各論目次

      1 公務執行妨害罪(95条1項) 

(公務執行妨害及び職務強要)

 95条1項 公務員が職務を執行するに当たり,これに対して暴行又は脅迫を加えた者

               ↓

        3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金

         ※ 本条については,検挙件数が急増している情勢にかんがみ,「罰金」刑が新設されました(平成18年)。

意 義

 「公務執行妨害罪」は,「公務員が職務を執行するにあたり,公務員に対して暴行または脅迫を加える」という犯罪です。

 行為者が,客観的にこのような行為をするとともに,自らこのような行為をしていると認識していること(構成要件的故意)が必要です。

  ※ なお,本HPでは故意を構成要件要素とする見解(大塚・大谷・川端・井田,曽根・前田・佐伯)を前提とします。

       (1) 主 体

 本罪の主体(行為者)には,とくに制限はありません。

 「職務執行の対象となっていない第三者」が,公務員に対して暴行・脅迫を加えた場合であっても,本罪は成立します。

       (2) 客 体

        ア 総 説

公務員 

 本罪の行為の客体(行為が向けられる対象)は,「公務員」です(保護の客体(保護法益)は,「公務」なので注意してください)

 たとえば,執行官(公務員)の補助者として家財道具の搬出をする運送会社の作業員に暴行を加えた場合,「作業員に対して」公務執行妨害罪が成立するということはありません。

  ※ ただし,後で勉強するように,本罪の「暴行」は間接的に公務員に影響しうるものでもよいとされます。したがって,上記のように,公務員の補助者を暴行することも,「公務員に対して」暴行を加えたものとして,本罪が成立しえます。       

  ※ なお,「公務員」には,外国の公務員は含まれません。       

みなし公務員を含む

 「公務員」には,いわゆる「みなし公務員」が含まれます。

 「みなし公務員」とは,法律によって「公務に従事する職員とみなす」とされるものです。

 日本銀行の職員,営団の職員,準起訴手続における指定弁護士(刑訴法268条)などが,これにあたります。最近話題の駐車監視員もそうです。

        イ 「公務員」の意義

 「公務員」については7条1項が定義していますので,ここで少し勉強しておきましょう。

(定義)

 7条1項 この法律において「公務員」とは,

       国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員,委員その他の職員をいう。

 「国の職員」・「地方公共団体の職員」

 「国家公務員」と「地方公務員」のことです。

 ただ,これらは例示にすぎませんので,重要なのは「法令により公務に従事する(議員,委員その他の)職員」というところです。

 議員・委員

 「議員」とは,衆・参両議院の議員,地方議会の議員です。

 「委員」とは,法令により一定の公務を委任された非常勤の者です(各種審議会委員・司法試験考査委員など)。

職 員

 「職員」については,少し争いがあります。

 ここでいう「職員」とは,法令により国または地方公共団体の機関として公務に従事する者をいいます。

 職制上「職員」とよばれる者であるか否かは問わず,「事務員」などでも構いません。

 ただ,刑法が公務員の範囲を「職員」に限ろうとした趣旨は,一定程度以上の地位にある者のみを「公務員」とすることによって,公務員の品位を保持するとともに,公の作用を円滑・適正に行わせようとすることにあります。

 それゆえ,「職員」というためには「ある程度,精神的・知能的な事務にたずさわる者」であることを要し,用務員など「単純な機械的・肉体的労務に従事するにすぎない者」はこれに含まれないと解されます(大判昭12・5・10,大塚・前田など通説)。

  ※ 異説(平野・大谷・山口)もありますが,実際の結論はあまり変わらないという指摘があります(西田)。

 この点,(旧)郵便集配人については,郵便物の取集め・配達のような単純な機械的・肉体的労務だけでなく,民訴法・郵便法等の規程にもとづく精神的労務に属する事務もあわせて担当していることから,「職員」とされました(最判昭35・3・1)。

       (3) 行 為

 本罪の行為は,「公務員が職務を執行するに当たり,これに対して暴行又は脅迫を加え」ることです。

        ア 職務を執行するに当たり

         (ア) 職務の執行

 本罪の暴行・脅迫は,「公務員が職務を執行するに当たり」なされることを要します。

          a 「職務」の範囲

(A)非限定説(最判昭53・6・29<長田電報局事件>,平野・大塚・大谷・西田・山口・佐久間)

