各論目次

   第2款 賄賂の罪(197条-198条)

    第1目 総 説

      1 概 要

意 義

 賄賂の罪とは,賄賂を受け取るなどする「収賄」罪と,これを贈るなどする「贈賄」罪のことです。

 「贈賄」については,現行法上,贈賄罪(198条)しかないのですが,「収賄」の方は,以下①~⑦のように,かなり複雑です。

  ① 収賄罪(197条1項前段)    

  ② 受託収賄罪(同項後段)  

  ③ 事前収賄罪(同条2項)  

  ④ 第三者供賄罪(197条の2)  

  ⑤ 加重収賄罪(197条の3第1項・2項)  

  ⑥ 事後収賄罪(同条3項)  

  ⑦ あっせん収賄罪(197条の4)  

  ※ 没収・追徴(197条の5)  

  ⑧ 贈賄罪(198条)  

 そこでまず,この先の話をわかりやすくするため,「収賄」罪の類型について,ざっとみておきましょう。

①収賄罪(197条1項前段)

  197条1項前段 公務員が,その職務に関し,賄賂を収受し,又はその要求を若しくは約束をしたとき

                → 5年以下の懲役

 第1に,「収賄」罪です。他と区別するため,とくに単純収賄ということもあります。

 これは,「公務員が,その職務に関し,賄賂を収受し,または賄賂の要求・約束をする」という罪です。

   * 「賄賂」の意味や,「要求」・「約束」の意味は,後で勉強しますので,以下では,とくに注意等がないかぎり,とりあえず「金を受け取る」という典型的な場面を思い浮かべていただければよいと思います。

 本罪は,収賄の罪の諸規定のうちの「基本型」であるということができます(大塚・山口)。

 本罪は,公務員が,その職務に関し,賄賂を受け取ったりすれば,それだけで成立してしまいます。それに起因してなにか不正な行為をしたりする必要はないわけです(なお,不正な行為をすると,後述の加重収賄が問題となります。)

 たとえば,「公立学校の教員が,卒業生の父兄から,子どもが世話になった謝礼として多額の現金を受け取った。」というだけで,本罪にあたりうることになります。

 法定刑は「5年以下の懲役」です。

②受託収賄罪(同項後段)

  197条1項後段 この場合(公務員が,その職務に関し,賄賂を収受し,又はその要求を若しくは約束をした場合)において,請託を受けたとき

                → 7年以下の懲役

 第2に,「受託収賄」罪です。

 これは,前段の場合において(=公務員が,その職務に関し,賄賂を収受し,または賄賂の要求・約束をした場合において),請託を受けたときに成立するものです。

 つまり,単純収賄に「請託を受け」た(受託)という要件が加わったものということになります。

 「請託を受け」たとは,一定の行為をすることを依頼されて,これを承諾したという意味です。

  たとえば,「税務署の所得税課係員甲が,管轄内の乙から『所得の調査について好意ある取扱いを受けたい。』と依頼され,これを承諾し,現金10万円を受け取った。」というような場合に,本罪が問題となります。

   * なお,ここでは,「請託を受け」たことが要件とされているだけなので,その後,実際に依頼を受けた内容を行う必要はありません。

     たとえば,上記事例において,なんらかの事情により甲が乙に対する調査を取り扱うことができなくなったとしても,本罪の成否には影響がないわけです。

 法定刑は「7年以下の懲役」で,やや重くなっています。

 「請託」にもとづく場合に刑が重くなるのは,それによって賄賂が職務行為の対価であることがより明瞭となり,公務が賄賂によって左右されたのではないかという疑念が深まり,それだけ公務の公正に対する社会一般の信頼を侵害する度合いが強まるからです(西田)(後述の信頼保護説(判例・通説)からの説明です。)

③事前収賄罪(同条2項)

  197条2項 公務員になろうとする者が,その担当すべき職務に関し,請託を受けて,賄賂を収受し,又はその要求若しくは約束をしたとき

             → (公務員となった場合に)5年以下の懲役

 第3に,「事前収賄」罪です。

 これは,「公務員となろうとする者が,その担当すべき職務に関し,請託を受けて,賄賂を収受し,または賄賂の要求・約束をする」罪です。

 主体が,公務員ではなく,「公務員となろうとする者」であることが特徴的であるといえます。

 法定刑は,単純収賄と同じく「5年以下の懲役」です。ただし,現に「公務員となった場合」でなければ罰せられません(なお,「公務員となること」については,本罪の「成立要件」なのか,「処罰条件」にすぎないのかは議論があります(後述)。)

 たとえば,「A市長選挙の立候補者甲は,土建業者乙から『市長に当選したら市の工事を請け負わせて欲しい。』と頼まれ,100万円受け取った。」というような場合に,本罪が問題となります。

 ただ,この場合,落選して市長になれなかったときには,処罰されることはないわけです。

 いまだ公務員となっていない段階での賄賂の収受等ですが,請託を受けることにより将来の職務行為の対価であることが明確化するので,公務員となったことを条件に,単純収賄と同一の法定刑で罰せられることになっているわけです(大塚)。

