NPO法人環境研究所豊明 機関紙は年4回発行しています。









機関紙はちどりVol.44 掲載 エネルギー問題  
   

      国の政策に市民が打ち込む楔 
           石井 伸弘   電気をカエル計画代表


はじめに
2011311日の東日本大震災と、福島原発事故からすでに6年が経過しました。この間、何万人もの大規模デモが行われ、最近の世論調査でも再稼働に反対する人が6割近くおり(※1)、国民の意識としては明らかに変化しました。ところが、原発の再稼働は粛々と行われ、川内、伊方、高浜と首都圏から遠い地域から順番に再稼働されてきました。もちろん、54基が動いていた2011年から比較すれば10分の1になったわけですから、国民の意思が反映されているといえなくもありません。

一方で2000年から始まった電力自由化と、2011年から始まった再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)で、東電・中電などの9電力会社(以下電力会社)、が圧倒的な力を持つ状況が徐々に変化しつつあります。

1)毎日新聞世論調査 20173月、日経新聞世論調査 20162

電力自由化で安くなる電気
20164月から家庭向けの電力小売りも自由化され、徐々に切り替えが進んでいます。すでに20177月末時点で、全国平均で8%、東電エリアでは11%が切り替わりました。これからもしばらくこの傾向は続くでしょう。
この傾向を支えるのは、電力の流通価格が下落していること。卸電力取引所で取引されている取引価格は、2014年に1520/kWhだったのをピークに、2016年ごろから812/kWh 程度にまで下がりました。
これらの価格低下を背景に、新電力各社は今まで想像もできなかったような安い価格で、電力供給を始めています。たとえば、2017年、長久手市、愛知県県税事務所、愛知県高等学校などでは、入札の結果、中電の価格と比較して、およそ30%引きの価格で電力を調達しています。

上記は高圧(50W以上)の施設ですが、低圧(50kW未満)でも510%程度は安くなっています。
脱原発の論客として知られる広瀬隆氏をはじめ、「電力は余っている。原発を動かさなくても火力・水力で十分足りる」という主張が震災前からありましたが、実際に原発を一切動かさない時でも電力不足は起きず、その主張は裏付けられたわけです。そして、原発が再稼働すること、FIT電源が増えたことなどで、電力はさらにだぶつき始めました。その結果が電力価格の低下となって表れているとみてよいでしょう。

電力会社も顧客流出阻止へ
このこと自体は消費者である私たちにとって、大変ありがたいことですし、新電力が低価格を武器に顧客獲得がしやすくなる方向へ追い風が吹いていると考えられます。誰でも1%しか価格が下がらないのにわざわざ煩雑な手続きは踏みません。10%低下で3割の人が、30%低下で8割が切り替えたい、とする調査結果もあるほどです。この現状において、面白い新聞記事が先日載りました。中電が、埼玉県本庄市、長野県長野市、上田市のガス会社に、電力卸をするというものです。(※22017721日 中日新聞

本庄市は東電エリアですから中電がガス会社と組んで電力販売に乗り出すのは自然なことですが、面白いのは「長野県内のガス会社に供給する」、という点です。記事を要約すれば、「長野県はもともと中電の供給エリアだが、他の事業者にシェアを取られるくらいなら卸をする方がましという判断をした」、とのこと。つまり中電はそれだけ他の新電力に顧客流出が進むとみている、のでしょう。

電力自由化がすすめる原発再稼働
電力会社の経営は、規制部門である送電部門を除けば、大きく分けて燃料調達、発電、小売りで成り立っていますが、これらはすべて自由化され、競争環境下にあります。

特に競争の激しい首都圏において、東電の2016年度の小売り部門の営業利益率はわずか1%。ほぼ利益が出せないような状況にまで追い込まれています。
電力自由化が日本より先行したドイツでは、シュタットベルケと呼ばれる電力小売りや水道、ガス、熱供給などを手掛ける地域エネルギー公社が1400社ほどあります。このシュタットベルケはドイツ全体でみると電力小売り部門における約半分のシェアを占めていますが、発電部門は大手4社が供給力の7割を占める構造になっています。

このことと、原発再稼働を結び付けて理解すると、極めて残念な結果となります。つまり、電力自由化が進むと、電力会社は電力小売りで利益が出しにくくなります。そのため、資本力・調達力で他社に比較して優位に立つ発電・燃料調達部門で稼がざるを得なくなり、減価償却の終わった原発の発電で利益を得ようとする圧力が高くなるということです。
もちろん、国民にとっては廃炉費用や、事故対策コスト、建設初期の多額の税投入などを含めて考えればちっとも安くない電気ですが、電力会社の帳簿上は明らかに減価償却済みの「安い」電気なのですから。

再エネは「一番安い」エネルギー
エネルギー・原発の問題を考える際に、もう一つ重要なキーワードがあります。「再生可能エネルギー」です。
前述したFIT制度によって、2011年から太陽光発電ブームが起きました。もとから買い取り価格を徐々に低減させていくという方針であり、その方針そのものも間違ってはいないと思いますが、日本における太陽光発電の建設は、買い取り価格の低下とともに2014年をピークにひと段落してしまいました。
要はあまり儲からなくなったことと、大規模建設するための適地がなくなってきてしまった、ということです。風力発電や地熱発電などの買い取り価格はまだ高いものの、日本における適地は多くはないため、導入量にも限界があります。
もちろん、北海道や東北、九州地方など、風力・太陽光ともに適地となる場所はまだ十分にありますが、そのためには送電網への設備投資が不可欠です。また、原発を再稼働したために、電力需要に対して再エネを受け入れる余地が減っていることも要因の一つです。つまるところ、日本政府に再エネを増やそうとする意志が極めて弱いのです。

