リニア中央新幹線は大井川の巨大水抜きパイプ

(1)どういう工事かな? 

トンネル工事は、大きくシールド工法と山岳トンネル工法とに2分されます。前者は平地のやわらかな地層でとられるもので、巨大な円筒形の機械を回転させて穴を掘り、あらかじめ組み立てておいた内壁をくっつけてゆく工法です。やわらかな地層なので地盤に空間を保つ力はなく、組み立てた壁がトンネル空間を構築します。地下鉄工事や海底トンネル工事で用いられており、リニア中央新幹線の大都市大深度区間でも用いられる見込みです。

いっぽう山岳トンネル工法は、硬い地層で用いられる工法であり、岩に開けた空間を、周囲の岩の保持力で構築させるという点で、シールド工法と異なります。いくつか種類がありますが、南アルプスのトンネル工事では、NATMという工法をとることになっています。

これは、削岩機や火薬で岩を砕いて穴を掘り、掘ったそばから岩に巨大な鉄棒(ロックボルト)を打ち込み、コンクリートを吹き付け、防水シートを張り、その上にさらに分厚くコンクリートを塗り固め、トンネルを築いてゆくという順序になります。1970年頃に山岳国のオーストリアで開発されたことからNew Austrian Tunnel Method(新オーストリア工法)、略してNATMと呼ばれます。現在、山岳トンネル工事の主流となっている工法です。

シールド工法では壁を張り付けながら掘削を進めるため、地下水の湧出はさほど問題がないとされていますが、山岳トンネル工法の場合は、原理的に避けることができないそうです。

岩の隙間から水がドボドボ流れ出すと、岩肌が崩れてしまったりコンクリートが固まらなくなったりして、工事ができなくなってしまいます。そこで、本坑の周囲に小断面の穴を掘ったりして、徹底的に水を抜く作業がおこなわれます。また、トンネル完成後も完全に湧水を止めることは不可能です。

それゆえ、山岳トンネル工事には、地上の水枯れはつきものです。

ここでは、リニア中央新幹線の南アルプス横断トンネル建設が、大井川にあたえる影響について見てみます。


図1 南アルプス横断部分


図2 大井川流域

南アルプス第2の高峰、間ノ岳(3189m)から南に東俣(ひがしまた)という川が流れ出しています。

また、荒川岳の北西からぐるっと時計回りに、西俣という川が流れています。

二本の川は二軒小屋という地点で合流し、大井川と名を改め、ここから168kmを流れ下り、駿河湾に注いでいます。

「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」とうたわれたように、3000mの高標高差を流れ下る名だたる暴れ川でしたが、その落差を利用して水力発電が盛んに行われ、往時の姿はありません。

余談ですが、両側を2500m級の山々にはさまれた大規模ば峡谷というのは、日本国内には南アルプスの大井川と野呂川、北アルプスの黒部川、高瀬川、梓川しかありません。そういう意味でも特異な環境を有しています。
(2)流量減少予測の見方はどうなってるのかな? 


さて、リニアのトンネルは、幅約11kmの大井川流域を東西に横断します。それだけでなく、地表から本坑に向かう斜坑も2本掘られます。言ってみれば、大井川の谷底下方に水抜きパイプを設けるような位置関係となります。

そのため、大井川の流量を減少させてしまいます。JR東海による環境影響評価から、新聞報道では2立方メートル/秒の減少と書かれています。(2立方メートル/秒=2トン/秒 わずらわしさを避けるため、2㎥/sとします)

2㎥/sという流量は、流域面積数十平方キロメートルの河川に相当する流量です。大井川流域63万人の上水道として取水されている量にも相当します。

ところで、この「2㎥/s」という数値の妥当性について検証する必要があると思います。というのも、本当にそのまま信用してよいのかどうか、よく分からないからです。

「2立方メートル/秒の減少」という話は、環境影響評価準備書の「水資源」のページに掲載された内容に基づきます。該当部分をコピーしておきます。例えば田代ダム(二軒小屋にある取水堰)下流側で現況9.03㎥/sが7.14㎥/sに減少すると予測されています。図3の青く囲った部分に当たります。

ところがこの表、よく見ると現況の流量のところに(解析)という文字が添えられています。
 
これは、流量を予測する計算の前提として用いた、理論上の値のことをさすんですね。トンネル工事終了後の流量も、当然この解析値が前提となっています。
 
それじゃあ、本当の流量はどうなんだ?と思って準備書を見回してみると「水質」というところに実際に現地で測った値が載せられていました(図3下段)。
 
「水質」のところで、先ほどと同じ田代ダム下流側の流量実測値を見てみると、1.2〜1.3㎥/sという値になっています(図3で赤く囲った部分)。
 


図3 大井川上流部の流量解析値と現地測定値 準備書を複製・加筆


「水質」のページにおける流量の現地調査地点と、「水資源」のページにおける流量の解析・予測地点の位置関係を並べておきます。


図4 流量現地調査地点と流量解析地点 準備書を複製・加筆

 



実際の流量は1.2〜1.3㎥/秒程度なのに、計算の前提とした値は9㎥/秒?

