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  第2節 放火・失火の罪(108条~118条)

意 義

 放火・失火の罪は,火力の不正な使用によって物件を焼損し,公共の危険(不特定または多数の人の生命・身体・財産に対する危険)を生じさせるものです(公共危険罪・公共危険犯)。

種 類

 放火・失火の罪として,つぎのものがあります。

 ① 現住建造物等放火(108条) 

 ② 非現住建造物等放火(109条) 

 ③ 建造物等以外放火(110条) 

 ④ 延焼(111条) 

 ⑤ 未遂(112条) 

 ⑥ 予備(113条) 

 ⑦ 消火妨害(114条) 

 ※ 差押え等に係る自己の物に関する特例(115条) 

 ⑧ 失火(116条) 

 ⑨ 激発物破裂(117条) 

 ⑩ 業務上失火等(117条の2) 

 ⑪ ガス漏出等・同致死傷(118条) 

 初めに,これからの解説を分かりやすくするために,とくに重要な3つの放火罪(①~③)について,どのような犯罪なのか,(条文の数字も含めて)頭にたたき込んでおきましょう(六法をみてください)。

①現住建造物等放火罪(108条)

 まず,「現住建造物」等放火罪=108条です。

 これは,放火して,現に人が「住居に使用」しているか,または,現に「人がいる」建造物などを焼損するという犯罪です。

 放火の罪のなかでも,もっとも重い刑が定められています。

 1項・2項の区別はありません(所有者が誰かは問いません)。

②非現住建造物等放火罪(109条)

 次に,「非現住建造物」等放火罪=109条です。

 これは,放火して,現に人が「住居に使用せず」,かつ,現に「人がいない」建造物などを焼損するという犯罪です。

 基本的に,108条にあたらない建造物などに対する放火を処罰するものといえます。

 空き家・物置小屋・商品倉庫などが「非現住建造物」の典型例です(ただし,空き家などでも,放火のときに人がいれば,(少なくとも客観的には)「現住建造物等」(108条)ですので,注意してください)。

 本条の罪は,1項と2項とに分かれます。

 1項は,「他人の所有」する非現住建造物等を焼損するものです。

   ※ 1項には「他人の所有に係る」とは書かれていませんが,2項が「自己の所有に係る」ものとされていることから,このように解されます(なお,「他人の所有」でも「自己の所有」でもない物(「無主物」といいます)については,後にみるように,軽い2項の方が適用されます(通説))。

 2項は,「自己の所有」する非現住建造物等を焼損するものです。1項よりも軽い刑が定められています。また,当該事案において具体的に「公共の危険」が生じないかぎり,罰せられません。

 ただし,自己所有の建物などでも,火災保険がかけられているものなどについては,他人の財産権の侵害を伴うことになるので,「他人の物」と同様に1項が適用される(115条)ので注意してください。

③建造物等以外放火罪(110条)

 そして,「建造物等以外」放火罪=110条です。

 これは,放火して,「建造物等以外の物」を焼損するという犯罪です。

 自動車・オートバイなどが「建造物等以外の物」の典型例です。

 本条の罪も,1項と2項に分かれます(ただし,109条と異なり,1項についても,具体的な「公共の危険」を生じることが必要です)。

 1項は,「他人の所有」する物を焼損するものです。

 2項は,「自己の所有」する物を焼損するものです。

 ただし,ここでも,自己所有の物でも,保険がかけられているなど他人の財産権の侵害を伴う場合には,「他人の物」と同様に1項が適用されることになります(115条)。

「抽象的公共危険罪」(108条・109条1項)と「具体的公共危険罪」(109条2項・110条)

 放火の罪は,前述のとおり,「公共危険罪」です。

 ただし,「現住建造物」等放火(108条)・「他人所有の非現住建造物」等放火(109条1項)については,構成要件上,とくに「公共の危険」を生じることが要求されてはいません。このようなものを「抽象的公共危険罪」(抽象的危険犯)といいます。

