各論目次

  第1節 騒乱の罪(106条・107条)

騒乱の罪は,①騒乱罪(106条)と,②多衆不解散罪(107条)()に分かれます。

    1 騒乱罪(106条)

(騒乱)

 106条 多衆で集合して暴行又は脅迫をした者 → 騒乱の罪とし,次の区別に従って処断

   ※ 騒乱事件は,第2次大戦直後に多発しましたが,その後は,新宿駅騒乱事件(最決昭59・12・21(事件は昭和43年))などの例外を除いて,発生していません。

意 義

 「騒乱罪」は,「多衆で集合して暴行・脅迫をする」という犯罪です。

 一定の地域における公共の平穏を害する行為を内容とするものです。

内乱罪との「共通点」

 騒乱罪は,内乱罪と同じく,多衆での行為を内容としますから,必要的共犯としての集合犯(衆合犯・多衆犯)です。

 また,行為者の演じた役割によって刑に軽重があることも共通します。

内乱罪との「相違点」

 しかし,内乱罪のように「組織化」された集団が行う必要はありません。たとえば,烏合の衆であってもよく,「首謀者」が存在しなくても,各人が騒乱行為に加わる意思をもって集まれば足ります。共通の「目的」も不要です。

 その他,①国家的法益ではなく「社会的法益」に対する罪であること,②未遂・予備の規定がないこと,③殺人罪・放火罪などを吸収しないことなどが,内乱罪と異なります。

     (1) 主 体

 本罪の主体は,「集合」した「多衆」です。

多 衆

 「多衆」とは,多数人の集団をいいます。

 本罪の保護法益は,公共の平穏ですから,一地方における公共の平和・静謐(せいひつ)を害する(周辺地域の人心に生命・身体・財産に危害を加えられるのではないかという不安を与える)に足りる暴行・脅迫をするのに適当な多人数であることを要します(最判昭35・12・8)。

   ※ なお,本条にいう「多衆」といえるかどうかについては,人数だけでなく,参加者の性質,持っている凶器類,集合の時間・場所などを総合して,一般人を基準に客観的に判断する必要があります。

集 合

 「集合」とは,多数人が時と場所を同じくすることをいいます。

     (2) 行 為

 本罪の行為は,多衆で集合して暴行または脅迫をすることです。

程 度

 本条にいう暴行・脅迫は,一地方における公共の平和・静謐を害するに足りるものでなければなりません(最決昭59・12・21)。

   ※ 「一地方」にあたるか否かについては,単に暴行・脅迫が行われた地域の広狭や居住者の多少のみでなく,その地域が社会生活において占める重要性や,同所を利用する一般市民の動き,同所を職域として勤務する者の活動状況,さらには,当該騒動が,その周辺地域の人心にまで不安を与えるに足りる程度のものであったか等の観点から決定すべきであるとされます(同上)。

暴行(最広義)

 本罪の「暴行」は,不法な有形力のすべてを含みます(最広義の暴行)。

 人に対するものでも,物に対するものでも構いません

 したがって,路上に駐車してある無人の自動車を転覆させることや,建物の不法占拠・不法侵入も(最判昭35・12・8),これにあたります。

脅迫(広義)

 本罪の「脅迫」は,単に害悪の告知をすれば足り,その内容を問いません(広義の脅迫)。

抽象的危険犯

 暴行・脅迫は,上記のとおり,一地方の平穏を害するに足りる程度のものでなければなりませんが,本罪が成立するためには,その平穏が現実に害されたことは必要ありません

   ※ 判例は,「本条は,多衆で集合して暴行・脅迫したときは,その行為自体に当然地方の静謐・公共の平和を害する危険性を包蔵すると認めたがゆえに騒乱罪として処罰するものであるから,同罪の成立には,群衆の暴動に発展し社会の治安を動揺させる危険,または,社会の治安に不安・動揺を生じさせた事実を必要とするものではない」としており(最判昭28・5・21),抽象的危険犯と解されています(平野・中森,反対;大塚[具体的危険犯])。