 「職務」の範囲については争いがありますが,公務が国民に奉仕するものとして厚く保護されるべきことからすれば,すべての公務が含まれるものと解すべきです。

(B)限定説(団藤・藤木・川端・中森)

 これに対して,「権力的公務」(権力的に行われる公務)などにかぎるとする見解も有力です。

  ※ 正確には「強制力を伴う権力的公務」というべきであると思われますが,この点については業務妨害罪(233条後段・234条)との関係で勉強しましょう。

 しかし,本罪の保護法益は公務の円滑な実施にあるのであり,非権力的公務(通常の法人と同じように財産権・事業の主体として行われる公務)も国民に奉仕する「公務」である以上,これを除外する理由はないというべきです。

 したがって,たとえば,公務員が庁舎において机上で行う職務を妨害したときも,公務執行妨害罪が成立すると解されます。

          b 職務を「執行するに当たり」

意 義

 「職務を執行するに当たり」とは,「職務を執行する際に」という意味です(大谷)。

具体的な職務

 「職務の執行」は,個別的・具体的に特定されるものでなければなりません(勤務時間中だからといって,当然にこれにあたるわけではありません)。

 たとえば,パトロール中の警察官が「喫茶店で休憩してコーヒーを飲んでいる際」,これに暴行を加えても公務執行妨害罪は成立しません。

「本来の職務」と「一体的関係にある行為」

 また,「職務の執行」は,本来の職務か,これと時間的・場所的に接着して「一体的関係」にある行為であることを要します。

 この見地から,判例は,国鉄(当時)の助役が「職員の点呼を終了後,次の職務である事務引継ぎに赴く際」は,職務の執行中にあたらないとしています(最判昭45・12・22)。

 他方で,国鉄の運転士が「駅到着後,終業点呼を受けるために当直助役のもとに赴く際」は,職務の執行中にあたるとしています(最決昭54・1・10)。

 後者においては,「終業点呼が運転状況・動力車の状態の報告など乗務に直結する内容をもって構成されている」ということが重視されているようです。

職務に「着手」しようとしている場合も含む

 職務に着手しようとしている場合も,職務を「執行するに当たり」に含まれます。

 たとえば,警察官が「2階で賭博行為をしている者を逮捕しようとして階段にさしかかったとき」も,職務の執行中にあたります。

  ※ 「翌日の捜査」を妨害するためにあらかじめ暴行を加えるようなときは,これにあたりません。

継続した一連の職務とみるべき場合

 なお,職務の性質によっては,その内容を個別的に分断するのではなく,継続した一連の職務とみるべき場合もありえます。

 判例には,電報局長など局務全般にわたる「統轄的な性質の職務」については,その執行が一時中断されているかのようにみえても,なお一体性・継続性を有する職務執行中であったとみるのが相当であるとしたものがあります(前掲最判昭53・6・29)。

 また,県議会委員長が,議事が紛糾したため「休憩を宣言し退席しようとした際」についても,「休憩宣言後も委員会の秩序を保持し,紛議に対処するための職責を現に執行していた」と認められるとしたものがあります(最決平元・3・10)。

         (イ) 職務執行の適法性

          a 意 義

 95条1項は公務員が「職務を執行するに当たり」と規定しており,「『適法な』職務を執行するに当たり」とは書かれていません。

 しかし,公務員の違法行為は,およそ「職務の執行」とはいえませんから,これに対する防衛行為は,そもそも公務執行妨害罪の構成要件に該当しないというべきです。

 したがって,職務執行が適法であること(職務執行の適法性)は,本罪の構成要件要素になると解されます(通説)。

  ※ 書かれていないが,書かれているように読むということです。

          b 適法性の「要件」

 職務執行が適法であるといえるためには,|蠑歸職務権限に属すること,具体的職務権限を有すること,重要な要件・方式を履践していることという,3つの要件を充たす必要があります。

           (a) 抽象的権限

 公務員は行うことができる職務の範囲が法令上限定されています。これを抽象的職務権限といいます。

 この抽象的職務権限を逸脱してなされた行為は,職務の執行とはいえません。

 たとえば,そもそも警察官には租税を徴収するという権限はありませんから,これを適法な職務とはいえないわけです(したがって,これを殴っても「公務執行妨害罪」にはあたりません。)。

