各論目次

      2 公文書偽造等罪(155条)

意 義 

 本条の罪は,「公文書」を客体とするものです。

 公文書は,公の機関が法的な根拠にもとづいて作成するものです。そのような性質上,私文書よりも証拠力が強く,公衆の信用度も高いといえます。また,偽造による被害の程度も,一段と大きいことが予想されます。

 そこで,本条は,公文書の偽造・変造を,私文書の場合(159条)よりも重く処罰することにしています。

類 型

 本条の罪は,客体である公文書が「有印」か「無印」か,行為態様が「偽造」か「変造」かによって,

  ①有印公文書偽造(1項)

  ②有印公文書変造(2項)

  ③無印公文書偽造(3項前段)

  ④無印公文書変造(3項後段)

に分かれます。

       (1) 有印公文書偽造罪(1項)・変造罪(2項)

        ア 有印公文書偽造罪(1項)

(公文書偽造等)

 155条1項 行使の目的で,

         公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して

         公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し,又は

         偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して

         公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者 → 1年以上10年以下の懲役

 「有印公文書偽造罪」は,行為の目的で,公務所・公務員の「印章・署名を使用」して,「公務所・公務員の作成すべき文書・図画」を「偽造」するという犯罪です。

 使用する印章・署名が,真正の場合が前段,偽造の場合が後段です。

  ※ なお,押印がなくても,「署名」があれば,「有印」というので注意してください。

         (ア) 主 体

制限なし

 本罪の主体は,とくに制限されません。

 公務員でない者が本罪を犯しうることはもちろんですが,公務員であっても,自分に作成権限がないのに,他の公務員等の名義で文書を作成すれば,本罪にあたります(最判昭25・2・28)。

代決者

 逆に,名義人本人でなくとも,名義人の名前で文書を作る権限が与えられている者であれば,当該文書を作成することが許されるのは当然です。

 それゆえ,名義人の決済を待たずに自らの判断で公文書を作成することが一般的に許されている者(代決者)が,名義人の名前で文書を作成しても「偽造」にはなりません。

 たとえば,市長の名義で印鑑証明書を作成する権限が与えられた市民課長などが,これにあたります。

補助公務員の作成権限

 さらに,代決者の「補助者」(補助公務員)も,公文書の内容の正確性を確保するなど,その者への授権を基礎づける一定の基本的な条件に従う限度においては,作成権限を有するものと考えられます。

 最判昭51・5・6は,この見地から,市民課長の補助者として一定の手続のもとで印鑑証明書を作成する権限を有していた市民課員が,申請書の提出等をせずにこれを作成しても,申請書の提出は主に印鑑証明書の内容の正確性を担保するためのものなので,その正確性に問題がないような場合には,作成権限にもとづいてこれを作成したものといえるとして,本罪は成立しないとしています。

  ※ このような考え方に対しては,「文書の内容が正確ならば作成権限がある」という解釈は,刑法が「偽造」(無権限)と「虚偽作成」(内容虚偽)を区別している建前に反するという指摘もあります(大谷・西田)。しかし,補助公務員については,全面的に作成権限が与えられているわけではなく,内容の正確さをその限度としているのですから,判示は不当とはいえないでしょう(曽根)。

  ※ なお,山口教授によると,公務所という組織の中で文書が作成される場合には,次のような形態の関与者が存在するとされます。

     ① 公文書の「作成名義人」

     ② 作成名義人から,決裁を待たずに自らの判断で公文書を作成する権限(代決権)が与えられている「代決者」

     ③ 事前の決裁を受けずに(決裁は事後になされる),一定の手続に従って公文書を作成することが許されている「準代決者」

     ④ 公文書の起案を行うが,決裁は作成権限者(代決者)が行う「起案担当者」

     ⑤ 単なる文書作成作業を担当するにすぎない「機械的補助者」

    そして,①作成名義人・②代決者については,権限を濫用して公文書を作成しても,公文書偽造罪は成立しない(内容虚偽の公文書を作成した場合に,虚偽公文書作成罪が成立しうるにとどまる)とされます。

    他方,④起案担当者・⑤機械的補助者については,作成権限が認められていないから,これらの者が公文書を勝手に作成すれば,公文書偽造罪が成立することについては問題はない,とされます。

