各論目次

   第1款 傷害罪(204条)

 204条 人の身体を傷害した者  15年以下の懲役または50万円以下の罰金

 「傷害」罪は,「人の身体を傷害」する罪です。

    第1目 客 体

 本罪の客体は,「人の身体」です。

 「人」とは,「他人」を意味します。

 したがって,行為者自身の身体に対する傷害(自傷行為)は,本罪を構成しません。

    第2目 行 為

     第1 意 義

 本罪の行為は,「傷害」することです。

生理的機能障害説(判例・通説)

 「傷害」の意味については,争いがありますが,A.暴行との区別の明確化から,「人の生理的機能に障害を与えること」と解するのが妥当であると考えます(生理的機能障害説,最決昭32・4・23,平野・堀内・斎藤・西田・前田・高橋・林・山口・井田)。

   * ほかに,B.人の身体の完全性を害することとする見解(身体完全性侵害説,小野・瀧川),C.人の生理的機能に障害を与えること及び身体の外形に重要な変更を加えることとする見解(折衷説,大塚・大谷・伊東)もあります。

     たとえば,「甲はVの長髪を同人が寝ている間に無断で切断・剃去した」という場合,B説・C説からは,傷害罪が成立することになります。

     これに対して,A.生理的機能障害説からは,このような場合,傷害罪は成立しません。不法な有形力の行使として暴行罪(208条)で評価すれば足りると解されます。

     なお,毛髪(陰毛)を「引き抜く」行為は,表皮を損傷し血管組織を破壊するので(林),A.生理的機能障害説からも「傷害」にあたることになります(大阪高判昭29・5・31)。

具体例

 次のようなものが「傷害」の例としてあげられます。

   膣口しゃ開・発赤(大判明44・4・28)

   湖中に突き落とすことによる失神(大判昭8・9・6)

   眼の充血・周辺の腫脹(大判昭8・12・16)

   病毒の感染(最判昭27・6・6)

   胸部疼痛(最決昭32・4・23)

   慢性頭痛症・睡眠障害(最決平17・3・29)

   ノイローゼ(東京地判昭54・8・10)

   下痢

     第2 方 法

暴行による傷害(有形的方法による場合)

 傷害は,「暴行」(有形的方法)による場合が一般的であるといえます。

 殴って骨折させるような場合が傷害にあたることは容易にイメージできるでしょう。

暴行によらない傷害(無形的方法による場合)

 もっとも,刑法は「人の身体を傷害し」と規定しており,傷害の方法に限定を加えてはいません。したがって,傷害の結果を生じさせることができる方法であれば,暴行によらない場合(無形的方法)でもかまいません。

 たとえば,脅迫により畏怖させて精神障害を生じさせる場合や,嫌がらせ電話を繰りかえしてノイローゼにさせる場合(前掲東京地判昭54・8・10)などが,これにあたります。

 近時の最高裁判例も,「1年半にわたり,隣人に向けて,ラジオや目覚まし時計を大音量で鳴らし続けてストレスを与え,慢性頭痛症・睡眠障害等を負わせた行為」が,傷害にあたるとしています(最決平17・3・29)。

   * 本件は「暴行によらない傷害」を認めたものとされますが(福山『百選』(6版)),他方,暴行罪のところで見るように,人の周辺で「大太鼓や鉦などを打ち鳴らす行為」は「暴行」にあたるとされています(最判昭29・8・20)。

     騒音が騒音の域を超えて「暴行」となるかの限界は微妙といわざるをえませんが(福山),上記最決の1審では「騒音の程度が被害者の身体に物理的な影響を与えるものとまではいえない」として暴行にはあたらないという認定がされています。

「暴行による場合」と「暴行によらない場合」との相違

 「暴行による場合」と「暴行によらない場合」とは,とくに傷害の結果が発生しなかったときに違いが大きくなります。

 傷害罪には未遂処罰規定がありません。それゆえ,傷害の結果が発生しなかったとき,「暴行による場合」であれば暴行罪で処罰することが可能ですが,「暴行によらない場合」には同罪で処罰することもできないわけです。

   * 傷害の故意の要否にも影響しますが,この点は後述します。

争いのある態様

 人を欺いて落とし穴に誘導し,転落させてケガをさせた場合(詐称誘導)については,A.「暴行によらない傷害」ととらえる見解(内田・堀内・川端・山中・前田,なお大谷)と,B.被害者を利用した間接正犯であり「暴行による傷害」にあたるとする見解が対立しています。

   * B説については,被害者を「転落させること」を暴行の間接実行とみる見解が多数と思われます(曽根・高橋・中森・林・山口・井田)。

     なお,被害者を「歩かせること」を暴行(の間接実行)とみるような見解もありますが(大塚・斎藤),これに対しては,「転落せずに済んだ場合に暴行罪にあたると解するのは常識に反する」旨の批判がありえます(渡辺『大コメ』参照)。

     他方,A説については,転落させてもケガさえしなければ不可罰とする趣旨なのか(それでよいのか),疑問もあります(私見)。

 淋菌性尿道炎にかかっていることを自覚しながら女性の性器外陰部に陰茎を押し当てて感染させた事案について,判例は「暴行によらず」病毒を感染させたものとしています(最判昭27・6・6)。

 * この点については,「病気を感染させる行為は,それ自体,有形力の行使にあたる場合であって,『暴行による傷害』と解すべきである」などとして批判的な見解も有力です(大塚・大谷・西田・佐久間・井田)。

   他方,たとえば,高橋教授は,「物理力の行使であるか否かは,暴行を手段とする各犯罪構成要件の限界設定などにとって重要な意味があり,暴行概念の拡大は慎重でなければならない」などとして,病毒を感染させることは「暴行によらない傷害」と解すべきであるとされています(同旨;藤木・内田・中森・林,なお平野・山口)。