④第三者供賄罪(197条の2)

 197条の2 公務員が,その職務に関し,請託を受けて,第三者に賄賂を供与させ,又はその供与の要求若しくは約束をしたとき

            → 5年以下の懲役

 第4に,「第三者供賄」罪です。

 これは,「公務員が,その職務に関し,請託を受けて,第三者に賄賂を供与させ,または賄賂の供与の要求・約束をする」罪です。

 公務員が,賄賂を自ら受け取ったりするのではなく,贈賄者に「第三者」に対して賄賂を供与等させるところに特徴があります。

 「俺は受け取ってない。」という脱法行為を許さないための規定といえます。

 たとえば,「県会議員甲は,製造業者Aに『公害防止条例の制定を阻止して欲しい。』と依頼されて,謝礼として50万円を提供されたが,自分では受け取らずに,Aに指示して,甲の後援会に寄付させた。」というような場合が,これにあたります。

 法定刑は「5年以下の懲役」です。

 賄賂が第三者に供与される場合ではありますが,請託があることで公務員の職務行為の対価であることが特定されることから,単純収賄と同様に処罰されるわけです(中森)。

⑤加重収賄罪(197条の3第1項・2項)

 第5に,「加重収賄」罪です。1項と2項とで2つの態様があります。

 197条の3第1項 公務員が前2条の罪(収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪・第三者供賄罪)を犯し,

             よって不正な行為をし,又は相当の行為をしなかったとき

                → 1年以上の有期懲役

 1項の罪は,「公務員が,前記4つ(収賄・受託収賄・事前収賄・第三者供賄)の罪のいずれかを犯し,よって,不正な行為をし,または相当の行為をしない」というものです。

        2項 公務員が,その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し,

            賄賂を収受し,若しくはその要求若しくは約束をし,

            又は第三者にこれを供与させ,若しくはその供与の要求若しくは約束をしたとき

               → 前項と同様(1年以上の有期懲役)

  2項の罪は,「公務員が,その職務上,不正な行為をしたこと,または相当の行為をしなかったことに関し,賄賂を収受し,もしくは賄賂の要求・約束をし,または第三者に賄賂を供与させ,もしくは賄賂の供与の要求・約束をする」というものです。

 つまり,1項・2項とも,賄賂を受け取ったりすること(収賄行為)のほかに,現に不正な行為をしたり(作為),(しなければならない)相当の行為をしない(不作為)ということが要件となっているわけです(作為・不作為を含む趣旨で「不正な職務行為」ということがあります。)。

 ①収賄行為が先行する場合(収賄→不正)が1項の罪②不正な職務行為が先行する場合(不正→収賄)が2項の罪ということになります。

 「不正な行為」をしたこと(作為)の例としては,公務員が職務上の秘密をもらした行為などが,あげられます。

 「相当の行為をしなかった」こと(不作為)の例としては,警察署長が検挙した被疑事件を検察庁に送致しなかった行為などが,あげられます(最判昭29・8・20)。

 法定刑は1項・2項とも「1年以上の有期懲役」(最高刑は懲役20年(12条1項))で,かなり重くなっています。

 これは不正な職務行為があり,現に職務の公正が害されたことを理由に,とくに刑を加重する趣旨にもとづくものといえます。

⑥事後収賄罪(同条3項)

 197条の3第3項 公務員であった者が,

             その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し,

             賄賂を収受し,又はその要求若しくは約束をしたとき

                → 5年以下の懲役

 第6に,「事後収賄」罪です。

 これは,「公務員であった者が,その在職中に,請託を受けて,職務上不正な行為をしたこと,または相当の行為をしなかったことに関し,賄賂を収受し,または賄賂の要求・約束をする」罪です。

 つまり,「在職中」に,請託を受けて,不正な職務行為をし退職後」に,賄賂の収受・要求・約束をするものということになります。

 たとえば,「警察官甲は,被疑者乙から『捜査をやめてくれ。』と頼まれ,その事件をもみ消してやり,退職後に,その謝礼として10万円を要求してこれを受け取った。」というような場合が,これにあたります。

 法定刑は「5年以下の懲役」です。

 公務員を退職した後ではありますが,請託を受けたことにより職務の対価であることが明確化し,しかも不正な職務行為までしていることから,単純収賄と同一の法定刑で罰せられることになっているわけです(大塚)。

⑦あっせん収賄罪(197条の4)

 197条の4 公務員が請託を受け,

         他の公務員に職務上不正な行為をさせるように,又は相当の行為をさせないように

         あっせんをすること又はしたことの報酬として,

         賄賂を収受し,又はその要求若しくは約束をしたとき

            → 5年以下の懲役

 第7に,「あっせん収賄」罪です。

 これは,「公務員が,請託を受け,他の公務員に職務上不正な行為をさせるように,または相当の行為をさせないように,あっせん(仲介)すること・したことの報酬として,賄賂を収受し,または賄賂の要求・約束をする」罪です。