詳細な位置関係については省きますが、他の地点についても同様な傾向にあります。
全体として、解析値は実測値の5〜7倍となっています。 
 
なんかおかしくありませんか?
 
この準備書を読むにあたっては、本当は
「現況9.03㎥/sが7.14㎥/sに2㎥/sの減少」
 
ではな
 
「2〜3割の減少」
 
と解すべきであり
 
ということは
 
「現況1.3㎥/秒が1㎥/秒にまで減少」
 
することを意味するんじゃ・・・?

よくわからないので、「準備書に対する意見」としてJR東海に送りましたが、見解書でも回答は得られませんでした。

二軒小屋取水堰では、発電のために、分水嶺をくぐって富士川水系へと送水されています。「解析値」は、この影響がない場合を想定しているのかとも思い、この取水量を調べてみました。準備書に記載があったのですが、その値は4.99㎥/s。ですから現地調査での実測値と合わせると6㎥/s程度となります。

取水していない場合は6㎥/sですので、これでも解析値9㎥/sの7割弱。

どうも、シミュレーションが実際の水環境をうまく再現できていないように思われるのであります。 


しかも図3下段の流量実測値をよく見ると、「地点番号03西俣」という観測地点では、豊水時よりも低水時のほうが流量が豊富になっています。こういう意味不明な記載をするあたり、本当に現地の状況を把握しているのか、疑わしいところです。

(4)客観的な検証ができない!

このように、JR東海自身によるシミュレーションが、その見方さえもよく分からないのです。

こうした調査結果に対し、一般の人々や外部の専門家から検証をしてもらうために、環境影響評価には「準備書に対する意見の提出」という制度が設けられています。

ところが、これすらできないようになっているのがリニアの準備書。



まず真っ先に「なんでこんなに水を引き込んでしまうのだろう」と疑問に思うのですが、それについての説明が準備書にはほとんどありません。とにかく、説明も資料もおそろしく不十分です。
 
申し分程度に地質断面図が2枚貼り付けられていました。
 
それがこれ。
 
まずは静岡県版準備書8-2-2地下水より


図5 準備書記載の地質断面図


それから2枚目、 静岡県版準備書「資料編」より


図6 準備書記載の地質断面図 その2


あと、方法書のときから使用されている、国が作成した平面上の地質図がありましたが、それは省略。
 
「超」がつくほど大雑把のように見受けられます。長さ10km以上の断面を、わずか30pに縮小してあるからです。
 
図6は試算のもととした図らしいのですが、別ページの注釈によれば、「水平方向に100m×100m、垂直方向に25m」の解像度で試算をおこない、そのモデルとなった図とのこと。ということは、水平スケールで100m未満のものは、この図には示されていないと考えられます。幅数数十mで地表からつながる水脈が存在してても、この図には表現できていないのでしょう。この図で表現できないということは、試算のモデル式では表現できないということを表すのだと思います。いわば、天気予報でスケールの小さな現象であるゲリラ豪雨を上手に予測できないようなものです。
 
とにかく、どこがどういう種類の岩石で、どこにどのくらいの規模のひび割れ(断層)が入っていて、どこに水を通しやすい部分があり、それが地表とどういう関係にあるのか、川の流量に影響を及ぼすのはどの部分か、肝心なことが一切分からないのですよ。
 
計算を行う際に、実際の地形・地質データを全てコンピュータ上で再現することはなかなか困難ですので、ある程度簡略化することはしかたがありません。その簡略化を補完するために、あるいは客観的に検証させるためには、実際のボーリング調査や地上での各種調査の結果を併記することが欠かせないはずですが、そうした資料は見当たりません。
 
準備書の別のページには、「国鉄時代からボーリング調査を行っている」と書かれているので、具体的なデータ(柱状図)はJR東海が所有しているはずですが。
 
それから準備書には下のような表に「次の条件で試算した」と書かれていますが、ここに具体的にどんな数値を入力したのかも全くわかりません

 
図7 JR東海による試算前提条件

 
これでは、専門的な知識を持った方でも、トンネル工事による流量への影響はもとより、この地域の水循環についての概要把握すら難しいと思います。
 
さらに準備書には、この地質図の下に、地質条件云々を並べて「影響は少ない」と無理矢理結論付ける説明書き(略)があるのですが、その文章が長野県版準備書とまったく同じものなのです。同じ南アルプスとはいえ、大井川流域(静岡)と小渋川流域(長野)とでは地形も、地質も、断層の位置も、岩のひび割れ方も、川の流量も、トンネルの位深さも、み〜んな異なるはずなのにどういうこと?
 