    そのうえで,問題は③準代決者であるとし,(事前の)決裁なしに公文書の作成が許されているという意味において作成権限を肯定できるとされています(上記最判昭51・5・6については,理解しうるとされます)。

         (イ) 客 体

 本罪の客体は,公務所・公務員の作成すべき文書・図画(公文書・公図画)です。

          a 文書の概念

 ここでは,少し長くなりますが,まず「文書」一般について,その概念を勉強しておきましょう(前述のとおり「文書」は広い意味では図画を含みます)。

 なお,ここで説明することは,基本的に私文書にも共通するものであることは当然です。

定 義

 「文書」とは,文字またはこれに代わるべき符号を用い,ある程度永続すべき状態において,物体の上に記載した意思・観念の表示をいいます(大判明43・9・30参照)。

           (a) 文書の性質・内容

 「文書」は,これに対する公衆の信用を保護するという見地から,刑法上の保護に値する実質を備えたものでなければなりません。

 そこで,一般に,以下のような性質・内容をもつものであることが要求されています。

可視性

 文書は,「文字」または文字に代わる「可視的な符合」を用いたものでなければなりません。

 「文字」は,外国文字も含みます。拡大して可読的となるマイクロフィルムに表示されたものなどでも構いません。

 「符合」とは,点字・電信記号・速記符号などをさします。

  ※ 可視的な象形的符合を用いるものが「図画」ということになります。

 音声を録音したもの(録音テープなど)は,「可視的」なものではないので,「文書」ではありません。

  ※ ビデオテープも,機械的処理により変換されなければ視ることができないので,「文書」にあたらないとされます。マイクロフィルムが,リーダーで拡大すれば,表示自体を直接視ることができるのとは違うわけです(山口参照)。なお,ビデオテープは,「電磁的記録」の問題となるでしょう(前田)。

永続性

 文書は,特定人の意思・観念を保存して事実関係の証拠となるところに意義があります。そこで,証拠とするに足りる程度の「永続性」(持続性)が必要となります。

 たとえば,砂に書かれた文字や,板に水で書かれた文字のように,短時間で消え去るものは「文書」とはいえません。少なくとも,黒板にチョークで記載する程度の永続性を要するでしょう(最判昭38・12・24参照)。

意思・観念の表示

 文書は,物体上に「意思」または「観念」が表示されたものでなければなりません。

   ※ 表示する「物体」は,必ずしも「紙」であることは要しません。前掲大判明43・9・30は,「陶器」への記載を文書にあたるとしています。

 特定人の「意思」・「観念」を表示したものであると客観的に理解できるものであることを要します。

 たとえば,番号札や,人格または事物の同一性を表示するにすぎない名刺・門札などは,文書ではありません。

  ※ なお,ここでいっている「名刺」は,名刺そのもののことです。私文書偽造罪のところでみるように,名刺を利用して,これになにかを書き込んだような場合は別論です。

 他方,法令または慣習上,一定の意味が与えられていて,それが客観的に理解できるものであるかぎり,簡略化された「省略文書」(短縮文書)も,文書といえます。判例では,郵便日付印なども,公文書にあたるとされています(大判昭3・10・9)。

  ※ 郵便日付印については,判例のいうように,郵便物の引受けを証明する郵便局の署名ある「文書」(省略文書)と解するのが妥当ですが(藤木・中森・前田・山口),「印章」(165条)であるとする見解もあります(団藤・大塚,なお平野・大谷(場合による))。

社会生活上の重要性

 文書といえるためには,そこに表示された意思・観念が,社会生活における重要な事実について,なんらかの証拠となるものでなければなりません。

 単に思想を表示したにすぎない小説・詩歌などは,文書にあたりません。

           (b) 名義人の存在

意 義

 文書には「名義人」(作成名義人)が存在することが必要です。

 「名義人」とは,「文書の記載内容から理解される意識内容の主体」ないし「文書に表示された意思・観念の主体」をいいます(大塚・大谷・前田・山口・井田など通説)。

  ※ 「名義人」の意義については,後でもう少し詳しく勉強します。

 文書の証拠としての価値は,名義人が表示した意思・観念の内容について責任を追及できるというところにあります。それゆえ,名義人が明らかでないものは,信用性に乏しく,本罪における「文書」とはいえないのです。