 たとえば,「国立大学の人事課長甲は,受験生Aの父親から,『Aを合格させるため,入学試験を担当する部局の係員乙に,Aの点数の水増し操作をしてもらいたいので,仲介の労をとってほしい。』と頼まれ,これを承諾し,その謝礼として100万円を受け取った。」というような場合に問題となります。

   * 主体となる公務員(上記甲)を「あっせん公務員」といい,不正な職務行為をするようにあっせんされる公務員(上記乙)を「被あっせん公務員」または「職務公務員」ということがあります。

 これまでに述べた他の収賄罪(①~⑥)は,公務員が自己の「職務行為」の対価として賄賂を収受等するものです。これに対して,本罪は,他の公務員の職務に関して「あっせん行為」をしたことの対価として,これを収受等する点で異なる性格を有するものといえます。

 法定刑は「5年以下の懲役」です。

 公務員が,対価を得て,その地位を利用するなどして他の公務員に働きかける行為も,公務の公正とこれに対する社会一般の信頼を失わせるものといえることから(通説),このような場合にまで拡大して処罰するもので,やはり単純収賄と同一の法定刑となっています(大塚参照)。

      2 保護法益

       (1) 判例・通説

 賄賂の罪の保護法益については,争いがありますが,「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」であると解すべきです(信頼保護説,大判昭6・8・6,最大判平7・2・22,大谷・中森・斎藤・西田・前田・高橋・佐久間・只木・安田,なお団藤・大塚)。

 刑法の規定をみると,職務に関して賄賂の収受等があれば処罰することを原則としつつ(197条1項等),不正な職務行為があったときに刑を加重していることからすれば(197条の3第1項・2項),職務の公正とこれに対する信頼の両方を考慮しているといえるからです(井田参照)。

   * 刑法は,賄賂の収受等があれば,不正な職務行為がなくても(=現に職務の公正が害されなくても)処罰することを原則としています(単純収賄・受託収賄・事前収賄・第三者供賄)。このことからすると,(職務の公正ではなく)「職務の公正が金で左右されることはないという『信頼』」が害されることがないようにしているものといえます。

     他方で,現に不正な職務行為がなされたとき(=職務の公正が害されたとき)には,とくに重い刑を規定しています(加重収賄)。このことからすると,「職務の公正」(自体)も法益として考慮されているといえるわけです。

       (2) 諸見解

学説状況

 賄賂罪の保護法益については,もともと,A.「職務の不可買収性」(無償性)に求める見解と,B.「職務の公正」(不可侵性・純粋性)に求める見解とが対立しており,ドイツの刑法理論に影響を受けたわが国の学説に受け継がれたものとされます。そして,わが国では,さらに,C.「公務員の清廉義務」であるとする見解も主張されました。

 しかし,いずれの見解も後述のように難点があることから,実質的に職務の「不可買収性」と「公正」を併せ考慮する見解として,D.「職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」とする見解(信頼保護説)が判例・通説となりました。

   * これに対して,最近では,信頼保護説を「社会一般の信頼というような漠然としたものを保護法益と解すべきではない」,「国家法益と一種の社会法益を併せた形の保護法益となっており,賄賂罪の犯罪としての性格があいまいになる」などと批判して,「職務の公正」に限定する見解(B説)も再び有力になってきているといえます(山口参照)。

A.不可買収性説(平野・内田,なお堀内・今井)

 まず,賄賂罪の保護法益を「職務の不可買収性」(公務が利益の対象とされないこと・賄賂によって左右されないこと)に求める見解があります。

 この見解は,わが刑法の賄賂罪の基本類型が,職務に関して賄賂を収受等すれば,職務行為が正当なものであっても,犯罪の成立を認めていることからすれば(単純収賄・受託収賄・事前収賄・第三者供賄),正しい側面をもっていると評価することができます。

 しかし,他方で,この見解は,「加重収賄罪」や「あっせん収賄罪」の説明に苦しむことになります。

   * 「加重収賄罪」は,前述のように,不正な職務行為があったとき(=現に公務の公正が害されたとき)に刑を加重していますし,「あっせん収賄罪」においては,他の公務員(被あっせん公務員)の職務行為は買収の対象となっていないので,保護法益を職務の不可買収性(のみ)と解すると,これらの説明がしにくいわけです。

B.純粋性説(町野・曽根・北野・林・山口,なお伊東)

 次に,賄賂罪の保護法益を「職務の公正」(不可侵性・純粋性)に求める見解があります。

 これによると,逆に,加重収賄罪などは説明しやすいのですが,他方で,刑法が,基本的に,賄賂の収受等があれば足り,不正な職務行為をすることを賄賂罪の成立要件としていないこと(単純収賄等)を説明しにくくなってしまいます。後者の場合には,必ずしも職務の公正は害されないからです。

 また,「公立学校の教員が,卒業生の父兄から,子どもが世話になった謝礼として多額の現金を受け取った場合」など,職務行為(とくに,それ自体としては適法な職務行為)の後に賄賂の収受等が行われた事案について,この見解では賄賂罪が成立することを十分に説明しえないおそれがあるとされます。

