各論目次

     3 偽計業務妨害罪(233条後段)

 233条後段 虚偽の風説を流布し,又は偽計を用いて,人……の業務を妨害した者
             → 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

 「業務妨害罪」(偽計業務妨害罪)は,虚偽の風説を流布し,または偽計を用いて,人の業務を妨害する罪です。
   * 実務では「業務妨害」という罪名が用いられます(犯罪事実記載の実務 刑法犯)。教科書等では「偽計業務妨害」といい,次条の「威力業務妨害」と併せて「業務妨害」というのが一般的です。

      (1) 客 体

 本罪の行為の客体は,「人の業務」です。
 「業務」とは,職業その他社会生活上の地位にもとづいて継続して行う事務をいいます(大判大10・10・24)。
   * 詳しくは,威力業務妨害罪(次条)の方で併せて勉強しましょう。

      (2) 行 為

 本罪の行為は,虚偽の風説を流布し,または偽計を用いて,人の業務を妨害することです。

       ア 虚偽の風説の流布

 「虚偽の風説を流布」するとは,信用毀損罪に関して述べたように,客観的真実に反する内容の噂を不特定または多数の人に伝播させることをいいます(通説)。
   ※ なお,下級審判例では,「虚偽の風説」とは,行為者が確実な資料・根拠を有しないで述べた事実をいうとしたものがあります(東京地判昭49・4・25)。これは,行為時において科学的に真偽を確定することができない事案を念頭においたものといえますが,通説を前提としても,行為時の学問水準等を基準として真実か否かと故意の有無を判別すれば不合理な結論は生じないといえます(大谷・前田)。

       イ 偽 計

 「偽計」を用いるとは,既述のように,人を欺き,誘惑し,または,人の錯誤・不知を利用することをいうと考えます(通説)。
 具体例としては,以下のようなものがあげられます。
  ① 外面から分からないように漁場の海底に障害物を沈め,漁網を破損させた行為(大判大3・12・3)
  ② 他紙の購読者を奪おうと企て,自己の経営する新聞を改題し体裁等を酷似させて発行した行為(大判大4・2・9)
  ③ 内容虚偽の仮処分申請書を提出し,係判事を欺いて得た仮処分命令にもとづき社屋を明け渡させて経営を不能にした行為(大判昭15・8・8)
  ④ 他人名義で虚偽の電話注文をして,徒労の商品配達をさせた行為(大阪高判昭39・10・5)
  ⑤ そば店に3か月の間に970回にわたり無言電話をかけて業務を妨害した行為(東京高判昭48・8・7)
  ⑥ 「マジックホン」という機器を使用して,電話機に対する課金装置の作動を不可能にした行為(最決昭59・4・27)
       * 本罪の「偽計」は,後で勉強する詐欺罪(246条)の「欺く」行為より広く解され,⑥のように,直接には機械に向けられた(人の意思への働きかけを伴わない)妨害も,これにあたると解されます(通説)。

       ウ 妨 害

 本罪が成立するには必ずしも現実に業務活動が阻害された結果が発生したことは要せず,本罪も抽象的危険犯であると解されます(大判昭11・5・7,最判昭28・1・30[威力事案],堀内・井田・大コメ)。
   ※ 具体的危険犯説も有力ですが(団藤・大塚・川端),本罪については侵害犯説が多数化しています(平野・大谷・中森・西田・伊東・山口)。

      (3) 他罪との関係

 信用を毀損すると同時に業務を妨害した場合,信用毀損罪と業務妨害罪を同質のものと考えれば,単純一罪になるものと解されます(大判昭3・7・14,小野,大コメ12巻87頁参照)。
 ただし,学説では観念的競合とみる立場が有力です(大塚など)。

 

                                                                  威力業務妨害罪