           (b) 具体的権限

 抽象的職務権限があっても,現実にその職務を執行する権限(具体的職務権限)にもとづいていなければ,その行為を職務の執行とはいえません。

 たとえば,執行官が民事執行を行うことは抽象的には職務の範囲といえますが,現実にこれを行いうるのは,自己に分配された事件についてのみということになります(執行官法で決められています。)。

           (c) 重要な要件・方式の履践

 具体的職務権限があっても,法律上「重要な」要件・方式を践んでいないときは,適法な職務執行とはいえません(通説)。

 この点,法律上の要件・方式に違反した公務員の行為はすべて適法な職務執行とはいえないとする見解もありますが(瀧川),軽微な違反であっても,すべてこれを職務として保護しないとするのは妥当ではありません。

 たとえば,)[畩紂だ婆浬隶が所得税の調査をするときは身分証明書を携帯しなければならないと規定されていますが,これを携帯していなかったからといって税務署員の調査行為が直ちに職務の執行ではないということになるわけではありません(最判昭27・3・28)。

 また,地方議会の議長の議事運営が,規則に違反するなど法令上の適法要件を完全には充たしていなかったとしても,具体的な事実関係のもとにおいて,暴行等による妨害から保護されるに値する行為は,職務の執行にあたるともされています(最大判42・5・24)。

 いかなる性質の要件・方式違反が執行行為を違法なものとするかについては争いがありますが,職務執行が有効であるのに刑法上保護を与えないとするのは妥当ではありませんので,職務執行が無効となるときに違法な執行行為になるものと考えます(大谷)。

  ※ 下級審では, 崑疂畩により被疑者を逮捕するには,逮捕状を被疑者に示さなければならない」とする規定(刑訴法201条1項)に違反して,逮捕状を示さずに被疑者を逮捕した場合(大阪高判昭32・7・22),◆崑疂畩を所持しないためこれを示すことができない場合において,急速を要するときは,被疑者に対して被疑事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて,その執行をすることができる」とする規定(逮捕状の緊急執行,同法201条2項・73条3項本文)に違反して,「令状が発せられている旨」は告げたが,「被疑事実の要旨」は告げないで逮捕した場合(東京高判昭34・4・30)などが,違法とされています。これらは,被疑者に重大な不利益を与えるものですから,執行行為は無効とすべきでしょう。

  ,修旅坩戮当該公務員の抽象的職務権限に属する。

       ↓

  当該公務員がその行為をする具体的職務権限を有する。

       ↓

  その執行を有効にする法律上の重要な要件・方式を履践している。

       ↓

   適法な職務の執行   

       ↓

   これを妨害すると公務執行妨害罪の構成要件に該当する。

          c 適法性の「判断基準」

 では,上記の要件を充たすかどうかは,どのように(誰の視点で,どの時点で明らかになった事情を考慮して)判断すべきでしょうか。

 この点,職務執行の適法性は,法令に従って決すべきものですから,「裁判官」が客観的に判断すると解するのが妥当です(客観説)。

 そして,これは当該行為が職務執行として認められるかどうかの問題ですから,「行為当時の状況」にもとづいて合理的に判断されるべきであると考えます(行為時基準説)。

 まり,職務執行の適法性は,裁判官が,行為当時の状況にもとづいて,合理的に判断するということになります(後掲(C1)説,最決昭41・4・14,団藤・平野・板倉・中森・前田・山口・井田など多数説)。

[学説のポイント]

 まず,職務行為が適法かどうかは,誰の視点で判断すべきかを考えてみましょう。

 (A)主観説(泉二)

 [内容] この点,かつて,職務を行った「公務員の判断」を基準とする見解が主張されました。

 [批判] しかし,この見解では,たとえば,当該警察官が適法だと思ってさえいれば,それだけでその逮捕に抵抗する行為が公務執行妨害罪にあたることになってしまい,妥当ではありません。

 (B)折衷説(牧野)

 [内容] また,行為当時に「一般人が行うであろう判断」を基準とする見解があります。

       これは,とりあえず「適法な外観を備えた職務」を保護しようとするものといえます。

 [批判] しかし,この見解に対しては,一般人を基準にするのでは不明確であるとの批判が妥当します。

   ※ 折衷説は,近時,川端教授や大谷教授らによって見直されていますが,なお少数説です。

 (C)客観説(通説)

 [内容] そこで,「裁判官が客観的に判断」すべきであるとする見解が通説となっています。

 [理由] 適法性は,裁判官が法令に従って決すべきものであるということです。

 ただし,客観説は,「どの時点で明らかになった事情を考慮して判断すべきか」について,さらに2つに分かれます。

  (C1)行為時基準説(ゆるやかな客観説,判例・多数説)