 他方,「自己所有の非現住建造物」等放火(109条2項)・「建造物等以外」放火(110条)については,とくに「公共の危険」を生じることが要求されています。このようなものを「具体的公共危険罪」(具体的危険犯)といいます。

 108条・109条1項の場合は,それ自体に当然に「公共の危険」の観念を含んでいると考えられるのに対して,109条2項・110条の場合は,必ずしもそのようにいえないことから,具体的に「公共の危険」を生じることを要求しているものとされます(大判明44・4・24)。

  条   文

    客   体

 行為 ・ 結果

        刑   罰

 

 108条

 

 建  造  物  等

 現  住 (現  在)

 

 放    火

 焼    損

 

 死   刑

 無期懲役

 有期懲役 (5年以上)

 

 109条1項


 建  造  物  等

 非 現 住 (非 現 在)

 他  人  所  有

 放    火

 焼    損

 

 有期懲役(2年以上)

 

 109条2項

 

 建  造  物  等

 非 現 住 (非 現 在)

 自  己  所  有

 放    火

 焼    損

 公共の危険

 有期懲役(6月以上7年以下)

 

 110条1項

 

 建造物等以外の物

 

 他  人  所  有

 放    火

 焼    損

 公共の危険

 有期懲役(1年以上10年以下)

 

 110条2項

 

 建造物等以外の物

 

 自  己  所  有

 放    火

 焼    損

 公共の危険

 

 有期懲役(1年以下)

 罰  金(10万円以下)

保護法益

 放火罪については,その法定刑の重さにかんがみて,公共危険罪として,危険にさらされる「不特定または多数の人の生命・身体・財産の安全」(公共の安全)を第1次的な保護法益とするものといえます。

 しかし,

①非現住建造物放火罪について,「自己の所有」にかかるものであるときは,具体的な公共の危険を生じないかぎり不可罰としていること(109条2項)

②放火の目的物が「自己」の所有物であるとき(109条2項・110条2項)は,「他人」の所有物であるとき(109条1項・110条1項)に比して,軽い刑を定めていること

③自己の所有物に対する放火であっても,他人の財産権の侵害を伴う場合は,他人の所有物に対するものと同様に重く処罰する趣旨を定めていること(115条)

を考慮すると,「個人の財産」に対する罪としての性格も有しているといえます。

 さらに,「現住」建造物(108条)か「非現住」建造物(109条)かによって法定刑に差があることからすると,「個人の生命・身体」に対する罪としての性格も有しているといえます。

 ただし,あくまでも放火罪の保護法益は第1次的には「公共の安全」であって,「個人の財産」および「個人の生命・身体」の保護は第2次的(間接的)なものであることに注意を要します。

   ※ 放火罪の保護法益が第1次的には「公共の安全」であることからすれば,後に検討するように,①1個の放火行為で「現住建造物」と「非現住建造物」を故意に焼損しても,発生する公共の危険は,まとめて1個と評価されるので,重い「現住建造物放火罪」一罪が成立することになります。

      また,②「現住建造物」に放火する目的で隣の「非現住建造物」に放火し,「非現住建造物」を焼損しただけで「現住建造物」には燃え移らなかったときでも,「現住建造物放火罪の未遂」一罪が成立することになります(未遂は「刑を減軽することができる」が(43条本文),法定刑自体は既遂と同じなので,「非現住建造物放火罪の既遂」よりも「現住建造物放火罪の未遂」の方が重い)

      判例も,放火罪は,静謐な公共的利益の侵害を主とし,個人の財産的法益の侵害はその従たるものにすぎないから,本罪の法益はその主たる関係を基準とすべきであるとして,1個の放火行為により数個の建造物を焼損したときは,これを包括的に観察して1個の放火罪とすべきであるとしています (大判大11・12・13)。

 

                                                                  現住建造物等放火罪