     (3) 主観的要件

「共同意思」の意義

 騒乱罪は集合犯であり,多衆が共同して暴行・脅迫をするという「共同意思」を必要とします(最判昭35・12・8)。

   ※ 「共同意思」は,個人を超えた集団としての多衆に共通する全体の意思であり,参加者である個々の行為者の故意とは区別された,暴行・脅迫が多衆のものとして行われることを基礎づけるものであるといえます。

     それゆえ,共同意思とは,「集団として暴行・脅迫を加える意思」をいい,これにもとづいて,集団として(多衆の合同力によって)暴行・脅迫が行われたときに,公共の平穏を害する危険を有する行為となります。

     したがって,共同意思は,本罪における主観的違法要素であり,これが類型化された主観的構成要件要素であると解されます(団藤・大塚・大谷など通説,反対;平野(他の者と集合して暴行・脅迫を加える意思であり責任要素であるとする))。

「共同意思」の内容

 共同意思は,具体的には

  ① 多衆の合同力をたのんで(=いいことに)自ら暴行・脅迫をする意思

  ② 多衆に暴行・脅迫をさせる意思

  ③ 多衆の合同力に加わる意思

に分けられます。

 集合した多衆が,このいずれかの意思を有する者によって構成されているときに,その多衆の「共同意思」があることになります(最判昭35・12・8)。

   ※ 上記のような「共同意思」にもとづかない暴行・脅迫が,多衆の中の一員によって行われたとしても,本罪にはあたりません。

   ※ 「共同意思」は,暴行・脅迫を多衆としての集団自体のものとして行う意思ですから,多衆を構成する各個人相互における意思連絡・相互認識は必要ではありません。

   ※ 「共同意思」は,集合の当初から存在する必要はありません。

  「共同意思」があるというためには,「騒乱行為に加わる意思」は「確定的」であることを要しますが,「多衆の合同力による暴行・脅迫の事態の発生」については「予見」で足り,確定的な認識までは要しません(最判昭35・12・8,最決昭53・9・4,通説,反対;中山)。

   ※ なお,同一地域において,構成を異にする複数の集団により時間・場所を異にして暴行・脅迫が行われた場合でも,先行の集団による暴行・脅迫により触発・刺激され,その暴行・脅迫の事実を認識・認容しつつ,これを承継する形態において,その集団による暴行・脅迫に時間的・場所的に近接して,後の集団による暴行・脅迫が順次継続的に行われたときは,各集団による暴行・脅迫は全体として同一の共同意思によるものというべきであるとされます(最決昭59・12・21)。

     (4) 役割と刑の軽重

 騒乱罪は,内乱罪と同じく,行為者の演じた役割によって刑に軽重があります。

 すなわち,本条は,共同意思にもとづく多衆による暴行・脅迫の存在を前提としたうえで,①首謀者(1号),②指揮者・率先助勢者(2号),③付和随行者(3号)の3種に区別して差異を設けているわけです。

 なお,本罪は集団犯罪ですから,いずれもみずからが暴行・脅迫をすることは必要ありません(大判昭2・6・8参照)。

      ア 首謀者

     1号 首謀者 → 1年以上10年以下の懲役又は禁錮

 本罪の「首謀者」とは,騒乱行為の主動者(中心人物)となって,多衆に,その合同力により暴行・脅迫をなすに至らせる者をいいます。 

 必ずしも1人であるとは限りません。 

 途中から参加した者でも首謀者となりえます。

 現場において統率することは必要ありません(最判昭28・5・21)。

   ※ 前述のように,騒乱状態は烏合の衆のような集団においても生ずるので,「首謀者」のいない騒乱罪もありえます。

      イ  指揮者・率先助勢者

     2号 他人を指揮し,又は他人に率先して勢いを助けた者 → 6月以上7年以下の懲役又は禁錮

指揮者

 「他人を指揮し……た者」(指揮者)とは,騒乱行為に際し,多衆の一部または全部に対して指図する者をいいます。

率先助勢者

 「他人に率先して勢いを助けた者」(率先助勢者)とは,多衆に抜きんでて騒乱の勢いを増大させる者をいいます(最決昭53・9・4)。

 たとえば,暴動の意義を唱え,その決行を促す演説をして多衆を激励するような者です。

   ※ 率先助勢行為のときすでに共同意思が形成されていることは要しません(共同意思が形成される以前においても本罪を構成することがあるということです(最決昭53・9・4))。 