 [内容] その1は,裁判官が「行為当時の状況」にもとづいて合理的に判断するとの見解です。

       これは,「行為時における適正な職務」を保護しようとするものであるといえるでしょう。

 [理由] 職務の適法性の要件は,当該行為が職務執行として法律上認められるかどうかの問題だから,あくまでも行為当時の状況にもとづいて判断されるべきであると考えるわけです。

 [帰結] したがって,たとえば,「逮捕時には刑訴法の要件を具備していたが,裁判時までに犯人でないことが判明した」という場合でも,「逮捕時には刑訴法の要件を具備していた」以上,その逮捕行為の適法性は肯定されることになります(これに暴行・脅迫を加えれば,公務執行妨害罪に該当します)。

  (C2)裁判時基準説(純客観説,大塚・曽根・船山・佐久間)

 [内容] その2は,裁判官が「裁判時の証拠等から事後的に」判断するとの見解です。

        これは,「真に適法な職務」のみを保護しようとするものであるといえるでしょう。

 [帰結] この見解によれば,「逮捕時には刑訴法の要件を具備していたが,裁判時までに犯人でないことが判明した」という場合,「裁判時までに犯人でないことが判明した」以上,結局,その逮捕行為の適法性も否定されることになります(これに暴行・脅迫を加えても,公務執行妨害罪には該当しません)。

 [批判] しかし,この見解だと,逮捕時に真に犯人と認められるような客観的状況があった場合でも,後に真犯人が現れたときは,逮捕がすべて違法になってしまいます。そうすると,刑訴法上の適正な職務執行に対して暴行・脅迫を加えることも許されることとなり,公務の保護を不当に軽視するものといわざるをえません。

        イ 暴行・脅迫

意 義

 本罪の行為は,「暴行」または「脅迫」です。

 「暴行」とは,不法な有形力の行使をいいます。

 「脅迫」とは,(恐怖心を起こさせるために)害悪を告知することをいいます。

  ※ したがって,「偽計」を用いて公務の執行を妨害したような場合(たとえば,119番で虚偽の通報をして消防車を出動させた場合)は,本罪は成立しません(公務の性質によって,業務妨害罪(233条後段)が成立することがあります(判例・通説)。)。

広義の暴行

 本罪の暴行は,「公務員に向けられたもの」であることを要します。このように「人に向けられた有形力の行使」を「広義の暴行」といいます。

  ※ したがって,以下のような行為は,いずれも本罪の「暴行」にあたりません。

     〃抻ヾ韻紡疂瓩気譴修Δ砲覆辰身反佑,自分の首にナイフをあてて「近づくと自殺するぞ」と叫ぶ行為

    ◆〃抻ヾ韻捜索・差押えをするために屋外で待機中に,屋内で差押えの目的物である書類を破り捨てる行為

     法廷の傍聴席で発煙筒に点火して傍聴席を混乱させて審理を中断させる行為

    ぁ.レージに忍び込んで消防車のタイヤに穴をあける行為

 他方,「公務員に向けられたもの」であれば足りるので,公務員の身体に直接加えられるものにかぎりません。

 警察官の「足下」に物を投げつける行為も,本罪の「暴行」にあたります。

間接暴行

 本罪の暴行は,間接的に公務員に物理的・心理的に感応(影響)しうるもの(間接暴行)であれば足りると解されます。

 それゆえ,直接には公務員でない者に対するものであってもよい場合があります。

 たとえば,ー更坿韻諒篏者として家財道具の搬出にあたっている運送会社の作業員を殴打する行為も,「執行官」に対する暴行になります(最判昭41・3・24)。

 仲間が警察官に手錠をかけられそうになっているのをみて,仲間を逃がすつもりでその手を引っぱって警察官から引き離す行為も,「警察官」に対する暴行になります。

 また,物に対して加えられるものも含まれます

 たとえば,仝務員が職務のために閲読中の書類を奪い取る行為も,本罪の「暴行」にあたります。

 さらに,∈垢群,気┐銅動車に積載された密造酒入りの瓶を鉈で破砕する行為(最判昭33・10・14)や,差し押さえて現場に置かれた覚せい剤のアンプルを踏みつけて損壊する行為(最決昭34・8・27)なども,これにあたるとされます。