名義人の判別

 もっとも,紙片等自体に名義人が明示されていなくても,それに付随する物体から知りうるのであれば,「文書」といえます。

 たとえば,(私文書の例ですが)「アルコール含有量を証する用紙」が,「製造会社名の表示されている焼酎瓶」に貼付されているときは,「文書」にあたるとされます(大判昭7・5・23)。つまり,「用紙」の貼られている瓶に「製造会社名」が表示されているのであるから,それをみれぱ「用紙」の名義人がその会社であることは判断できるということです。

  ※ 学説上も,「文書の内容・形式・筆跡,または,これに密接に付随する物体などから判断しうれば足りる」として,判例を支持する見解が多数です(大塚・川端・中森・井田,反対;大谷)。

架空の名義人

 文書の名義人は,生者か死者かを問いません。また,実在する人(団体)か,架空の人(団体)かも問いません。

 たとえば,実在しない「○○局××課」名義の書面も,その形式・外観において一般人をして実在する公務所が作成した公文書であると誤信させるに足りれば,公文書偽造罪にあたるとされます(最判昭36・3・30)。

           (c) 文書の確定性

 文書が公共的信用性を有するためには,確定的な意思・観念の表示であることを要するとされます(大塚・大谷・曽根など通説)。

 それゆえ,不確定な意思・観念の表示である草案・草稿などは,文書とはいえません(ただし,中森)。

           (d) 写真コピーと文書

文書の原本性

 また,従来,文書は「原本」であることを要し,「写し」は文書ではないとされてきました。

 写しは,これを作成する者の意思・観念が入り込む場合があるから,公衆の信用は希薄であって,刑法上その真正を保護する必要はないと考えられてきたわけです。

  ※ なお,写しであっても,「これは××の写し(または謄本)である。○○○○㊞」というような認証文言がある場合は,認証者を名義人とする新たな文書(原本)となるので注意してください。

写真コピーは「文書」か

 しかし,複写技術が進歩し,原本と同じ影蹟を正確に紙面に顕出することが可能になりました。

 そうすると,社会生活上,事実証明などのために書類が必要となる場合において,原本の提出が事実上困難なとき,あるいは便宜上,電子複写装置による写真コピーの提出によって,これに代えさせるということが行われるようになります。

 それに伴って,偽りの写真コピーを作成して,その原本の存在を信じさせるという態様の行為が発生しました。

 そこで,昭和40年代からコピーによる写しの文書性が問題となったわけです。

  ※ なお,この論点は,あくまでもコピーを「コピーとして用いる」場合の問題です。コピーを「原本そのものに見せかける」場合が文書偽造の罪にあたる点は争いありません。

判 例

 この点,下級審判例は分かれましたが,最判昭51・4・30は,「文書偽造罪は,文書に対する公共的信用を保護法益とするものであるから,その客体となる文書は,原本たる公文書に限る根拠はなく,写しであっても,原本と同一の意識内容を保有し,証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有するかぎり,これに含まれる」とし,「写真コピーは,同一内容の原本の存在を信用させるだけではなく,原本作成者の意識内容が直接伝達保有されている文書とみうるようなものである」として,「文書本来の性質上,写真コピーが原本と同様の機能と信用性を有しえない場合を除き,公文書偽造罪の客体たりうる」旨を判示しました。

 つまり,まず,「写し」も,①原本と同一の意識内容を保有し,②証明文書として原本と同様の「社会的機能」と「信用性」を有するものであれば,文書に含まれるとします。

 そして,「写真コピー」は,①原本作成者の意識内容が保有されているとみうるものであるとします。

 そこで,文書の性質上,写真コピーが,②原本と同様の「社会的機能」と「信用性」を有しえない場合を除いて,「文書」にあたる,としているわけです(つまり,写真コピーについては,②も原則的には認められることを前提としているといってよいでしょう)。

  ※ そのうえで,「この場合,『原本作成名義人』作成名義の公文書と解すべきである」とします。つまり,「名義人」は原本の名義人(公務員)であり,文書から名義人を判別できるということになります。

     そして,さらに,「写真コピーの上に印章・署名が複写されている以上,これを写真コピーの保有する意識内容の場合と別異に解する理由はないから,原本作成名義人の印章・署名のある文書である」とします。つまり,「有印」公文書偽造になるとしているわけです。

(A)肯定説(大塚・藤木・川端・前田・佐久間)

