各論目次

    ※ 親族による犯罪に関する特例(105条)

(親族による犯罪に関する特例)

 105条 前2条の罪(犯人蔵匿・隠避罪,証拠隠滅等罪)について

       犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したとき

          ↓

       その刑を免除することができる

     (1) 意 義

 犯人(逃走者)の親族が,犯人を蔵匿・隠避したり,その刑事事件に関する証拠を隠滅しても,犯人の利益のためにしたときは,(犯罪は成立するが)その刑を免除することができます。

 親族による「犯人蔵匿・隠避」・「証拠隠滅等」は,自然の人情にもとづくものとして,任意的な刑の免除事由とされているわけです。

 その根拠は,親族がそのようなことをしないことにつき類型的に期待可能性が乏しいという責任の減少にあります。

   ※ この規定は,昭和22年改正前は儒教道徳にもとづき「罰せず」(犯罪不成立)とされていましたが,英米法の影響により「任意的免除」に改められたものとされます(大谷)。

     (2) 要 件

      ア 犯人の親族・逃走した者の親族

 本特例が適用される者は,「犯人の親族」または「逃走した者の親族」です。

 「犯人」とは,「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」(103条),または,「刑事事件」を起こした者(104条)を意味します。

 「逃走した者」とは,「拘禁中に逃走した者」(103条)をいいます。

   ※ 「親族」の範囲は民法によって定まります(民法725条)。

   ※ なお,本特例は,期待可能性が乏しいことを根拠とするものですから,親族でない犯人を親族であると誤信して,これを蔵匿等した者については,「期待可能性の錯誤」を認めて本特例の適用(準用)を認めるべきです(大谷)(「期待可能性の錯誤」については「総論」で勉強します)。

      イ 犯人・逃走した者の利益のために犯すこと

 本特例が適用されるためには,犯人(逃走者)の利益のために,犯人蔵匿・隠避罪,証拠隠滅罪が犯されたことを要します。

 「利益のため」とは,刑事訴追・有罪判決・刑の執行または拘禁を免れさせる目的をいいます。犯人の不利益のためにしたときは,本特例の適用はありません。

 親族である犯人の利益のためにとどまらず,同時に第三者の刑事事件にも関係ある証拠を,そのことを認識して隠滅した場合などは,本特例の適用はないとされます(大判昭7・12・10,大塚・香川,反対;山口)。

     (3) 共犯関係

 「犯人=甲」,「親族=乙」,「他人=丙」として,共犯関係について検討してみましょう。

      ア 親族乙が他人丙を教唆した場合

問題の所在 

 犯人甲の親族乙が,甲と親族関係のない丙を教唆して,甲を蔵匿させる(甲に関する証拠を隠滅させる)などした場合,乙には犯人蔵匿(証拠隠滅)教唆罪が成立しますが,本条(任意的免除)の適用はあるでしょうか。

(A)否定説(大判昭8・10・18,団藤・大塚・中森)

 この点,本条は,親族自身が犯人蔵匿・証拠隠滅等を犯した場合について刑の免除を認める趣旨であり,他人に罪を犯させた場合には,もはやその適用を受けえないものと解すべきです。

 したがって,上記乙について,刑の任意的免除はされないと考えられます。

   ※ なお,上掲大判昭8・10・18は,本条改正前のものなので,「犯人の親族が,犯人を庇護する目的で,他人を教唆して犯人を隠避させた場合には,犯人隠匿教唆罪が成立する」としています。現行法におきかえれば,「成立する」ことは当然として,「刑も免除されない」ということになるでしょう。

(B)肯定説(平野・大谷・前田・山口)

 これに対して,肯定説は,「親族がみずから犯人蔵匿・証拠隠滅の罪を犯したときに刑の免除がありうるとされているのであるから,それより軽い形態である教唆の場合についても,これを認めるべきである」とします。

 しかし,期待可能性は具体的な行為の態様についての法的評価ですから,共犯は正犯より軽いはずだということだけで上記の立場を根拠づけることには無理があるというべきです(中森)。

      イ 他人が親族を教唆した場合

 犯人甲との間に親族関係のない丙が,甲の親族乙を教唆して犯人蔵匿・証拠隠滅行為をさせた場合,親族乙に正犯が「成立」し,他人丙に教唆犯が「成立」します。

 そして,正犯(親族乙)については,本条により刑の任意的免除が認められます。

 問題は,教唆者(他人丙)についても免除が認められるかですが,本条の効果は,その趣旨(期待可能性の減少)から,「親族」にかぎられ,他人には及ばないと考えるべきです。したがって,他人である教唆者の刑の任意的免除は否定されます。

      ウ  犯人が親族を教唆した場合

       (ア) 前 提

 犯人甲がその親族乙を教唆して犯人蔵匿・隠滅行為をさせた場合,乙については,正犯が成立しますが,本条による刑の免除が可能となります。

       (イ) 犯人甲に犯人蔵匿・証拠隠滅の教唆罪が「成立」するか

 甲については,前に検討した「犯人甲が他人を教唆して蔵匿・証拠隠滅行為をさせた場合,甲に教唆犯が成立する」という説(前田・木村,団藤・大塚)を採れば,ここでも犯人蔵匿・証拠隠滅教唆罪が「成立」することになります。

   ※ これに対して,「犯人甲が他人を教唆して蔵匿・証拠隠滅行為をさせた場合,甲に教唆犯は成立しない」とする説(大谷・山口)によれば,この場合にも教唆犯の「成立」が否定されます(したがって,次の「免除」の可否という論点は出てきません)。

       (ウ) 甲に105条の準用(「任意的免除」)が認められるか

(A)肯定説(多数説)

 上記の教唆犯成立説を採る場合,その多くは,親族乙が刑を免除されうるのに準じて,甲の任意的免除も認めるべきであるとします(団藤・大塚)。

 前田教授も,甲に刑の免除の可能性がないのは不合理であるとして,同様の結論を採られます。すなわち,犯人が証拠隠滅を教唆する行為は防御権の範囲を超えるので犯罪は成立するが,期待可能性がある程度低減していることも否定できないということを前提として,とくに「親族」に依頼する場合は,本条の刑の免除の可能性を導くだけの「期待可能性の減少」が,甲自身に認められるとするのです。

(B)否定説(木村) 

 これに対して,木村光江教授は,犯人自身の隠滅行為不処罰の理由を防御権という政策的なもので説明するとすれば,防御の範囲を超えた乙への教唆につき免除を認める根拠は薄れるとし,甲への105条の準用は困難であるとされています。

 

                                                                             証人等威迫罪