪の刑の方が重いので,後者により処断されることになります。それゆえ,通常の殺人より軽くなるという不均衡は生じません。

 この点,確かに,故意がある場合でも,強姦罪を犯して女子を死亡させたという強姦致死罪の要件を充たすということはできるでしょう。

   ※ 法文上,「よって」死傷させたとありますが,これは故意を「不要」とするのみと解しうるので(斎藤参照),故意のある場合に適用できないとまでいう必要はないと思われます。

 また,刑の均衡という観点からも,故意がある点については殺人罪として評価することは妥当と解されます。

 ただし,この見解に対しては,1人の人の死を(「致死」と「殺人」で)二重に評価することになるという批判があります。

C.「強姦罪」と「殺人罪」の観念的競合とする説(大塚・大谷・曽根・中森・斎藤・山口・佐久間・井田・齊藤

 B説のように,「強姦致死罪」を殺人の故意ある場合を含まないと解するのであれば,故意がある場合には本罪は適用しないというのが簡明とはいえます。

 そこで,この場合には,「強姦罪」(177条)と「殺人罪」(199条)の観念的競合とすればよいとする考え方も有力です。

 これによると,強姦罪の刑(3年以上の有期懲役)より殺人罪の刑の方が重いので,後者により処断されることになります。

 この見解は,本論点にかぎれば難点が少ないものとして,支持を増やしてきました。

   ※ もっとも,たとえば,強制わいせつに伴う殺人が未遂に終わり,被害者が負傷したにとどまった場合,強制わいせつ罪(181条1項)と殺人未遂罪(203条・199条)の観念的競合では「2年6月」の懲役も可能となり(43条本文・68条3号),傷害結果にすら故意のない強制わいせつ致傷罪の刑の下限である3年の懲役を下回ってしまうという問題は指摘されます(松宮)。

 ただ,後でみるように,仮に「傷害」の故意がある場合にも同様の理論構成をとろうとすると(大塚・曽根),不都合が生じます。

 また,新たに,集団強姦致死の場合の刑の不均衡が問題となっています。

         (イ) 集団強姦致死の場合

 そこで,集団強姦の場合において,殺人の故意があったときに,上記各見解からどのような結論が導かれるのかをみてみましょう。

A.「集団強姦致死罪」とする説(?)

 仮にA説に立つと,この場合は「集団強姦致死罪」(181条3項)のみが成立することになります。

 しかし,その刑の上限は,やはり「無期懲役」なので,この考えは採れません。

B.「集団強姦致死罪」と「殺人罪」の観念的競合とする説

 上記B説によれば,この場合は,「集団強姦致死罪」(181条3項)と「殺人罪」(199条)の観念的競合となります。

 そうすると,処断刑は「死刑又は無期若しくは6年以上の懲役」となります。もちろん,刑の不均衡という問題は生じません。

   * 観念的競合の場合,「その最も重い刑により処断する」とされます。

     これは,判例によると,「数個の罪名中,最も重い刑を定める法条によって処断する」が,「他の法条の最下限の刑より軽く処断することはできない」という趣旨であるとされます(最判昭28・4・14)。

     集団強姦致死罪の法定刑は「無期又は6年以上の懲役」で,殺人罪の法定刑は「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」です。それゆえ,「死刑」のある殺人罪が「最も重い刑を定める法条」となり(10条1項本文・9条),これによって処断されることになります。

     ただし,殺人罪の最下限の刑が「懲役5年」なのに対して,集団強姦致死罪の最下限の刑は「懲役6年」です。そうすると,「懲役6年」より軽く処断することはできないことになります。

     したがって,本件の場合の処断刑は,上記のとおり,「死刑又は無期若しくは6年以上の懲役」ということになるわけです。

C.「集団強姦罪」と「殺人罪」の観念的競合とする説

 上記C説によれば,この場合は,「集団強姦罪」と「殺人罪」の観念的競合を認めることになります。

 これによると,集団強姦罪の刑(4年以上の有期懲役)より殺人罪の刑(死刑又は無期若しくは5年以上の懲役)の方が(上限・下限とも)重いので,後者により処断されることになります。