 学説も分かれますが,判例と同様に,写真コピーの文書性を肯定する見解を支持すべきでしょう。

 すなわち,写真コピーは,コピー作成者の意識内容ではなく,「原本の作成者の意識内容」が伝達された文書とみるべきです。そうすると,写真コピーの名義人は,コピー作成者ではなく,「原本の名義人」と解されますから,文書から名義人が判明しうるといえます。

 そして,写真コピーは,これをみる者に,原本そのものに接した場合と同様に認識させる特質をもつものですから,通常,原本と同程度の「社会的機能」と「信用性」を有しているというべきです。

 それゆえ,写真コピーも「文書」として,これに対する公共的信用を保護する必要があるわけです。

(B)否定説(団藤・平野・大谷・曽根・中森・山中・山口)

 これに対して,否定説も,なお多く主張されています。

 この見解は,写真コピーは,原本の意識内容を表示しているものではなく,「原本の存在を証明するもの」にすぎないとします。そして,写真コピーの名義人は,原本の名義人ではなく,「コピーを作成した者」と考えるべきであり,文書自体に名義人が表示されていないので,文書の要件を欠くなどと主張します。

 しかし,この見解に対しては,「実社会において,コピーが原本の代用品として,原本に匹敵する証明力がある文書だとして取り扱われている現実を無視するもの」との批判(藤木)が妥当するでしょう。

   ※ なお,「近い将来,判例が否定説に変更される可能性はないといっても過言ではない」(大谷)でしょう。

ファクシミリ

 なお,その後の下級審判例においては,公文書の内容を改ざんしたうえ,これをファクシミリで送信し,受信先のファクシミリで印字させて作成した写しについても,複写機械による写しとの間に格別の差異があるとはいえないとして,文書にあたるとしたものがあります(広島高岡山支判平8・5・22)。 

 ファクシミリについても,いわばコピー機の読取機能と印刷機能を分離したにすぎず,前述のコピー文書と同様の原理があてはまることになるから,判示は妥当といえるでしょう(川端・佐久間)。

          b 公務所・公務員の作成すべき文書・図画(公文書・公図画)

 さて,「文書」一般の概念についてはこれくらいにして,「公文書」の話に戻りましょう。

意 義

 「公文書」とは,公務所または公務員が,その名義で,その権限内において,所定の形式に従って作成すべき文書をいいます(大判明45・4・15)。

  ※ 「公務員」とは,「法令により公務に従事する職員」です(7条1項)。詳しくは,公務執行妨害罪(95条1項)の解説を参照してください。

     「公務所」とは,官公庁その他「公務員が職務を行う所」をいいます(7条2項)。「職務を行う所」というのは,場所や建物ではなく,組織体や機関を意味します。

職務執行につき作成すべきもの

 公文書は,上記のとおり,公務所・公務員が,その権限にもとづいて,作成すべき文書です。

 公文書の作成権限は法令・内規・慣例のいずれを根拠とするものかは問わず,その「職務執行の範囲内」で作成されるべきものであれば足ります(前掲大判明45・4・15)。

 他方,たとえば,公務員の「退職願」などは,職務の執行につき作成すべきものではないので,「公文書」にあたりません(大判大10・9・24)。私的な挨拶状・私的な会合の連絡文書なども,(仮に公務員としての肩書が記載されていたとしても)同様です。

 ただし,公衆の信用を保護する見地からは,本来作成権限のない公務員を名義人として文書を偽造した場合でも,一般人をして権限内において作成されたと信じさせうる形式・外観を備えているときは,「公文書」にあたると解されます(最判昭28・2・20)。

私法上の関係で作成されたものでもよい

 公文書は,公務所・公務員が作成すべき文書であればよいので,公法上の関係で作成されたものであるか,私法上の関係で作成されたものであるかは問いません。

 たとえば,公務所の物品購入のための売買契約書や,市長の作成する市庁舎建設請負契約書なども「公文書」となりえます。

  ※ なお,「公図画」とされた例として,①日本専売公社(当時)の製造たばこの外箱(最判昭33・4・10(合法的な専売品であることを証明する意思を表示している)),②地方法務局出張所名が記載された表紙に編綴された土地台帳付属の地図(最決昭45・6・30)などがあります。

