各論目次

  第2節 脅迫の罪(222条・223条)

     1 総 説

 脅迫の罪は,①脅迫罪(222条)②強要罪(223条)に分けられます。
 ①脅迫罪には未遂処罰規定はありませんが,②強要罪には未遂処罰規定があります。
   * 刑法上「脅迫」の概念も多義的に用いられますが,強盗罪(236条)などをやった後にまとめたいと思います。 →SKIP

     2 脅迫罪(222条)

  (脅迫)
 222条1項 生命,身体,自由,名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者
             → 2年以下の懲役または30万円以下の罰金
      2項 親族の生命,身体,自由,名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者
             → 前項と同様(2年以下の懲役または30万円以下の罰金)

 「脅迫」罪は,
 「生命・身体・自由・名誉・財産に害を加える旨を告知して人を脅迫」するか(1項)
 「親族の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加える旨を告知して人を脅迫」する(2項)
という罪です。

      (1) 意 義

 脅迫罪の保護法益については,争いがありますが,A.個人の「意思決定の自由」と考えるのが通説的見解といえます(団藤・大塚・堀内・西田・林・佐久間・井田・大コメ)。
 脅迫は,通常,たんに恐怖心を生じさせるためではなく,意思決定に影響を与えて自己の目的を実現しようとして行われることからすれば,本罪も意思の自由に対する罪と理解するのが妥当であるということです(堀内参照)。
   * 脅迫の目的が明らかな場合は強要・強姦・強盗・恐喝等が成立するが,要求が明示されない場合も多いことにかんがみ,要求行為の手段のみを独立して犯罪類型化したものということもできます(西田参照)。
 この立場からは,脅迫罪は,意思決定の自由に対する危険犯ということになります。
   * これに対して,B.脅迫罪の保護法益を「私生活の平穏」と考える見解も有力です(平野・大谷・中森・前田・高橋)。これによれば,本罪は,私生活の平穏に対する侵害犯または危険犯と理解されることになります。
     後で述べるように,強要罪(223条)の保護法益については,「意思決定・意思活動の自由」と考えられているので,A説は脅迫罪と強要罪は性格を同じくするものととらえ,B説は両者は性格を異にするものととらえることになります。
     B説に対しては,この見解によれば吉凶禍福を告げること(たとえば「天罰が下る」)なども脅迫にあたることになるはずであるが,それは「害を加える旨を告知して」という文理に反するという批判があります(西田参照)
        ※ なお,A説・B説は排他的ではなく両者を統合すべきであるとする見解も主張されています(曽根・山口,なお伊東)。

      (2) 客 体

 本罪の行為の客体は,「人」です。
 法人が本罪の客体になるかについては,争いがありますが,裁判例(大阪高判昭61・12・16)・通説は否定に解しています。
 A.通説は,上記のように本罪の保護法益を「意思決定の自由」と考えることを前提に,①その自由を享受しうるのは自然人に限られること,②刑法は本罪の加害の対象として自然人に固有の「生命・身体」を列挙していることなどを理由として,法人は本罪の客体になりえないとします(団藤・大塚・堀内・林・大コメ,結論同旨;伊東)。
 この立場からは,法人の代表者など自然人の生命・身体・自由・名誉・財産に対する加害の告知にあたると評価される場合に,その自然人に対する脅迫罪が成立することになります(上掲大阪高判参照)。
   * これに対して,A.保護法益を同様に「意思決定の自由」と考えつつ,①法人も機関を介して固有の意思決定をしていると考えられること,②本罪において列挙された加害の対象である「名誉・財産」の帰属主体にはなりうることを理由に,法人も本罪の客体になるとする見解も主張されています(西田・佐久間)。
   * なお,B.本罪の保護法益を「私生活の平穏」と考える立場からは,法人にはこれを認めることができないとして否定に解される傾向にあるとされています(大谷・中森・高橋,結論同旨;山口)。

      (3) 行 為

 本罪の行為は,相手方(1項)または親族(2項)の「生命・身体・自由・名誉・財産に対し害を加える旨を告知」して脅迫することです。

       ア 加害の対象

 告知される加害の対象は,相手方または親族の生命・身体・自由・名誉・財産です。
    ※ したがって,「お前のガールフレンドの顔に傷をつけるぞ」と脅しても,本罪にはあたりません。 
 罪刑法定主義の観点から,上記は限定列挙であると考えられます(通説,反対;堀内)。
   * もっとも,たとえば貞操も「自由」に含まれると解することなどにより,個人法益はほぼカバーしうるといえます(山口)。
 同様に,「親族」の範囲も,民法上の親族に限定すべきです(通説,反対;平川[内縁を含む])。つまり,6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族ということになります(同法725条)。たとえば,「妻の実兄」などであれば,これにあたることになります。
   * 妻の姦通(不倫)を公表する旨を通告したときは,夫の名誉に対する害悪の告知ではなく,妻の名誉に対する害悪の告知であって,2項に該当することになります(大判昭5・7・11)。
   * 一定地域の住民が特定人に「共同して交際を絶つ」旨の決議をして通告する行為(村八分)は,相手の人格を蔑視して名誉を侵害するものであって,「名誉」に対する加害の告知にあたるとされます(大判昭9・3・5,団藤・大塚・堀内・曽根・中森,なお高橋・林)。ただし,現在ではこれに批判的な見解も有力です(平野・大谷・西田・山口,なお大コメ)。

