各論目次

  第2節 詐欺・恐喝の罪

   第1款 詐欺の罪

     1 総 説

意 義
 詐欺の罪は,人を欺いて,財物を交付させる行為,または財産上の利益を得る(もしくは他人に得させる)行為,およびこれに準ずる行為を内容とする犯罪です。

犯罪類型
 具体的には,以下のものが規定されています。
  ① 詐欺罪(1項詐欺罪,246条1項) 
  ② 2項詐欺罪(詐欺利得罪,同条2項)  
  ③ 電子計算機使用詐欺罪(246条の2)  
  ④ 準詐欺罪(248条)  
  ※ いずれの罪も未遂が罰せられます(250条)。  ▶
   * 「背任罪」(247条)も,「詐欺の罪」の下に規定されています。これはドイツ刑法にならったものとされます。しかし今日,背任罪は,詐欺とは性質を異にし,横領罪に類似するものとしてこれと併せて体系化すべきであるとする考え方が一般的です(大谷・大コメ参照)。したがって,本HPでも横領罪の後で勉強したいと思います。

準用規定
 以下の規定は「詐欺の罪」にも準用されます(251条)。
  ① 他人の占有等に係る自己の財物(242条)
   * たとえば「甲は,自己所有のカメラをAに質入れした後,返す意思がないのに『ちょっとだけ貸してください。』と嘘をついて,Aからカメラを取り戻した。」という場合,甲のカメラは「他人の財物」とみなされるので,詐欺罪が成立することになります。
  ② 親族間の犯罪に関する特例(244条)
  ③ 電気(245条)

保護法益
 詐欺の罪の保護法益は,個人の財産です(通説)。
 それゆえ,詐欺的手段による結婚(いわゆる結婚詐欺)や,結婚するとだまして情交を結んだ場合などは,本罪にあたりません。結婚するとだまして財物を詐取するような場合は,本罪となりえます。
   ※ 詐欺の罪の保護法益については,個人の財産だけでなく「取引における信義誠実」も含まれるという見解も主張されました(長島『刑法における実存と法解釈』)。たしかに,詐欺を罰することで「取引における信義誠実」の維持に資する面はあるといえますが,それは反射的な効果であって,それ自体が法益ではないと解されます(大塚)。
 なお,「財物」を客体とする場合(246条1項・248条前段)は,本権説・占有説・中間説の対立があることについては,窃盗罪と同じです。
   * 判例は占有説を採るものとされます。
    ① 財物取得罪は人の財物に対する「事実上の所持」を保護するものであるから,私人の所持が禁じられている元軍用アルコールであっても,これを詐取すれば詐欺罪が成立する(最判昭24・2・15)。
    ② 公傷年金の受給権は法令上担保に供しえないから年金証書を担保として差し入れても無効であるが,財物取得罪は人の財物に対する「事実上の所持」を保護するものであるから,同証書の所有者であっても,これを詐取すれば詐欺罪が成立する(最判昭34・8・28)。

国家法益に対する詐欺
 詐欺の罪は,個人法益に対する罪ですが,国や地方公共団体も財産権の主体として保護されることは当然です。つまり,その財産が国有・公有のものであっても差し支えないわけです。
 問題は,「本来の国家法益」に向けられた詐欺的行為(保険証の不正取得など)について本罪が成立しうるかということです。
 この点については,否定説もありますが(団藤・大塚・川端),個別的に検討されるべきものであって,国家法益に向けられた側面を有することをもって当然に詐欺の罪の成立が排除されると考えるべきではありません(通説,最決昭51・4・1参照)。
   * ①詐欺的手段による「脱税」については,判例も詐欺罪の成立を否定します。これは各種の税法違反の罪が詐欺罪の特別規定として優先適用されるからです(大判大4・10・28)。
     ②詐欺的手段による「公法的規制下にある物の不正取得」(農地法の規制下にある国有地の詐取など)については,国などの財産権が侵害されたといいうるのであれば,詐欺罪の適用を排除する趣旨の特別の規定がないかぎり,本罪が成立するとされます(上記最決昭51,後述)。
     ③詐欺的手段による「証明書などの不正取得」については,書類の性質により結論がわかれます(後述)。

 

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