         (ウ) 行 為

 本罪の行為は,公務所・公務員の印章・署名を使用して,公文書を「偽造」することです。

          a 偽 造

 ここでも,まず「偽造」一般の概念を勉強しておきましょう。

           (a) 意 義

 「偽造」とは,従来,(A)「他人の名義を偽って(冒用して)文書を作成すること」とされてきました(大判明43・12・20,最判昭51・5・6,大塚・藤木・大谷・井田)。

 これに対して,近時は,(B)「名義人と作成者との人格の同一性を偽ること」と表現する見解が有力です(最判昭59・2・17,最決平15・10・6,山中・前田・山口)。

 作成者が「他人の名義を冒用すること」と「名義人との人格の同一性を偽ること」とは,結局,同じ意味です。したがって,どちらを使っても構いません。

  ※ 「『偽造』とは,「『権限なしに他人名義の文書を作成すること(他人名義の冒用)』,すなわち『文書の名義人と現実の作成者とが一致しない文書を作成すること』をいう」など,両者の定義を並列的に記述するものもあります(曽根・川端)。

 ただ,たとえば,後ほど私文書偽造罪のところで勉強するように,一定範囲で通用している「通称名」で文書を作成した場合などでは,「他人名義の冒用か」ととらえるよりも,「作成者と別の人格を名義人として表示させたか」を問題とする方が明確であるとはいえます。

 本HPでは,これ以降は,主に(B)説の方の表現を用いたいと思います。

           (b) 「名義人」と「作成者」

 「偽造」は,上記のように,「作成者」が「名義人」との同一性を偽ること(「作成者」が「名義人」の名義を冒用すること)です。つまり,「作成者」と「名義人」がズレているとき(名義人≠作成者)に,「偽造」になるわけです。

 そこで,「作成者」と「名義人」の概念をはっきりさせておく必要があります。

名義人

 まず,「名義人」(作成名義人)の方ですが,これは,前述のとおり,「文書の記載内容から理解される意識内容の主体」(文書に表示された意思・観念の主体)をいいます。

  ※ 思想主体説といわれることがあります(通説)。ほかに,「文書を作成すること自体に関する責任の主体」とする少数説(責任主体説)があります(曽根・川端)。

 「文書の記載内容」(文書に表示された意思・観念)をみる人が,「あぁ,『この人』の意思や認識が表されているんだな」と考えるところの,『この人』をさすわけです。

 通常は,たとえば,文書に「志方信夫」と署名してあれば,「あぁ,『志方信夫』という人の意思・認識が表されているんだな」と考えるのですから,「志方信夫」を名義人とみればよいわけです(実際に誰がその文書を作ったのかは関係ありません。それは,次の「作成者」の問題です。「名義人」は,文書をみる人がどう考えるのかというお話です。)。

 前述の「写真コピー」の論点においても,判例・有力説によれば,コピーをみる者が「原本の作成者の意識内容を表示している」と考えるから,「原本の作成者(公文書であれば公務所・公務員)」を「名義人」であると認めることができるわけです(そして,「作成者」はコピーをとった人ですから,「名義人≠作成者」として「偽造」になるのです)。

 そのほか,とくにどのような事例で「名義人が誰か」が問題となるのかについては,私文書偽造罪の方で詳しく勉強することにしましょう。

作成者

 次に,「作成者」です。文書の「作成者」の意義についても,争いがありますが,文書において重要なのは,誰の意思・観念を表示させたかということですから,「文書の内容を表示させた意思の主体」と解するのが妥当です(意思説,後掲B説)。

   ※ 「観念説」・「精神(性)説」・「事実的意思説」などともいわれます。

 通常は,ある人が,自分で,現実に(物理的に)文書を作って,その内容を表示させるのですから,その人を「作成者」と考えればよいだけのことです(文字どおり「文書を作成した人」です)。

 問題となるのは,物理的に文書を作る行為をした人と,それをさせた人とが別にいる場合に,どちらを「作成者」と考えるかということです。

  [学説のポイント]

   A.行為説(事実説・物体化説)

      [内容] これは,「現実に文書作成行為をした者」を「作成者」とする見解です。

            たとえば,市長Xが秘書Aに文書を作らせた場合,実際に文書を作成した「秘書A」が作成者ということになります。

            現在のわが国ではほとんど主張されていません(なお,山中)。   

      [批判] この見解によると,他人の同意を得て(指示により),その名義の文書を作成した場合であっても,「名義人」(市長X)と「作成者」(秘書A)との同一性に齟齬が生じるので,「偽造」にあたることになってしまいます。