  ※ ◆Νのように,公務員の身体に物理的に影響しないものまで本罪の「暴行」とすることには批判もありますが(平野・大塚・中森),本罪の場合,公務執行の円滑性を害する不法な有形力の行使が問題となるのですから,判例の立場は不当ではありません(植松・大谷)。

積極的な暴行・脅迫

 本罪の暴行・脅迫は,積極的なものであることを要します。

 たとえば,警察官に逮捕されそうになった際,その手を振り放して逃走しただけでは,本罪の「暴行」にあたりません。

  ※ また,最大判昭26・7・18は,労働争議に際して検挙に向かった警察官に対し,スクラムを組み労働歌を高唱して気勢をあげただけでは,本罪の「暴行・脅迫」にはあたらないとしています(「スクラムによって振り切るとか,体力をもって跳ね返すなど,積極的な抵抗が必要である」とする)。

抽象的危険犯

 本罪は,暴行・脅迫を加えれば,その時点で成立します。現実に公務員の職務の執行が妨害されるに至ることは必要ありません(最判昭33・9・30)。本罪は,抽象的危険犯と解されます。

 たとえば, 峅晶菠の執行のためビルに入ろうとした執行官に対し,ビルの所有者が包丁を振り上げて『ビルの中に入ったら殺すぞ』と脅したため,執行官が執行を断念して引き上げた」という場合,執行官が執行を断念したときではなく,これを「脅した時点」で本罪が成立することになります。

 また,公務執行中の警察官に向かって陶器製の徳利を振りかざして殴りかかったが,傍らにいた人に取り上げられて,現に殴りつけるに至らなかったという場合でも,殴りかかった時点で本罪が成立します。

 さらに,H反佑鯊疂瓩靴茲Δ箸靴新抻ヾ韻紡个掘ぁ屬海屬径腓寮个鯏蠅欧弔韻燭,頭をかすめただけであった」というような,1回の瞬間的暴行でも本罪が成立します(前掲最判昭33・9・30)。

       (4) 故意(構成要件的故意)

 以上が,公務執行妨害罪の構成要件の客観面のお話です。さらに,主観面として,構成要件的故意が必要となります。

        ア 内 容

「公務員が職務を執行するに当たり,これに対して暴行又は脅迫を加え」ることの認識

 本罪の故意(構成要件的故意)としては,行為の客体が公務員であること,および,その職務執行に際して暴行・脅迫を加えることの認識(・認容)が必要です。

 適法性の認識

 また,前述のとおり,職務の「適法性」も構成要件の要素と考えるべきですから,故意が認められるためには,その認識も必要です。

 ただ,職務の適法性は,これを規律している法令によって判断しなければなりません(このように,事実をみるだけではなく,規範的・評価的な価値判断を加えないと意味が明らかにならないものを「規範的構成要件要素」といいます。)。

 通常,行為者に,裁判官と同様な,法的な意味で「適法」といえるかどうかという専門家的認識を要求することはできません。ここでは,「当該行為が公務員の職務として行われている」という程度の素人的認識があれば足りると考えられます(大谷)。 

        イ 職務執行の適法性の錯誤

問題の所在

  「客観的に適法」な職務執行を,「主観的に違法」と誤信して,暴行・脅迫を加えた場合,故意を阻却するでしょうか。

  ※ ここでは,「客観的に適法な職務」であることが前提となります。それゆえ,前述の「適法性の判断基準」の論点で,どの学説をとるかによって,この「適法性の錯誤」の論点になるか否かが違ってくる場合があります。

    たとえば,「逮捕時には刑訴法の要件を具備していたが,裁判時までに犯人でないことが判明した」という場合,客観説の「行為時基準説」によれば,警察官の逮捕行為は客観的に「適法」となります。したがって,これを「違法な職務」と誤信して暴行・脅迫を加えれば,この「適法性の錯誤」の論点になります。

    これに対して,「裁判時基準説」によれば,上記の場合,逮捕行為は客観的に「違法」となります。したがって,これに暴行・脅迫を加えても,そもそも公務執行妨害罪の客観的構成要件を充たさないので,この「適法性の錯誤」の問題にはならないわけです。