       イ 害悪の内容

一般人を畏怖させる程度の害悪の告知
 告知される害悪の内容は,相手方の性質および四囲の状況から判断して,一般に人を畏怖させる(恐怖心を抱かせる)に足りる程度のものであることを要します。
 その程度のものである以上は,加害の具体内容や方法の告知がなくても脅迫となります。
 たとえば,町村合併について抗争が熾烈になっている時期に,現実の出火もないのに「出火見舞申し上げます,火の元に御用心」という文面のはがきを出すことは,これにあたるとされています(最判昭35・3・18)。
    ※ なお,害悪の告知は,明白かつ現在の危険を内包することは必要ではないとされます。それゆえ,たとえば,警察隊長に対し「国民の的となり身を滅ぼすより,辞職せよ」などと記載したビラによってこれを了知させたときは,本罪が成立するとされています(最判昭34・7・24)。

相手方が臆病者の場合
 一般的には人を畏怖させるに足りない程度の害悪の内容であるが,相手方がとくに臆病者であるなど特殊の心理状態において恐怖心を生じるとみられる場合に,行為者がこれを知りつつ害悪を告知することが脅迫となるか。
 この点については争いがありますが,相手方の性質を知って脅迫の意思で行為した以上は,相手方にとっては害悪の告知になると考えられます(大谷)。よって,本HPでは肯定説を支持しておきます(大塚・川端・高橋・伊東・山口・大コメ,反対;堀内・曽根・中森・山中・前田)。

「害を加える旨」の意義
 「害を加える旨」の告知ですから,害悪は将来に発生しうるものであることを要します(西田)。たとえば,事後に「放火したぞ。」と通知したような場合は,脅迫罪にはなりません(大判大7・3・11参照)。
 また,加害が告知者によって左右されうるものでなければなりません。それゆえ,「天罰がくだる」,「信者にならなければ病状が悪化する」など,単に災いの発生を告知する吉凶禍福の予告は,脅迫にあたりません。

間接脅迫
 害悪が第三者によって加えられるものとして告知する場合(間接脅迫)は,行為者の影響力によって加害が実現しうるようなものであることを要します。
 それゆえ,脅迫者は,相手方に対し,みずからその第三者を左右しうる立場にあることを明示的または黙示的に知らせる必要があるものとされます(大谷)。
 たとえば,「お前を恨んでいる者は俺だけではない,ダイナマイトで貴男を殺すと言っている者もある」,「俺の仲間は沢山いて,君をやっつけると相当意気込んでいる」などと告げる行為について,被告人自身または第三者による害悪の告知にあたり,その第三者の決意に影響を与えうる地位にあることを知らせたものであるとして,脅迫にあたるとされたものがあります(最判昭27・7・25)。
   * なお,この場合,相手方が恐怖心をもつ性質を有する害悪の告知かどうかが重要なので,現実に害悪の発生を左右できる立場にある必要はなく,第三者が実在しない虚無人であってもよいとされます。

害悪の内容は違法なものでなくてもよい(判例・通説)
 害悪の内容が違法なものであることを要するかについては,争いがありますが,否定に解します(大判大3・12・1参照,大塚・大谷・川端・西田・前田・林など通説,反対;中森・高橋・伊東,とくに平野・山口[犯罪にあたることを要求])。
 たとえば,虚偽告訴された者が同罪で告訴をする意思がないにもかかわらず,相手方を畏怖させる目的で告訴する旨の通知をしたような場合,その通知が通常畏怖を生じさせるものとして害悪の告知となる以上,脅迫にあたるものと考えられます(上記大判)。
 なお,告訴の通知が権利の行使として正当なものであるときは,違法性が阻却されることになります(大谷)。

       ウ 告知の方法

方法のいかんを問わない
 相手方が加害の告知を認識できればよいので,方法のいかんは問いません。
 文書・口頭・態度のいずれでもよく,明示・黙示のいずれでもかまいません。
 必ずしも直接相手方に対して通知することを要しないので,脅迫状を人の発見しやすい掲示場などにかけておき,これを持ち帰った第三者を通して相手方が閲読したようなときでも,本罪が成立します(大判大8・5・26)。
 通告は,虚無人名義によっても(大判明43・11・15),匿名によっても構いません(大塚)。

成立時期
 加害の告知によって本罪は成立するので,現実に相手方が畏怖したかどうかは問いません(大判明43・11・15)。
 たとえば「甲が,乙に対し『ぶっ殺すぞ。』と怒号した」というような場合,「たまたま乙が剛胆であったため畏怖しなかった」としても,本罪が成立することになります。
   * なお,害悪が相手方に伝達されなかったときは未遂として不可罰となります。たとえば,「甲は,乙に対し『乙宅を爆破する。』旨を記載した手紙を送ったが,乙はこれを開封しないまま廃棄した。」というような場合は,本罪は成立しません。

      (4) 故意(構成要件的故意)

 本罪の故意(構成要件的故意)は,相手方または親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対し害を加える旨を告知することの認識・認容です。
 相手方に恐怖心を抱かせる目的は必要ではありません。
 また,真に害悪を実現しようという意思があったか否かは問いません。

 

                                                                        強要罪