   * 純粋性説は,賄賂によって職務の公正が左右されうる事態に着目し,そこに個々の職務の公正侵害の危険を見いだす考え方であるといえます。

     つまり,この見解は,「職務の公正」(のみ)を保護法益と考えたうえで,不正な職務行為が要件とされていない単純収賄等については,職務の公正に対する「危険犯」であると説明することになります。

     そうすると,職務行為がなされ,その後に賄賂の収受等が行われたときは,すでに行われた職務行為に遡って影響を及ぼすことはできないので,職務の公正が害される危険性も認められないということになるはずです。

     そこで,純粋性説を徹底して,事後的な賄賂の収受等については,単純収賄罪の成立を否定すべきであるとする見解もあります(北野,なお町野)。

     しかし,この結論は一般的には受け容れられてはおらず,同説からも,「収賄行為によって将来の職務の公正が害される抽象的危険が生じる」などとして(曽根,なお山口),過去の職務行為との関係でも収賄罪の成立が認められるとされています。

C.清廉義務説(小野)

 なお,わが国では,ほかに,C.賄賂罪の保護法益を「公務員の清廉義務」であるとする見解も主張されました。

 しかし,これに対しては,収賄の事実と職務行為との関連性を重視せずに,賄賂の罪の可罰性を不当に拡大する危険を含むなどと批判され,今日ではあまり支持されていないようです(なお鋤本『百選Ⅱ』参照)。

   * また,清廉義務というだけでは,あまりにも漠然としているから,その義務の内容を限定する必要があり,A・B・D説は,どれも,そのような狙いをもつものとして理解することができると指摘されています(大塚)。そうすると,結局,この見解は,他のいずれかの見解に還元することができるともいえるでしょう(高橋参照)。

D.信頼保護説(判例・通説)

 上記のように,A説およびB説は,いずれも正しい側面をもっているといえます。

 しかし,他方,刑法の賄賂罪に関する規定を統一的に解釈するには,それぞれ難点があることにもなります。

 そこで,これを克服しようとするものとして,職務の「不可買収性」と「公正」の両方を併せ考慮しようとする見解が主張されました。

 賄賂罪の保護法益を「職務の公正とこれに対する社会の信頼」に求める判例・通説(信頼保護説)も,これに属する見解といえます(井田参照)。

   * 文字どおり「職務の不可買収性と公正」を保護法益とする折衷説もありますが(大塚),不可買収性は実質的には信頼保護と変わらず(中森),「社会の信頼」の保護ということの方が,より実質的で,本罪の成否の判断上も決定的であるともいえるなどとして(斎藤),判例の表現を支持する見解が多くなっています。

      ※ 賄賂罪の本質を公務の不可買収性にあるとする理由は,結局のところ,公務員が賄賂を収受することにより公務の公正さに対する信頼が失われることになるということにあるといえます。

 この見解は,公務員の職務が機能するためには,国民の信頼が不可欠であって,職務と賄賂が結びつけば,正当な職務行為に対するものであっても,職務の公正を疑わせることとなり,その信頼が損なわれると考えるものといえます。

      3 賄賂の罪の基本問題

       ⑴ 「職務に関し」の意義

        ア 総 説

 賄賂の罪は,あっせん収賄罪(197条の4)を除いて,公務員の「職務に関し(職務上)」賄賂を収受等することによって成立します。

 このような,「賄賂の職務関連性」が要求されるのは,職務と対価関係にある金銭等の授受が行われたときこそ,公務が金で左右されたのではないかという不信感が増大し,信頼侵害が生じるからです。

 そして,そのためには,当該公務員に賄賂と対価関係にたつ職務を左右しうる権限のあることが前提となります。

 それゆえ,どこまでを当該公務員の職務権限・職務行為と考えるかが賄賂罪の成否を考える際の中心問題ということになるわけです(大谷・西田・高橋)。

        イ 具体的職務権限

意 義

 「職務」とは,公務員が,その地位にともない,公務として取り扱うべき一切の執務をいいます(最判昭28・10・27)。

 公務員が,具体的職務権限(事務分配)にもとづき現に担当している職務について,賄賂罪が成立しうることに問題はありません。

 たとえば,徴税事務を担当している税務署職員が,自分の担当区域内の者から,税金を安くしてやる見返りに金員を収受するような場合を考えれば,わかりやすいでしょう。

 職務の範囲は原則として法令によって定められますが,法令は細かい権限についてまで網羅的に規定しているものではないので,法令の解釈によって合理的にその範囲を確定できれば足りるものとされます。

判 例

 他方,職務は法令上の権限があればよいので,たとえば,①衆議院議員が,大蔵委員会で審査中の法律案について,同委員を含む他の議員を説得・勧誘することは,同議員が,同委員でなかったとしても,衆議院議員として法律案の発議・審議・評決をなす権限がある以上,「職務」にあたるとされます(最決昭63・4・11<大阪タクシー事件>)。