これでは「信用しろと」いうほうがムリです。

この準備書、水環境についてはこの地質断面図の他に、地域全体の水環境を見回す図面・表のたぐいは全く記載されていません。国土地理院作成の作成した5万分の一地形分類図という大雑把な図が、目的も不明なままに「地形の状況」として引用されているだけです。5万分の一地形分類図では基本的に50m未満のスケールは表現することはできず、これでは不十分です。
 
どのくらいの降水量があるのか、積雪、蒸発量、地形、植生の状況などといった、この地域の水環境に関する基本的な説明もありません。
 
トンネルの構造、作業用トンネルの地中における位置、規模、構造、あるいは工法についても詳しい説明がありません。
 
そればかりか、どこから水が湧き出し、どこに沢が流れているかという基本中の基本的なことも記載されていません。
 
ないないづくしなのです。
 
これが、各地の審議会で問題視されている「データ不足」というものの実態です。
 
静岡、山梨県だけでなく長野県でも「データ不足」という話が出てきました。
 
「そんな難しいことを細かく書いたって意味がないだろ」と思われる方もおられるかもしれませんが、そうではありません。準備書に対して審査をおこなうのは役所に呼ばれた一握りの専門家だけではありません。地質学、地形学、水文学の専門家なんて全国に何万人もいるだろうし、専門業者もたくさんあります。独学で専門知識を身につけた方もおられるかもしれません。
 
環境影響評価において一般の人々から意見を受け付ける制度が設けられている背景には、このような第三者の専門家による検証を受け付ける意味もあるのです。そのためにも徹底的な情報公開が求められます(一般からの意見提出は終わりましたが)。
 
こと大井川の水環境に関して言えば、直接的にJR東海と審議できるのは静岡市役所と静岡県庁だけですが、流量減少で影響を受けるのは下流域全体におよびます。その人々が環境アセスメントの妥当性を検証するためにも、欠かせない情報であるはずです。

(3)JR東海による対策案と見解

以上のように数字自体の信頼性が疑わしいし、検証もできないのですが、それでも大きく流量が減少する傾向にあることが予測されています。流量減少という環境への悪影響に対し、事業者であるJR東海は、対策をとらねばなりません。
「環境の保全のための措置」は準備書で中心をなす最も重要な要素です。法律でも、それを掲載するよう義務付けられています。

 
法律を一部抜粋http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09HO081.html
第十四条  事業者は、第十二条第一項の規定により対象事業に係る環境影響評価を行った後、当該環境影響評価の結果について環境の保全の見地からの意見を聴くための準備として、第二条第二項第一号イからワまでに掲げる事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより、当該結果に係る次に掲げる事項を記載した環境影響評価準備書を作成しなければならない
(一〜六は省略)
七  環境影響評価の結果のうち、次に掲げるもの
イ 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとにとりまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目に係るものを含む。)
ロ 
環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)
ハ ロに掲げる措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置
ニ 対象事業に係る環境影響の総合的な評価
 
 
 
さて、どのような「環境の保全のための措置」がしめされているのでしょうか? 環境影響評価準備書「水資源」のページを見てみましょう。


図8 JR東海による環境保全措置 準備書を複製・加筆


赤く囲った、「工事排水の適切な処理」から「薬液注入工法における指針の遵守」までの5つは、環境影響評価の結果とは何の関係もなく、どんな工事でも守らねばならない約束事です。わざわざ「検討の状況」なんて書く必要はありません
 
その下には「地下水等の監視」というものがありますが、「工事着手前に地下水の水位を監視し把握」って、おいおいおい、それをやって、この場所の地下水の状況について調べて対策を練るのが環境アセスメントでしょ!! ←これ、意見を提出してから気付きました…。
 
全体的にヘンなのであります。
 
まあそれでも、表の下のほうの2つ「応急措置の体制整備」「代替水源の確保」がとりあえず環境保全措置に該当すると思います。
 
2ページ先の表8-2-4-8に、この2つの効果についての説明があります。全文を引用します。

「応急措置の体制整備」
地下水等の監視の状況から地下水位低下等の傾向が見られた場合に、速やかに給水設備等を確保する体制を整えることで、水資源の継続的な利用への影響を低減できる。
 
「代替水源の確保」
他の環境保全措置を実施したうえで、水量の不足等重要な水源の機能を確保できなくなった場合は、代替措置として、水源の周辺地域においてその他の水源を確保することで、水資源の利用への影響を代償できる。なお、本措置については、他のトンネル工事においても実績があることから確実な効果が見込まれる。
 
これじゃあ、具体的に何を対策として考えているのか、さっぱり分かりませんね。要するに、準備書は環境保全措置を示す文書なのに、それが何にも書かれていないわけです。これでは準備書としての必要な条件を満たしているとはいえません

2立方メートル/秒という量は、(降水量にもよりますが)流域面積数十平方キロメートル程度の川の流量に相当し、どこかから川を一本ひっぱってこなければ確保できないような量です
 
「代替措置として、水源の周辺地域においてその他の水源を確保する」なんてできるわけないじゃないですか!!
 