 腐敗した食品を食べさせて下痢の症状を起こさせるような場合についても,同様の争いがあります。

    なお,たとえば,毒を飲ませる行為などが「暴行」にあたるとすると,「債権者を毒殺して借金の返済を免れた」という場合,強盗利得罪(236条2項)にもとづく強盗殺人罪(240条後段)が成立しうることになります。

     他方,毒を飲ませる行為などは「暴行」にあたらないとすると,「昏酔」にあたる可能性はありますが,昏酔強盗罪(239条)は「財産上の利益」は客体としていないので,上記の場合,同罪は適用されず,したがって強盗殺人罪にもならないことになります。結局,通常の殺人罪(199条)が成立するにとどまることになるでしょう(井田39頁,なお高橋48頁・山口46頁参照)。

    第3目 故意(構成要件的故意)

「傷害の故意」がある場合

 傷害の故意がある場合に,本罪が成立しうることについては問題ありません。

 たとえば,「相手方に怪我をさせるつもりで,顔面を殴って骨折させた」というような場合が典型的といえます。

 また,「相手方がノイローゼにでもなればおもしろいと考えて,無言電話を繰りかえし,同人をノイローゼにさせた」というように,暴行以外の方法(無形的方法)による場合でも,傷害の故意があるときは,本罪が成立することになります(前掲東京地判昭54・8・10)。

「暴行の故意」があるにとどまる場合

 では,たとえば「甲が,暴行を加える意図でVの顔を軽くたたいたところ,同人がバランスを崩して転倒し,全治約1週間を要する後頭部打撲の怪我を負った」というように,「暴行の故意」で,傷害の結果が発生したときに,傷害罪が成立するでしょうか

 この点については,争いがありますが,「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」という208条の文理からすれば,傷害罪は暴行罪の結果的加重犯を含んでいると解すべきです。よって,暴行の故意があれば足りるといえます。

   * 暴行罪が暴行を加えて「傷害するに至らなかったとき」に適用されるものである以上(208条),暴行を加えて傷害するに至ったときには傷害罪が適用されることを予定しているといえるということです。

傷害罪の性質

 以上,要するに,傷害罪は,「傷害の故意犯」と,「暴行の結果的加重犯」とを含んでいるということになります。

 現在では,このような理解が一般的であるといってよいでしょう。

   * なお,あくまでも暴行の結果的加重犯を含むということですから,暴行以外の方法(無形的方法)による場合は,「傷害の故意」が必要だということになります。

     たとえば,無言電話でノイローゼにさせたような場合でも,ノイローゼなどになるという認識がまったくなかったときは,傷害罪は適用できないと考えられます(過失傷害が問題となりうるでしょう。)。

   上記の通説に対して,傷害罪は「傷害の故意がある場合にかぎり成立する」という見解も主張されました(小野)。

     この見解は,傷害罪の規定が故意犯の形式を採っていること,故意犯処罰の原則(38条1項本文)を重視すべきこと,傷害の故意がある場合と暴行の故意しかない場合とを無差別に扱うのは不合理であること,などを根拠とします。

     しかし,この見解によると,「暴行を加えて人を傷害したが,傷害の故意はなかった」という場合,過失傷害罪(209条1項[最高刑は罰金30万円])が適用されることになります。そうすると,傷害するに至らなかったときに暴行罪(208条[最高刑は懲役2年])となるのに比して,刑が軽くなってしまいます。

     そこで,この見解は,このような場合には,過失傷害罪と暴行罪の観念的競合になると主張します。

     しかし,傷害の結果が発生しているのに,「傷害するに至らなかったとき」という暴行罪の規定を適用することは無理があるといわざるをえません。

   ※※ 他方,未遂処罰規定がないことなどを根拠に,傷害罪は「暴行の結果的加重犯を規定したもの」であるとする理解もあったようです(瀧川)。

       しかし,これによると,暴行以外の方法(無形的方法)によって故意に傷害した場合をカバーできなくなってしまいます。

    第4目 違法性阻却事由

正当行為等

 傷害が正当防衛(36条1項)・緊急避難(37条1項本文)として行われた場合はもちろん,治療行為・懲戒権の行使など正当行為(35条)として行われた場合にも,違法性が阻却されます。

 たとえば,「親が未成年者の子に対し懲罰として通常許される程度の体罰を加えたところ,子に予期しない傷害が生じた」というような場合は,傷害罪は成立しません。この場合,違法な暴行が存在しないことによって本罪は成立せず,過失傷害罪を構成しうるにとどまることになります(大塚)。

同意傷害

 また,本罪については,とくに被害者の同意による違法性阻却が問題となります。

 判例は,A.被害者が傷害に同意した場合の傷害罪の成否は,同意の存在だけでなく,「同意を得た動機・目的,傷害の手段・方法,損傷の部位・程度などの諸般の事情を照らし合わせて決すべき」であるとしています(最決昭55・11・13)。

 従来の通説的見解が,「被害者の同意がある場合,他の事情とあいまって,行為者の行為が社会的に相当と認められるとき違法性が阻却される」などとしているのも同旨と考えられています(団藤・大塚・佐久間・伊東,なお成瀬『アクチュアル刑法総論』)。

 これに対して,近時の学説では,B.被害者の同意がある場合,「生命に危険を与えるような重大な傷害でないかぎり違法性を阻却する」という見解が有力になっています(平野・大谷・西田・高橋・山口,なお井田・橋田)。

 この論点については,総論でくわしく勉強することにしましょう。

 

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