 また,②内閣総理大臣は,憲法・内閣法上の地位・権限に照らすと,閣議にかけて決定した方針が存在しない場合でも,内閣の明示の意思に反しないかぎり,行政各部に対して指示を与える権限を有するものと解するのが相当であるから,内閣総理大臣が,運輸大臣に対し,民間航空会社に特定機種の航空機の購入を勧奨するよう働きかけることも,運輸大臣に対する指示として,「職務」にあたるとされています(最大判平7・2・22<ロッキード事件丸紅ルート>)。

職務の正・不正は問わない

 なお,「職務」は,その正・不正を問いません。

 たとえば,町長が,A社を町立体育館新築工事の業者に選定した謝礼として金員を収受した場合,その選定が正当なものであったとしても,賄賂罪が成立しえます。

 同様に,不正な職務であってもよいので,たとえば,警察官が職務上知りえた秘密を漏らす行為なども,「職務」にあたります。

 また,不正な職務は不作為でもよいので,たとえば,文部事務次官が,某社の進学情報誌事業について教育関係者等から問題が指摘されていることを知りながら,同社の事業の遂行に支障を及ぼす行政措置をあえて採らないことも,「職務」にあたるとされます(最決平14・10・22<リクルート事件文部省ルート>)。

        ウ 一般的(抽象的)職務権限

一般的職務権限の理論

 また,「職務」は,当該公務員が具体的に担当している事務でなくとも,一般的職務権限に属するものであればよいと解されます(最判昭37・5・29,通説)。

 公務員が現に担当する職務は,事務処理の便宜のために内部的な事務分配により定められているにすぎす,必要に応じて変更されうるものです(上記昭37判決,堀内)。

 それゆえ,具体的に事務分配を受けていなくても,一般的な職務権限の枠内であれば,その公務員自身の職務の公正さに対する社会の信頼が害されるといえるからです(前田・高橋,大塚参照,なお山口)。

 たとえば,税務署職員は,法令上,管内の義務者から徴税する権限を有するものなので,自己の担当区域の者から金員を収受するような場合でも,「職務」にあたります(最判昭27・4・17)。

限 界

 ただし,この見解も,単に一般的職務権限が同一でありさえすればよいと主張するものではないといえます。

 たとえば,藤木博士は,「勤務する官署を異にし,あるいは,職務権限の対象たる事務の性質が異なる(課単位程度の差異がある場合)ときは,一般的職務権限の理論は適用できない」とされていました。

 判例も,原則として,同一「課」の中であれば,現に当該事務を担当していない場合でも,一般的職務権限に属するとしてきたとされます(前田)。

 この点については,所管事務の性質,公務員の地位,相互に影響を及ぼす程度,担当変更の可能性などを考慮して具体的に職務権限を判断すべきであるということになるでしょう(同上)。

平17決定

 ところで,近時,「警視庁調布警察署地域課に勤務する警察官甲が,同庁多摩中央警察署刑事課で捜査中の事件に関して,同事件の関係者から,告訴状の検討,助言,捜査情報の提供,捜査関係者への働きかけなどの取り計らいを受けたいとの趣旨で,現金の供与を受ける行為は,同庁警察官の犯罪捜査に関する職務権限が東京都全域に及ぶことなどに照らすと,甲が同事件の捜査に関与していなかったとしても,その職務に関し賄賂を収受したものといえる」との決定が出されました(最決平17・3・11)。

同決定の評価

 この決定に対しては,甲に当該事件の捜査に関係する具体的・事実上の可能性がなく,一般的職務権限の範囲内とはいえないとの批判もされています(西田・高橋)。

 これに対して,前田教授は,次のような旨を述べて,同決定を支持されています(ほかに,堀内・斎藤・大塚・只木)。

   * 「警察官の職務の特殊性にかんがみると,警察官の犯罪捜査に関する一般的職務権限の範囲を『課』単位で制限する必要はない。

     警察法2条1項は,『個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕,交通の取締その他公共の安全と秩序の維持』をその責務として,同法64条は,警察官は,『都道府県警察の管轄区域内において職権を行う』と規定している。そうだとすると,警視庁警察官は,どの警察署のどの部局に所属しているかにかかわりなく,東京都内において犯罪捜査に当たることが要請されているともいえる。

     人事移動状況をみても,一般的職務権限は都内全域に及ぶと解することは不合理ではない。

     都民も,警察官の職務の範囲について,警察署の異同を強く意識しているわけではない。

     国民からみて,当該公務員が当該具体的職務を左右しうるようにみえることが重要だとすれば,調布署地域課に所属する甲の一般的職務権限は本件多摩中央署刑事課の担当する事件の捜査にも及ぶと解してよい 。」

 いずれにせよ,「同決定の射程範囲については慎重な検討が必要である」ということはいえるでしょう(今井『リーガルクエスト刑法各論』)。

        エ 職務密接関連行為

         (ア) 意 義

  さらに,公務員の一般的職務権限に属さないとしても,「職務と密接に関連する行為」については,賄賂罪が成立しうると解されます(大判大2・12・9,最決昭31・7・12,通説,ただし中森・高橋,なお前田)。