      [反論] これに対して,A説からは,名義人の同意があるときは,違法性が阻却されると考えればよいと反論されます。

      [再批判] しかし,①そもそも上記のような場合に偽造罪の構成要件該当性を認めることは妥当とは思われませんし,②文書偽造罪は社会法益に対する罪であって,名義人個人の利益に対する罪ではないことからすると,同意による違法性阻却というような理論構成をすることには疑問があります。

   B.意思説(大塚・大谷・曽根・川端・井田など通説)

      [内容] 通説は,「文書の内容を表示させた意思の主体」を「作成者」とします。

            上記の例では,文書の内容を表示させた「市長X」が作成者ということになります(したがって,「名義人」と「作成者」とが一致するので,「偽造」にあたらない(構成要件に該当しない)ということになります)。

      [理由] この見解は,誰の意思・観念を表示させたかが,文書において重要なことであるということを根拠とします。

   C.効果説(規範的意思説,平野・町野など少数説)

      [内容] ほかに,「文書の効果が帰属する者」を「作成者」とする少数説があります。

         ※ この説は載っていない教科書も多いのですが,旧短答式試験に出たことがあるので,一応みておきましょう。

      [理由] この見解は,名義人が責任を負わなければならないときは,文書に対する信頼は害されないから,「偽造」とする必要はないということを根拠とします。

            つまり,名義人に効果が帰属する場合は,名義人が文書の内容どおりの責任を負うのであるから,文書に対する信頼は害されない。そこで,この場合,文書の効果が帰属する名義人を「作成者」とみて,「偽造」にならないと考えるわけです。

      [批判①] これに対しては,たとえば,公序良俗に反する文書でも,名義人本人が作成したのであれば,偽造にはならないではないかという批判があります。

              ※ 名義人本人が文書を作成したのであれば,「偽造」(有形偽造)となることはありません。

                 ところが,公序良俗に反する文書は,無効であり,その効果は名義人に帰属しません(民法90条)。そうすると,C説に従うと,「名義人」は「作成者」ではないということになり,「偽造」になってしまうではないか,ということです。

      [批判②] 他方で,代理人が権限を「逸脱」して文書を作成した場合でも,第三者が善意者保護規定により保護されるときは,「偽造」が成立しなくなってしまうではないかという批判もあります。

              ※ 代理人が権限を「逸脱」するということは,その文書を本人の名義で作成する権限はなかったことになりますから,「偽造」が成立します。

                 ところが,代理人が無権限の場合でも,第三者がそれを知らなかったときは,一定の要件のもとで本人が責任を負わなければならないことがあります(民法109条・110条・112条等)。つまり,本人に文書の効果が帰属するということです。そうすると,C説によると,本人(名義人)が「作成者」であるということになってしまい,「偽造」が成立しなくなってしまうではないか,ということです。

           (c) 偽造の手段・方法

 偽造の手段・方法には,とくに限定はありません。

 名義人を道具とする間接正犯の方法でも構いません。たとえば,他の文書であると欺いて名義人に署名させるような場合が考えられます。

 新しく文書を作成することはもちろん,すでに完成している真正文書を改ざんする方法でも構いません(ただし,後者の場合,「非本質的部分」の改ざんにとどまれば「変造」です)。

 また,権限のない者が,文書として未完成で証明力を有するに至っていないものを利用して文書として完成させる行為も,偽造の一態様です。 

           (d) 偽造の程度

 偽造された文書は,正規の作成権限を有する者がその権限内で作成した真正文書であると一般人が見誤る程度の形式・外観を備えていることを要します。

 たとえば,本来作成権限のない公務員を作成名義人として公文書を偽造した場合でも,一般人をして権限内において作成されたと信じさせうる形式・外観を備えているときは,公文書偽造罪となりえます(前掲最判昭28・2・20)。

 なお,別人の氏名等が書かれた紙片を置きメンディングテープで全体を覆った運転免許証を作成した行為について,手に取れば改ざんが見破れるとしても,金融会社の無人の自動契約受付機から係員の前のディスプレイに表示させる電子機器を通しての呈示・使用も含め,免許証に通常想定される行使の態様を考えると,切貼り等も必ずしもすぐに気づくとはいえないから,一般人をして真正に作成された免許証であると誤認させるに足りる程度であると認められるとして,公文書偽造(・同行使)罪の成立を認めた下級審判例があります(大阪地判平8・7・8)。

          b 印章・署名の使用

  さて,「偽造」概念の説明はこれくらいにして(「変造」との区別については,後でもう少し勉強します),「公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して」という部分を理解しておきましょう。