 しかし,そうすると,殺人の故意のない場合には「集団強姦致死罪」(181条3項)として軽くても「懲役6年」なのに,この説によれば,故意のある場合は「懲役5年」もありうるという不均衡を生じることになります。

         (ウ) 本HPの立場

 以上の検討からすると,結果の二重評価という形式的な批判はあるものの,刑の不均衡を避けることができるのは,B説のみということになります。

 したがって,本HPはB説を採ります(前田・木村)。

   ※ 山口教授は,(集団強姦以外の場合は)C説を妥当としながら,集団強姦致死の場合にはB説を採らざるをえない旨を述べられています(ただ,例外的にせよ,このような処理を認めるということになると,「結果の二重評価」という批判も絶対的なものではないということになろうかと思われます(私見)。)。

     他方,齊藤彰子准教授は,集団強姦の場合にもC説を維持しつつ,「集団強姦致死が殺意をもって行われた場合には,実際の運用において,6年未満の刑を言い渡さないようにするほかない」旨を述べられています(『アクチュアル刑法各論』)。

        イ 傷害の故意があった場合

(参考)

 強姦罪(§177)

 

 懲役20年 ~ 3年

 

 集団強姦罪(§178-2)

 

 懲役20年 ~ 4年

 

 強姦致傷罪(§181Ⅱ)

 無期懲役

 懲役20年 ~ 5年

 

 集団強姦致傷罪(§181Ⅲ)

 無期懲役

 懲役20年 ~ 6年

 

 傷害罪(§204)

 

 懲役15年 ~ 1月

 罰金50万円 ~ 1万円**

                                                    *12条1項                **15条本文

         (ア) 従来の議論(集団強姦でない場合)

 では,傷害の故意があった場合はどうでしょうか。まず,集団強姦以外の場合をみてみましょう。

A’.「強姦致傷罪」とする説(大谷・中森・船山・前田・山口・佐久間・木村・井田・齊藤

 傷害の故意ある場合については,強姦致傷罪(181条2項)に含まれていると考えて,同罪のみが成立するとすれば足りるとする見解が有力です。

 つまり,「強姦致傷罪」については,結果的加重犯と故意犯の両方の形態を持っているものと考えるわけです。

 これによると,刑の上限が「無期懲役」なので,殺人の場合(前記A説)とは異なり,通常の傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)より刑が軽くなるという不均衡は生じません。

 ただし,この見解によると,単一の条文であるにもかかわらず,致死の場合と致傷の場合とで扱いが異なることは避けられません。

   * ここでA’説を採るとしても,殺人の場合については,「強姦致死罪」のみを認める見解(A説)は絶対に採れないので,他の構成(B説・C説)を支持するほかありません。そうすると,181条2項の「死傷」のうち,「死」は故意のある場合を含まず,「傷」は故意のある場合を含むというように,異なる解釈をせざるをえなくなるわけです。

     ※ なお,団藤博士は,本説を採り,(整合上)「致死」の場合も故意がある場合を含むとしたうえで,刑の不均衡を避けるため,殺人罪の成立も認めることで,結果的には前記B説と同じ結論を採られます。

B’.「強姦致傷罪」と「傷害罪」の観念的競合とする説(香川・中山・國田)

 殺人の場合におけるB説と統一的に考えると,傷害の故意ある場合については,「強姦致傷罪」と「傷害罪」の観念的競合が成立するということになります。

 この見解は,傷害の故意がない場合との刑の均衡上,強姦致傷罪の成立を認める一方で,同罪が故意ある場合を含まない結果的加重犯であるという考え方を一貫するため,傷害罪の成立も認めるものといえます。

 これによると,強姦致傷罪の刑(上限は無期懲役)の方が傷害罪の刑(上限は懲役15年)よりも重いので,前者により処断されることになります。したがって,刑の不均衡という問題は生じません。

 ただし,やはり同じ傷害を二重に評価することになるとの批判があります。

C’.「強姦罪」と「傷害罪」の観念的競合とする説(大塚・曽根)