   ※ 判例は,「準職務行為」または「事実上所管する職務行為」といういい方もしています(上掲昭31決定)。

 公務員が「職務と密接に関連する行為」について賄賂を収受等した場合も,職務の公正に対する信頼が失われることになるといえるからです(最判昭59・5・30矢口補足意見参照)。

   ※ なお,同補足意見は,「判例が一貫して刑法197条の『職務に関し』の意義を,職務行為および職務に密接な関係のある行為と解してきたのは,公務員が賄賂を収受することによって公務の公正を疑わせるかどうかという点に着目して,そのおそれのない公務員の私的行為との間に限界づけをしたものと思う。」,「『職務に密接な行為』というためには,本来の職務行為として法律上の効力は認められないとしても,職務行為と関連があり,社会通念上職務行為として認められ,行われているものをいうのであって,そのような行為として認定するためには,当該公務員の職務権限と実質的な結び付きがあるかどうか,公務を左右する性格をもつ行為かどうか,公務の公正さを疑わせるかどうかの視点が基準となる」旨を指摘しています。

   * 職務密接関連行為について,A.通説的見解は,法文上「職務に関し」賄賂の収受等があったものと説明します。つまり,「職務」とは本来の職務(一般的職務権限に属する行為)のみを意味し,密接関連行為はこれに「関する」ものと解釈するわけです(団藤・大塚・川端・斎藤)。

     これに対して,「職務に関し」とは,賄賂と職務行為との対価関係を意味するのであり,「職務」にあたらないものについて賄賂罪を認めることは妥当でないとして,B.職務密接行為も「職務」に含まれると解すべきであるとする見解も有力です(平野・西田・山口)。

     判例については,従前よりA説的な解釈をしていましたが(前掲大2判決など),後掲昭59決定などが「……委員としての職務に密接な関係のある行為であり,収賄罪にいわゆる職務行為にあたる」旨の表現をとっていることから,現在は,職務密接関連行為を「職務行為」としてとらえているとする評価も有力です(山口)。

         (イ) 類 型

 職務密接関連行為については,一般に,2つの類型があるとされています。

第1類型

 第1は,本来の職務ではないが慣行上担当している場合です。

 たとえば,「市議会議員により構成される議会内会派に属する議員が,市議会議長選挙における投票につき同会派所属議員を拘束する趣旨で,同会派として投票すべき者を選出する行為」は,市議会議員の職務に密接な関係のある行為であるとされます(最決昭60・6・11<大館市議会事件>)。

第2類型

 第2は,自己の職務権限にもとづいて事実上の影響力を及ぼしうる場合です。

 たとえば,「大学設置審議会およびその歯学専門委員会の委員が,教員予定者の適否をあらかじめ判定する行為や,同委員会の中間的審査結果を正式通知前に知らせる行為」は,同審議会・委員会の委員としての職務に密接な関係のある行為であるとされています(最決昭59・5・30<大学設置審事件>)。

 また,近時,「北海道開発庁長官が,下部組織である北海道開発局の港湾部長に対し,競争入札が予定される港湾工事の受注に関して特定業者の便宜を図るように働きかける行為」は,(同長官に港湾公示の実施に関する指導監督権限がなく,また,その行為が談合にかかわる違法なものであるとしても,)港湾工事にかかる予算の実施計画作成という同長官の職務に密接な関係があり,賄賂罪における職務関連性が認められるとされています(最決平22・9・7)。

否定例

 他方,密接関連性が否定された例としては,「工場誘致に関する事務を担当していた市職員甲が,市内に工場用地を買いたい旨を申し込んだ者を,市が誘致を図っていた工場団地に案内した行為は甲の職務行為にあたるが,希望に沿う土地がなかったことから,かねて乙から売却を依頼されていた土地に案内し,これを買うようにあっせんした行為は,甲の職務と密接な関係を有する行為であるということはできない。」とされたものがあります(最判昭51・2・19)。

 また,「国立大学附属中学校教諭が,私生活上の時間を割いて生徒に学習指導することは,それが,法令上の義務的時間の枠をはるかに超え,内容の実質も社会一般の通常の期待以上のものがあるときは,職務にもとづく公的な面を離れ,私的な人間的情愛と教育に対する格別の熱情の発露の結果であるともみられ,職務行為と速断することには疑念をいだかせる」とされた判例もあります(最判昭50・4・24,大塚,鋤本『百選Ⅱ(6版)』参照)。

        オ 過去の職務

前 提

 前述のように,「公立学校の教員が,卒業生の父兄から,子どもが世話になった謝礼として多額の現金を受け取った場合」など,過去の職務(すでに終了した職務)について収賄を行った場合でも,収賄罪が成立します(判例・通説)。