           (a) 印章・署名

印 章

 公務所・公務員の「印章」とは,公務所・公務員の人格を表彰するために物体上に顕出された文字・符合の影蹟(印影・押印)をいいます。

  ※ 後で勉強する「印章偽造の罪」(19章)に関しては,「印章」が,(A)「印影」に限られるのか(通説),(B)「印鑑」も含むのか(判例),争いがあります。ただ,いずれにせよ,有印公文書(有印私文書)偽造との関係では,文書上に「印影」が表示されていることが不可欠です(山口参照)。

 必ずしも公務員であることを表示するものであることは要せず, 公務員が職務上公務員の印章として使用するものであれば「認印」などでも構いません(大判昭9・2・24)。

署 名

 「署名」について,「自署」(自分で名前を書くこと)がこれにあたることは問題ありません。

 「記名」(代筆・印刷などによる氏名の表記)もこれに含まれるかについては争いがありますが,記名も主体の同一性を表示する点で自署と同様の社会的機能を営むものであることからすれば,これを肯定すべきです(大判大4・10・20,平野・中森・山中・前田・山口・佐久間など通説)。

  ※ 「署名」を自署に限るとする反対説もありますが(団藤・大塚・大谷・曽根),法が「公務所……の……署名」というものもありうることを前提としていることからすれば,無理があります。なお,印章と署名はどちらかでもよいので,反対説によっても「記名・押印」があるときに「有印」となるのはいうまでもありません。

           (b) 使 用

真正の印章・署名の使用(前段)

 印章・署名の使用とは,真正の印鑑を不正に押捺し,または,正当に物体上に表示された印影・署名を不正に使用することをいいます(大判大3・6・13)。

 たとえば,甲が,無権限で,税務署長印のある納税証明書を作成した場合において,使用した印章が真正なものであるときなどが,これにあたります。

「偽造した」印章・署名の使用(後段)

 「偽造した」印章・署名の使用とは,権限を有しない者が不正に物体上に表示した印影・署名を利用することをいいます。

 たとえば,上記の例(甲が,無権限で,税務署長印のある納税証明書を作成した場合)において,使用した印章が偽造したものであるときなどは,これにあたります

 必ずしも偽造した印鑑を押捺する必要はなく,公務所・公務員の印章であると一般人を誤信させるに足りる程度に類似した影蹟を表示すればよいとされます。

 使用する印章・署名は,自己が偽造したものでも,他人が偽造したものでも構いません。自己が偽造した印章・署名を使用して文書を偽造したときは,印章・署名の偽造・使用は,本罪に吸収されます(後述の「印章偽造の罪」は別個に成立しないということです)。

         (エ) 目 的

 本罪の成立には,故意(「公務所・公務員の印章・署名を使用して公務所・公務員の作成すべき文書・図画を偽造すること」の認識・認容)のほか,「行使の目的」が必要です。

 「行使の目的」とは,他人をして偽造文書を真正文書と誤信させようとする目的をいいます。

 文書の本来の用法に従って使用することに限らず,真正な文書として役立たせる目的があれば足ります(最決昭29・4・15)。

  ※ 選挙の投票通知書を,本来の用法(投票所入場券に代わるべき文書としての用途に供する)ではなく,投票期日に出頭したことを証明する資料とする目的で,偽造したという事案です。

 行使の目的は,未必的・条件付きのものでもよいとされます(大判大11・4・11,通説)。

        イ 有印公文書変造罪(2項)

       2項 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者 → 前項と同様(1年以上10年以下の懲役)

 「有印公文書変造罪」は,公務所・公務員が押印・署名した文書・図画を「変造」するという犯罪です。

  ※ なお,本項以降の偽造・変造罪についても「行使の目的」を要するものと解されています。

         (ア) 変造の意義

 「変造」とは,作成権限のない者が,真正に成立している他人名義の文書の「非本質的部分」に変更を加えることをいいます。

  ※ 154条・155条・159条の「変造」は,いずれもこの意味です(156条の「変造」は異なります)。

         (イ) 「偽造」と「変造」の区別

 「偽造」と「変造」は同一条文内での相違ですから,その限界が多少あいまいであっても大きな不都合は生じません。

 ただし,判例上この問題が争われたものも多いとされます(短答式試験でもときどき問われています)。

「偽造」となる場合

 権限のない者が,既存の文書を改ざんした場合において,文書の「本質的部分」に変更を加えて,従来のものと文書の同一性を欠く,新たな証明力を有する文書を作出する行為は,「偽造」となります。

