各論目次

     2 未成年者略取・誘拐罪(224条)

 (未成年者略取及び誘拐)
  224条 未成年者を略取し,又は誘拐した者 → 3月以上7年以下の懲役

 「未成年者略取・誘拐罪」は,「未成年者を略取・誘拐する」という罪です。

      (1) 主 体

 本罪の主体には制限はありません。
 前述のとおり,未成年者の保護監督者も本罪の主体になりうると考えます(通説)。
 近時の判例として,共同親権者である夫が,別居・離婚係争中の妻が養育している子(2歳)を連れ去った行為について,本罪が成立するとされたものがあります(最決平17・12・6)。
   * 本決定は,上記行為は本罪の構成要件に該当し,行為者が親権者の1人であることは違法阻却の判断において考慮されるべき事情にとどまるとしたうえで,結論として違法性阻却も否定したものです(反対意見あり)。
   ※ この事案は他の保護監督者の権利を害するものなので,保護法益を「保護監督者の監護権」のみであるとする見解(前掲B説)からも主体性は肯定されるものといえます(島岡『百選Ⅱ』)。

      (2) 客 体

 本罪の客体は,「未成年者」です。
 未成年者とは,20歳未満の者です(民法4条)。嬰児も除外されません。
 20歳未満の既婚者については,A.民法上「未成年者が婚姻をしたときは,成年に達したものとみなす。」(同法753条)とされていることから,本罪の「未成年者」にもあたらないとする見解(藤木・中森・高橋・林・伊東・山口)と,B.心身の発育が不完全なため保護するという趣旨にかんがみ,本罪の「未成年者」にはあたるとする見解(団藤・大塚・大谷・西田・前田・大コメ)があります。

      (3) 行 為

 本罪の行為は,「略取」または「誘拐」することです。

略 取
 「略取」とは,暴行または脅迫を手段として,他人を従来の生活環境から離脱させ,自己または第三者の事実的な支配下に置くことをいいます。
 この場合の暴行・脅迫は,被害者の反抗を抑圧する程度のものであることは必要ではありませんが,被害者を自己または第三者の事実的支配下に置きうる程度のものであることは必要です(大塚・大コメ)。
 嬰児を保護監督者の知らない間に連れ出す行為も,「略取」にあたります(嬰児に対する暴行とみられます(大コメ参照))。
   ※ 高橋教授は「本罪における暴行は固有の意味での暴行ではなく,嬰児を連れ去るような窃取の形態も略取である。」と説明されています。
 暴行・脅迫は,被拐取者に対して加えるか,保護監督者に対して加えるかを問いません。

誘 拐
 「誘拐」とは,欺罔または誘惑を手段として,他人を従来の生活環境から離脱させ,自己または第三者の事実的な支配下に置くことをいいます。
 欺罔は,虚偽の事実で人を錯誤に陥れることを意味します。
 誘惑は,欺罔の程度に至らないが,甘言によって人を惑わし判断を誤らせることを意味します。たとえば未成年者に「外妾か仲居になると高給が得られ着物ももらえる」と告げることは,これにあたりえます(大判大12・12・3)。
 保護監督者を欺き,その同意を得て,未成年者を自己の支配下に置くことも「誘拐」にあたります(大判大13・6・9)。

場所的移動の要否
 略取・誘拐というためには人を場所的に移動させることが必要か,という問題があります。
 この点,今日の学説では,保護監督者を立ち去らせることによって被拐取者に対して事実的支配を設定することも可能であるなどとして,被拐取者を場所的に移動させることは必要ではないとするのが一般的であるといえます(大塚)。
   * 大審院判例(前掲大判大12)は,「拐取罪は人の居所を移させる場合に成立する」としており,必要説を採っているともされますが,その評価には異論もあります(大コメ)。

      (4) 故意(構成要件的故意)

 本罪の故意(構成要件的故意)は,未成年者を略取・誘拐することの認識・認容です。
 客体が未成年者であることの認識を要します。未必的なものでも足ります。
 未成年者を成年者であると誤認した場合は,本罪は成立しません(ただし,営利目的等があれば,次条以下の罪が成立する可能性があります。)。
 なお,本罪(未成年者拐取罪)は,目的犯ではありません。
   * 次条以下でみるように,拐取罪の多くは何らかの目的を主観的構成要件要素としています。これに対して,本罪は,客体の特殊性にかんがみ,目的のいかんを問わず拐取行為があれば成立するものとされています。もっとも,未成年者を拐取した場合でも,営利目的・身の代金目的等で行ったときは,本罪は次条以下のより重い拐取罪に吸収されることになるので注意が必要です(後述)。

      (5) 未遂・既遂

 略取・誘拐の手段を用いたときに,実行の着手が認められて未遂となります。
 これによって未成年者を自己または第三者の事実的支配下に置いたときに,既遂となります。

      (6) 違法性阻却事由

 未成年者の同意が違法性を阻却するかについては,A.そもそも拐取罪については(成年・未成年を問わず)同意による違法性阻却は考えられないとする見解(大塚・井田),B.未成年者の場合は,保護監督者の監護権侵害になるので,違法性は阻却されないとする見解(団藤・藤木),C.十分な判断能力のある未成年者の場合であれば,違法性が阻却されるとする見解(川端・斎藤・佐久間・松宮)があることについては前述しました。C説からは,甘言を弄して19歳の女子大生を旅行に誘い出したような場合,本人が真に同意しているかぎり,違法性が阻却されることになるでしょう。
 他方,十分な判断能力のない未成年者については,その同意は無効であり違法性が阻却されないことは当然です。たとえば,Xが,見知らぬ小学生Aを保護者の不知の間に一泊旅行に連れて行った後,Aを自宅まで送り届けたという場合,Aに意思能力があり真意から同行していたとしても,通常,未成年者誘拐罪が成立することは免れません。

      (7) 他罪との関係

逮捕監禁罪との関係
 略取の手段として逮捕監禁が行われたときは,略取罪と逮捕監禁罪が成立して,1個の行為として観念的競合(54条1項前段)になるものと考えます。
 人を拐取した者が,その後,更に被拐取者を監禁したときは,拐取罪が成立した後に新たな行為によって監禁罪が成立することになるので,拐取罪と監禁罪とは併合罪(45条)になるものと考えます(最決昭58・9・27[身の代金拐取事案],大谷・川端・斎藤・前田)。
   ※ 後者について,牽連犯になるとの考えもありえますが(福田),拐取罪を犯した者が被拐取者を監禁せずに殺害したり遺棄したりすることもあり得ることからすれば,拐取罪と監禁罪は犯罪の通常の形態として一方が他方の手段または結果の関係にあるとはいえないと考えられるので,妥当ではありません。
   * その他の学説については,大コメ11巻390頁等参照。

 

                                                            営利目的等略取・誘拐罪