 では,近時の多数説である「二分説」(大塚・大谷・山口・井田)にしたがって検討してみましょう。

  ※ 事実の錯誤として構成要件的故意を阻却するとする「事実の錯誤説」も有力です(川端・船山・前田)。他方,大審院判例(大判昭7・3・24)は,法律の錯誤(違法性の錯誤)として故意を阻却しないとする「法律の錯誤説」(なお,藤木)を採っているとされますが,本HPでは多数説によっておきます。

 峪実の錯誤」となる場合

 たとえば,「司法警察員Xが,甲を被疑者とする逮捕状を示して甲を逮捕しようとした際,甲は,『逮捕状の記載を見まちがえて,別人を被疑者とする逮捕状』にもとづく違法な逮捕であると思い,Xに暴行を加えた」というときは,職務の適法性を基礎づける「事実」を見誤っています。

 したがって,この場合は,「事実の錯誤」として,構成要件的故意を阻却するものと解されます。

  ※ 「別人の逮捕状で逮捕すること」は重大な違法行為ですから,これに抵抗しても公務執行妨害罪に該当しません。上記甲は,「警察官が別人の逮捕状で自分を逮捕しようとしている」と思って暴行を加えたのですから,自己の行為が公務執行妨害罪の構成要件に該当するという「事実」を認識していないということになります。それゆえ,構成要件的故意が認められないわけです。

◆嵋[Г虜誤」となる場合

 他方,「司法警察員Xが,甲を被疑者とする逮捕状を示して甲を逮捕しようとした際,甲は,『自分は真犯人ではないから,違法な逮捕である』と思い,Xに暴行を加えた」というときは,職務の適法性を基礎づける「事実」は正しく認識していますから,構成要件的故意は阻却しません。

  ※ 「甲を被疑者とする逮捕状で甲を逮捕すること」は適法な職務執行です。甲もその事実を認識しながらXに暴行を加えているのですから,自己の行為が公務執行妨害罪の構成要件に該当するという「事実」は認識していることになります。それゆえ,構成要件的故意は認められるわけです。 

 このように,甲には,「事実の錯誤」はありませんが,「違法な逮捕」であると誤った評価をしており,「法律の錯誤」があることになります。

 「法律の錯誤」の処理については争いがありますが,その「錯誤が避けられなかったとき」にかぎって,責任要素としての故意(責任故意)を阻却するというのが従来の通説です(制限故意説,団藤・藤木・板倉・佐久間・裁書研)。

 ※ なお,近時有力な「責任説」によれば,錯誤が避けられなかったときは「責任」が阻却されることになります(平野・大谷・曽根・山口・井田,なお前田)。詳しくは,総論の「法律の錯誤」のところで勉強します。

        ウ 目的は不問

 上述した認識(故意)があれば,本罪の主観的要件は充足されるので,それ以外に「職務の執行を妨害する『目的』」などは必要ありません。

 たとえば,「日ごろの恨みを晴らす目的」で,交通整理中の警察官に投石をするような場合であっても,本罪が成立します。

       (5) 罪数・他罪との関係

罪 数

 本罪の罪数は,保護法益(「公務」)の数を基準に決定されるとするのが通説です。

 たとえば,共同して逮捕行為にあたった警察官2名に対しそれぞれ暴行を加えたときにも,1個の公務執行妨害罪が成立することになります(大判昭2・7・11)。

  ※ なお,最大判昭26・5・16は,「公務員」の数を基準としているともされますが,これに対しては,「公務」の個数を公務員ごとに別々に考えた事例だという理解も可能であるとされています(条解)。

暴行罪・脅迫罪は成立しない

 本罪は暴行・脅迫を手段とするため,暴行・脅迫行為は本罪に吸収され別に暴行罪・脅迫罪を構成しません。

観念的競合になる場合

 本罪の行為が,殺人罪・傷害罪・強盗罪・逮捕監禁罪などを構成するときは,両罪の観念的競合となります(通説)。

[用語説明] 観念的競合

 「観念的競合」とは,「1個の行為が数個の罪名に触れる場合」(54条1項前段)をいいます。数個の犯罪が「成立」するのですが,1個の行為であることから一罪に近いものと考えて,刑を科すうえでは「その最も重い刑」だけによって処罰されます。

 なお,科刑上このような特別な扱いを受けるものを「科刑上一罪」といいますが,科刑上一罪には, 峇冉暗競合」のほかに,もう1つ,◆峺O犯」(同条項後段)というものがあります(詳しくは,総論の「罪数」のところで勉強しましょう)。

                                                                              職務強要罪