アメリカのテキサス州などは、砂漠地帯のすぐ隣に大きな都市があります。そういったところでは、土地代はほぼ無料、送電コストも安いので、近年の太陽光パネル価格の下落を受けて、なんと5/Whといった価格で太陽光発電の電気が売られる状況になってきました。将来的には2/Whといった価格も予想(※3)されています。

日本においても経産省の資料では太陽光発電の価格も大変高く出ていますが、実際に売りに出ている80W程度の分譲太陽光発電施設の販売価格は2000万円くらいのものが結構出ています。2000万円を10年で原価償却しようとすれば約24/kWh20年で減価償却しようとすれば12/kWh30年は発電しますから、民間投資する案件として考えても日本においてもLNG火力とほぼ同等レベルまで値段は下がっているのです。
これはインドや中国をはじめとする、これからエネルギーを大量に使う国においても同じ状況です。すでに再生可能エネルギーが石炭火力を抜いて、世界中で最も安い電気となりつつあるのです。3)テキサス州オースティン市エネルギー公社

2016年における各国の再エネ価格    
    単位(円/kWh


 出典:経済産業省総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会(第16回・H28.6)をもとに作成

特筆すべきは中国の政策です。中国はその膨大な人口が使うエネルギーを再エネだけでは賄えないので、計画だけで270基を超える原発建設を促進しています。おそらく過酷事故が一度起きるぐらいではやめないでしょう。米国に原油を握られている現状を打破するためには「石油から電力へのエネルギーシフト=自動車のEV化と、エネルギー自給率向上=再エネ&原発投資」を進めるのは、中国にとって世界覇権をかけた国家戦略。温暖化対策などとはちっとも考えていないはずです。

エネルギーも自分で決める
エネルギー政策は国家戦略の最も重要なものの一つです。残念ながら、日本においては2回の国政選挙で原発・エネルギー政策は争点になりませんでした。現在、国民の意識と政治は明らかにねじれていますから、国民の意識が政治を変えるのか、政治が国民の意識を変えるのか、その岐路に立っているのでしょう。

中国のような国家においては、市民の意見でもってエネルギー政策を変えるのはほぼ不可能です。日本において可能性があるとすれば、時間がかかっても、エネルギーのことも自分たちで決めるという、エネルギー自治の価値観を育てることに尽きると思います。

自分で考えて、自分で選ぶ。自分で支払うお金を、自分の良いと思う会社に支払う。気持ちのいいエネルギーを選ぶ。後ろめたくないエネルギーを選ぶ。なかったら、作る。作るという観点からは、FITを活用した市民共同発電などもあちこちで生まれました。(現在は下火になりましたが)

地域新電力という楔(くさび)
電力の小売りでもいくつかの試みが静かに広がっています。ひとつは、生協が提供する電力販売。こだわりの食品の取り扱いで定評のあるパルシステムコープや、生活クラブ生協といった生協は極めて高い再エネ率の電気を販売するようになりました。泉佐野生協やコープ札幌、グリーンコープなど、再エネ率を将来的に高めていくことを前提に供給を始めたところも生まれています。

もう一つは民間企業。SBエナジー、Looop、じぶん電力など、FITをうまく利用して、再エネ率の高い電力販売をする会社が出ています。
そして最後が、自治体が出資したり、地元企業が出資した地域新電力。エネルギーの地産地消を掲げ、数え方にもよりますが、現在全国で31社、検討中は86自治体。(※4)現在も拡大中です。町内にメガソーラーのある群馬県中之条町が自治体出資で作った電力会社を皮切りに、再エネにこだわったり、コミュニティサービスを提供したりと様々な取り組みを行うようになっています。

現在、私たちも東海地域の複数の自治体と協議しながら自治体出資の地域新電力づくりを模索しています。電力小売り事業を取り巻く環境は、価格競争がこの数年で急に激しくなり、正直参入は大変厳しい面もありますが、なんとか一つでも二つでも形にしていきたいと思っています。

おわりに
脱原発を目指して、とりあえず考えられることは何でもやってきました。デモも選挙応援もやりました。自治体向けに電力切り替えの提案や照明や空調の節電提案もやりました。個人的には市民共同発電所への出資もやりました。成果の出たものも、出なかったものもあります。
現在は自治体出資の地域新電力の立ち上げに主に取り組んでいますが、電力会社のガリバーぶりを改めて感じています。全国の電力会社の売上合計は年間約20兆円。豊明市全体でもざっと年間100億円。(※全国の電力販売量の人口割)これが特段の営業をせずに、他社との比較もされず、オペレーションを回すだけで、小売り部門「だけ」で全国でおよそ1兆円、豊明市でも数億円レベルの利益が毎年計上され、そこから税金が行政に納められます。
生鮮食品、自動車、衣料品、通信・・・。日常使っているものは何でも、常に供給企業側は消費者の選択から逃れられません。電気にはそれがありませんでした。これだけの利益と税収を安定的に生み出す会社であるなら、電力会社の意向が政治に反映されるのは、周辺の「忖度」も含め、むしろ極めて自然なことなのでしょう。電力自由化によって、ようやくそれが変わろうとしています。
環境意識の高い人がハイブリッドカーを選ぶことで、それが日本におけるスタンダードになりました。再エネの多い電気、原発を使わない電気がスタンダードとなる日を目指して、市民の手による電力会社を作ろうと思います。