 過去の職務と賄賂との対価関係が認められれば,職務の公正に対する社会の信頼が害されることになるからです(高橋)。

 それゆえ,公務員が,配置換えによって具体的職務権限がなくなったとしても,一般的職務権限が同一である場合は,前の職務に関して賄賂が授受されたときにも収賄罪が成立しうることについては,さほど異論はありません。

 問題は,これが認められるのは,上記のように一般的職務権限を同一とする場合に限定されるのか,一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に,前の職務に関して賄賂を収受した場合でも,賄賂罪の成立を肯定しうるのかということです。

事 例

 たとえば,「市役所の『建築課長』甲は,人事異動により同じ市役所の『保健課長』に転任したが,保健課長に就任した後,建築業者乙から,建築課長当時に,その職務に関し,有利な取り計らいを受けたことの謝礼として現金30万円を収受した」というような事案について,単純収賄罪(197条1項前段)が成立するかが問題となります。

   * この論点は「転職前の職務」などとよばれますが,ここでいう「転職」は,上記のように,日常用語でいう「異動」の意味なので注意してください(木村)。

A.非限定説(肯定説,最決昭58・3・25,中森・斎藤・西田・前田・高橋・佐久間,ほかに平野・林・山口)

 この点については,争いがありますが,単純収賄罪の成立を肯定すべきです。

 ①賄賂を収受するときに現に公務員である以上,それが過去の職務に関するものであったとしても,職務の公正やこれに対する社会の信頼を害することになるといえます。

 また,②197条1項前段の「その職務」とは,現在の職務ではなく,自己の職務(その公務員の職務)と解釈することが可能です。

 判例も,公務員が,一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に,前の職務に関して賄賂を供与した場合であっても,供与の当時,受供与者が公務員である以上,賄賂罪(当該事案では贈賄罪)が成立するとしています(上記昭58最決)。

B.限定説(否定説,団藤・福田・大塚・内田・大谷・曽根・伊東)

 これに対して,一般的職務権限を異にする職務に転じた場合は,単純収賄罪の成立を否定する見解も有力です。

 この見解は,197条1項前段に「『その職務』に関し,賄賂を収受し」とあることからすれば,賄賂を収受するときの職務行為との関連性を前提とするものである主張します。

 しかし,公務員には,一般的職務権限が変わるような定期的な人事異動が多いという現実にかんがみると,転職後に利益が収受されると収賄罪に問えないことになってしまうのは妥当ではありません。

 これに対しては,現に公務員である者でも,前の職務権限との関係では,「公務員であった者」と称することが可能であるとして,事後収賄罪が成立する余地があるとの反論があります

 しかし,現に公務員である者を「公務員であった者」に含めることは,条文の文言に反し認められません(中森・前田・高橋,ただし西田)。

   * 事後収賄罪(197条の3第3項)が成立するためには,「公務員であった者が,その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと……」という要件を充たさなければいけません。それゆえ,単に職務に関して「有利な取り計らい」をしただけでなく,「請託」を受けた「不正な行為」等がなければ,B.限定説(否定説)からは不可罰とせざるをえません。

     他方,A.非限定説(肯定説)によれば,前記事例のような場合を単純収賄罪で処罰しうるとともに,「請託」を受けた事案であれば受託収賄罪(197条1項後段)として,さらに「不正な行為」等をした事案については,加重収賄罪(197条の3第2項)として重く処罰することが可能になるという差異があるわけです(井田参照)。

        カ 将来の職務

前 提

 一般的職務権限に属する事項であれば,具体的な権限の行使が将来の条件にかかっているような場合であっても,「その職務に関し」といいうるとするのが判例・通説です。 

事 例

 では,「甲は,現職の市長であり,近く施行させる市長選挙に立候補の決意を固めていたところ,再選後に市長として決済を行い執行する予定の建設工事に関し,請託を受けて賄賂を収受した」というような場合(その職務を担当する蓋然性が高いとは必ずしもいいがたいような場合)でも,「職務に関し」にあたり,受託収賄罪(197条1項後段)が成立するでしょうか。

A.「受託収賄」を認める見解(最判昭61・6・27,大塚・大谷・中森・斎藤・前田・井田)

 この点,刑法の賄賂罪に関する規定を統一的に解釈するためには,同罪の保護法益は「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」であると解すべきです(信頼保護説)。

 そして,将来の職務に関して金銭の授受がなされることによって,現在の職務に対する社会の信頼が害される以上は,受託収賄罪の成立を認めるべきです(大谷『法セミ』384号,鋤本『百選Ⅱ(6版)』参照)。

 判例も,同種事案について,「市長が,任期満了前に,市長としての一般的職務権限に属する事項に関し,再選された場合に担当すべき具体的職務の執行につき請託を受けて賄賂を収受したときは,受託収賄罪が成立する」としています(最決昭61・6・27)。

B.「事前収賄」を認める見解(曽根・林,西田・高橋)

 これに対して,純粋性説の立場から,賄賂の対価とされた具体的職務行為が甲の現在の任期中に行われる可能性がない以上,職務の公正が賄賂によって左右される可能性がないとして,受託収賄罪の成立を否定する見解があります(曽根・林)。