現場で行う必要なし

 指揮行為・率先助勢行為も,現場においてすることは必要ではなく,事前に他の場所でなされた場合などでもかまいません(大判昭5・4・24)。

     ウ 付和随行者

     3号 付和随行した者 → 10万円以下の罰金

意 義

 「付和随行した者」(付和随行者)とは,多数の者が暴行・脅迫を行うため形成しつつある集団,または,形成した集団に,共同意思をもって付和雷同的に参加した者をいいます。

   ※ 付和随行者もみずから暴行・脅迫をすることは要しませんが,もし暴行・脅迫をしたとしても(共同意思によるものであれば)本罪によって処罰されることになります。

      そうすると,暴行罪(208条)・脅迫罪(222条)を単独で行った場合(両罪の法定刑の上限は2年以下の懲役)よりも,かなり刑が軽いことになります。

      これは,群集心理に駆られた行為であるため,類型的に責任(非難可能性)が軽いからであるとされます。

 主観的要素

 付和随行行為というためには,多衆が暴行・脅迫を行うということを認識していなければなりません。

 また,「共同意思」(集団として暴行・脅迫を加える意思)がなければ,(暴行・脅迫を行ったとしても)付和随行者にはなりません

     (5) 集団外の関与者(総則の共犯規定の適用の有無)

 暴行・脅迫をする多衆の集団外において騒乱に関与する行為については,総則の共犯規定(60条以下)は適用されないと解されます(団藤・大塚・内田)。

 集合犯(必要的共犯)としての本罪については,前述の3つの態様において関与の形態が定められているからです。

 判例も,謀議参与者は,首謀者でないかぎり,本条2号・3号所定の行為をしない以上,本罪に問えないとしています(大判明44・9・25)。

   ※ 上記に対して,関与の形態に応じて総則の共犯規定を適用しうるとする見解も有力です(藤木・大谷・中森・前田・山口)。

      ただ,前述のように,「首謀者」,「指揮・率先助勢者」は,騒乱の現場で行為することを要しないので,結論の差はそれほど大きくないともいえます(中森)。

     (6) 他罪との関連

暴行罪・脅迫罪(不成立)

 騒乱罪における暴行・脅迫は,暴行罪・脅迫罪にあたらないものでも足りますが,これらの罪にいう暴行・脅迫も当然に包含しています。

 したがって,暴行・脅迫行為は,騒乱罪に吸収されて,別罪(暴行罪・脅迫罪)を構成しません。

暴行罪・脅迫罪以外の罪(成立・判例)

 暴行・脅迫が同時に他の罪名(公務執行妨害罪・住居侵入罪・殺人罪・恐喝罪・建造物損壊罪など)に触れる場合,判例は,これらの罪と騒乱罪との観念的競合(54条1項前段)を認めています。

 暴行罪・脅迫罪を超えた犯罪について刑事責任を否定する理由はないので,それぞれの犯罪の成立を認める判例の立場は妥当といえます(大塚・中森・山口)。

   ※ これに対して,公務執行妨害罪・住居侵入罪・建造物損壊罪などについては,騒乱行為として予想されるもの(人また物に対する暴行)であるとして,騒乱罪に吸収されるとする見解もあります(大谷)。 ただし,騒乱の際に行われる放火行為については,判例の立場はもとより,大谷説に立っても,騒乱罪に吸収されるものではなく,別罪(放火罪)を構成することになるでしょう。

 

                                                                             多衆不解散罪