 殺人の場合におけるC説と統一的に考えると,強姦致傷罪(181条2項)は故意ある場合には適用しないことになるので,本件については,「強姦罪」(177条)と「傷害罪」(204条)の観念的競合ということになります。

 しかし,この見解によると,被害者を故意に傷害した犯人の方が,傷害する気のなかった犯人より刑が軽いことになってしまい,不合理です。

   * 傷害の故意がない場合,強姦致傷罪が成立するので,「無期又は5年以上の懲役」の刑が科せられることになります。

     他方,C’説によると,傷害の故意がある場合,「強姦罪」と「傷害罪」のうち,重い前者の刑(「3年以上の有期懲役」)で処断されることになります。

     しかしそうすると,傷害の故意がない場合よりも,故意がある場合の方が刑が軽くなるという不均衡を生じるわけです。

         (イ) 集団強姦致傷の場合

 次に,集団強姦の場合の各説からの帰結も確認しておきましょう。

A’.「集団強姦致傷罪」とする説

 まず,A’説からは,この場合も「集団強姦致傷罪」(181条3項)のみが成立することになります。

 法定刑は「無期又は6年以上の懲役」なので,とくに不均衡の問題は生じません。

B’.「集団強姦致傷罪」と「傷害罪」の観念的競合とする説

 B’説からは,「集団強姦致傷罪」(181条3項)と「傷害罪」(204条)の観念的競合となります。

 刑の不均衡は生じませんが,やはり傷害の二重評価との批判はあるでしょう。

C’.「集団強姦罪」と「傷害罪」の観念的競合とする説

 C’説によると,「集団強姦罪」(178条の2)と「傷害罪」(204条)の観念的競合となりますが,重い前者の刑(4年以上の有期懲役)で処断しても,やはり故意のない集団強姦致傷罪(無期又は6年以上の懲役)よりも軽くなってしまいます。

         (ウ) 検 討

B’説

 本HPは,前述のとおり,殺人の場合については,「強姦致死罪」と「殺人罪」の観念的競合とする見解(B説)を支持します。

 これとの統一的な扱いを重視すれば,傷害の場合についても,「強姦致傷罪」と「傷害罪」の観念的競合とする見解(B’説)を採るべきことになります(B説-B’説,國田)。

A’説

 ただ,殺人の場合と異なり,傷害の場合は「強姦致傷罪」のみでも不都合がないことからすれば,統一的な取り扱いにこだわらずに,ここではA’説を採ってもよいように思われます。

 この場合,異なる扱いをする理由が問題となりますが,強姦の実態を考えれば,殺人の故意がある場合は稀であるのに対して,傷害の故意は(とくに未必の故意を含めれば)一般的に伴うものということができるでしょう

 そこで,強姦致「死」罪は故意ある場合を含まないが,強姦致「傷」罪は故意ある場合も含んでいると解することも不当ではないといえるわけです(B説-A’説,前田・木村)。

   ※ これに対して,國田弁護士(元検事)は,実務の経験から強姦と殺人も密接に関連しているとして,とりもなおさず死亡や傷害の結果が生じた場合は,強姦致死傷罪の成立を認め,そのうえで故意ある場合は別途それぞれの故意犯の成立を認めるべきであると主張されています(『司法試験現代刑法各論』)。

       (5) 罪 数

 強姦によって被害者を傷害し,さらに死亡させたときは,傷害は致死の結果に吸収されて,強姦致死罪のみが成立します(最判昭23・11・16)。

 強姦の目的で暴行を加え,死亡させた直後に姦淫したときは,包括して強姦致死罪が成立します(最判昭36・8・17,大塚・大谷・川端)。

   ※ 判例が包括して強姦「既遂」の結果的加重犯として本罪の成立を認めたことに対しては,屍姦は強姦でない以上,強姦「未遂」の結果的加重犯にとどまるとの異論もあります(平野・山口)(もっとも前記のように本罪の基本犯は未遂でもよいので結論に大差は生じません。)。

 

                                                                      社会的法益に対する罪4