 また,信頼保護説の立場からも,将来の職務に関して金銭の授受がなされた場合,その職務を担当する蓋然性が高い場合でなければ,職務に対する社会の信頼が害されたとはいえないとする見解もあります(西田・高橋)。

 そして,これら批判的見解からは,前記事例については「事前収賄罪」の成立を認めるべきであると主張されます。

 つまり,197条2項の「公務員になろうとする者」には,公務員の身分は有するが,賄賂の対価とされた具体的職務を担当していない者も含まれるとするわけです。

 しかし,これに対しては,「公務員になろうとする者」に,現に公務員である者を含めることはできないとの批判があります(池田『最判解昭61』,斎藤)。

   * なお,B説の中には,事前収賄罪のほかに,現在の職務に関する単純収賄罪の成立の余地を認めるものもあります(西田・高橋)。

       ⑵ 賄賂の意義

        ア 対価関係

 賄賂の罪の客体は「賄賂」です。

 賄賂とは,公務員の職務に関する不正な報酬としての利益をいいます。

 それゆえ,賄賂は,職務行為の対価として提供されたものでなければなりません。

 ただし,この対価関係は一定の職務に対する反対給付としての性質が認められれば足り,個々の職務行為とその利益の間にいちいち対価関係があることは要しません(最決昭33・9・30)。

    ※ なお,あっせん収賄罪(197条の4)については,職務ではなく,「あっせん」に対する報酬となります。

         イ 賄賂の目的物

  賄賂の目的物は,有形・無形を問わず,人の需要・欲望を満たしうる一切の利益を含みます(大判明43・12・19)。

 それゆえ,金銭・物品・不動産などの有体物はもとより,金融の利益,ゴルフクラブ会員権,飲食物の饗応,芸妓の演芸,値上がり確実な未公開株式の譲渡,異性間の情交,就職のあっせん,地位の供与なども賄賂となりえます。

   * 最決昭63・7・18<殖産住宅事件>は,「株式の新規上場に先立つ公開に際し,上場時には価格が確実に公開価格を上回ると見込まれ,一般人には公開価格で取得することがきわめて困難な株式を,公開価格で取得できる利益は,それ自体が賄賂罪の客体になる」旨を判示しています。

        ウ 社交儀礼

 賄賂性の限界として,中元・歳暮・餞別・見舞いなど,社交儀礼としての贈答品が「賄賂」にあたるかが問題となります(以下,川端・井田参照)。

A.判例の主流(大塚・平川・山口・木村・今井・安田)

 この点につき,判例の主流は,「中元・歳暮における社交上の儀礼と認められる程度の贈物も,公務員の職務に関して授受される以上は,賄賂罪が成立する」という立場をとっています(大判昭4・12・4)。

 この見解は,公務員が物品の贈与等を受けた場合,それが中元などの名目であっても,同人の職務との対価関係が認められるかぎりは,賄賂にあたるとします。

 他方で,純然たる社交儀礼について賄賂性が否定されるのは,職務行為との間に対価関係がないからであるとします。

 つまり,この見解によると,賄賂と社交儀礼としての贈答の区別は,「職務行為に対する対価とみられるか否か」によるということになります。

B.多数説(団藤・平野・藤木・大谷・川端・中森・西田・前田・高橋・林・井田)

 これに対して,学説の多数は,職務行為に対する対価的価値を有する贈答であっても,なお社交儀礼に属するものであるといえれば,「賄賂」にあたらないとします。

 つまり,職務行為に対する報酬にあたるとしても,社交儀礼の範囲を超えないと認められる場合には,賄賂性が否定されると考えるわけです。

   ※ 判例にも,「公務員が,その職務に関し,生活上の欲望を満足させるに足る利益を受けても,その利益が社交的儀礼の範囲を出ない部類のものであるときは,賄賂というべきではない」とするものはありますが(大判昭5・7・29),主流を占めるものではないとされます(川端,なお藤木)。

最判昭50・4・24

 最高裁判例は,「国立大学附属中学校教諭が,新たに担任となった生徒の母から贈答用小切手(5000円分)を収受したとしても,父兄からの慣行的社交儀礼として行われたと考える余地が存するのであって,直ちに職務行為に関する対価的給付であると断ずることはできない。」としています。

 これは,判例の主流の立場(A説)から,社交儀礼としての贈答が,場合によっては職務行為との対価関係が否定されること(社交儀礼であることによって職務との対価関係性が否定されること)を認めたものであると解されています(川端・安田,なお西田)。

社交儀礼と賄賂の限界

 賄賂性の存否については,①公務員の職務の内容,②その職務と利益供与者との関係,③当事者間の親疎,④利益の種類・多寡,⑤利益授受の経過など,諸般の事情に照らして判断すべきものと解されます(大阪高判昭26・3・12参照,大塚)。

 なお,職務行為の対価としての謝礼と,職務外の行為に対する報酬とが,不可分的に供与されたときは,その全体が賄賂になるものとされます(最判昭23・10・23)。

 

                                                                          収賄罪