 したがって,①既存の有効な文書の重要な点を改ざんして,以前のものとは全然別個の新しい文書とした場合や,②効力が消滅して排紙に帰した文書を利用して,新たな文書を作成した場合などは,「偽造」ということになります。

 たとえば,次のような行為は,「偽造」にあたると考えられます。

  (ア) 郵便貯金通帳の「貯金者」欄の記載を変更する行為(大判大15・5・13)

  (イ) 外国人登録証明書・運転免許証・旅券(パスポート)などの「写真」を貼りかえる行為(最決昭31・3・6,最決昭35・1・12)

   ※ 「自己の運転免許証を他人に売り渡そうと考え,免許証に貼りつけてある自分の写真を剥ぎとった」というだけでは,新たな証明力を作出するものではないので,「偽造」にあたりません(「変造」でもありません)。

  (ウ) 自動車運転免許証の種類を普通免許から大型免許に改変する行為

  (エ) 旅券の有効期間経過後,その有効期間を延長するため,発行年月日を改変する行為

「変造」となる場合

 これに対し,権限のない者が,既存文書の「非本質的部分」に変更を加えて,新たな証明力を有する文書を作出する行為が,「変造」です。

 たとえば,次のような行為は,「変造」にあたるとされています。

  (ア) 有効な借用証書の金額を増減する行為(大判明44・11・9)

  (イ) 不動産登記済証の抵当権欄の登記順位の番号を変更する行為(大判昭2・7・8)

  (ウ) 郵便貯金通帳の「貯金預入年月日」を改ざんする行為(大判昭11・11・9)

「偽造」と「変造」の区別

 文書の「本質的部分」の変更(偽造)か,「非本質的部分」の変更(変造)かの区別は必ずしも明確ではありませんが,変更前のものと「文書としての同一性を有するか」どうかを基準とし,同一性を有する場合は「非本質的部分」の変更として「変造」にあたると解すべきことになります(大塚・大谷・山中)。

  ※ なお,権限のない者が,既存の文書を改ざんしたうえ,その写真コピーを作成した場合,前述のとおり,作成された写真コピーは原本の意識内容を直接表示しているとして,写真コピーの名義人は「原本の名義人」であると考えるべきです(判例・有力説)。そうすると,写真コピーを原本とは別個の(新たな)「文書」にあたると解すべきことになるので,原本の改ざんが「非本質的部分」になされた場合であったとしても,写真コピーの作成行為は「偽造」となり,「変造」と認める余地はないということになります(最決昭61・6・27)。

         (ウ) 「変造」にもならない場合

 既存の「偽造文書」(不真正文書)に変更を加えた場合は,新たな公共的信用を害する危険を生じさせるものではないため,「変造」にならないと考えられます。

 また,既存の真正文書に変更を加えても,文書の証明力を滅却したにとどまる場合(借用証書の金額欄を塗りつぶすなど)は,文書の「毀棄」(40章)が問題となりうるにすぎません。 

       (2) 無印公文書偽造罪・変造罪(3項)

       3項 前2項に規定するもののほか,

          公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し,又は

          公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者 → 3年以下の懲役又は20万円以下の罰金

 本罪は,有印公文書以外の公文書の偽造・変造を処罰するものです。「前2項に規定するもののほか」というのは,印章・署名を使用しない「無印」公文書・公図画を表す趣旨です。

 もっとも,前述のように,「記名」があれば「有印」になるとの見解を採れば(判例・通説),無印の公文書はまれなものということになるでしょう(前田・山口)。

  ※ 判例では,(旧)国鉄が手荷物の発送に使用した駅名札(大判明42・6・28)や,物品税証紙(最決昭29・8・20)などが,無印公文書にあたるとされています。

 本罪の行為は「偽造」(無印公文書偽造罪)・「変造」(無印公文書変造罪)です。それぞれの意味については,既述のところを参照してください。

 

                                                                        虚偽公文書作成等罪