だいたい、この「環境保全措置」というものは、リニアの通る全都県で同じ文面が使い回されています。要するに、一般論を並べただけで、大井川の自然条件や社会条件なんて全く考慮していないわけです
 
「他のトンネル工事での実績」というのは山梨実験線で水枯れを引き起こした笛吹市等を念頭においているのだと思いますが、川の規模も地形も、必要となる流量もくらべものになりません。

それでも工事をしたいのであれば、なにかしら具体的な案を考えねばなりません。準備書に対しては大井川流域の自治体などから「何とかしろ」という意見をはじめ、山梨実験線で水枯れを引き起こしたことへの見解を求める声も多数出され、見解書には次のような回答が出されました。


図9 JR東海の見解書 河川流量に関係する部分

これとてやはり、疑問だらけなのです。
 
第一に、山梨実験線における水枯れに関するものです。
 
見解書では、「破砕帯等の一部においては水位が減少する可能性があると予測していたと回答しています。図6の、疑問@の部分です。
 
しかし山梨県上野原市での水枯れ発生を伝えた2011年12月27日付け山梨日日新聞の記事には、
『JR東海は「現時点での原因特定は困難だが、トンネル工事が周辺の河川の流量に影響を与える可能性がある」として、工事終了後に因果関係を調査する方針』
 
と書かれています。見解書にある「予測していた」とは矛盾しています。本当は予測できていなかったのか、予測していたことを否定していたのか、どちらかです。
 
書いてあることがアテにならないのです。当時の山梨日日新聞は、静岡県立中央図書館に保存してあるので、静岡県民で興味のある方は、どうぞ足を運んでご覧になってください。
 
 
第二に、流量減少について強い懸念・心配がよせられているのに対して出された「上流域での流量減少は大したことがない」という見解について、疑問というか憤りすら覚えます。
 
静岡県在住の方や、ダム問題に関わっておられる方はご存知かも知れませんが、大井川では「水返せ運動」というものがありました。
 
大井川は全長168q(一級河川区間)ですが、流域面積は1280平方キロメートルと、それほど大きくありません(多摩川くらい)。しかし標高差3000mを流れ下るため、その落差が注目され、大正時代から水力発電の適地として利用され続けてきました。ダムだらけであり、本流は送水管の中を流れて、特に旧川根町(現島田市)の塩郷堰堤より下流では全く水のない「河原砂漠」とよばれるほどの有様でした。

川に全く水がなくなり、生き物は死滅し、河原には砂埃が舞い、川霧が発生しなくなって特産のお茶栽培にも影響が出て、昭和40年頃から「川に水を返せ!!」という運動が巻き起こりました。しかし水利権を有する中部電力、東京電力とも全く譲らず、運動は活発化。
 
四半世紀もの間、粘り続けた運動がようやく実を結んだのが1989年。ここにきて水利権更新のおりに、ようやく塩郷ダムから3〜5立方メートル/秒の水が流されることになりました。
 
今、大井川鐵道のSLに乗って大井川を流れると、水が流れているのが目に映ります。それはこの長い運動の末に獲得した光景なのです。とはいえ、これでも往時の姿には程遠い状況。今年のように空梅雨の年には干上がってしまうこともあります。
 
ただ付言しておきますと、ダムで取水された水はムダに使われているわけではありません。合計65万7500kWの発電をおこない、そのあと島田市、菊川市、掛川市など60万人余りの上水道、牧の原大茶園はじめとする農業用水、東海工業地域の工業用水へとフルに使われています。
 
ようやく戻ってきた流量は3〜5立方メートル/秒
リニア建設にともなう流量減少が2立方メートル/秒
しかもただ垂れ流すだけ
 
これでも「下流への影響は少ない」と言えるのでしょうか? 



見解書には、では、2立方メートル/秒の「減少分はトンネル湧水として排出される」と書いてありますが、どこへ排出されるのかは書いてありません。まあ路線断面図を見れば、ほとんどが東側坑口の早川方面ということがわかりますが…。これを「河川に戻すなどの恒久対策を実施いたします」とも書いてあります
 
できっこないんですよ、コレ。


(4)トンネル構造である限り影響は避けられないんじゃないのかな? 

準備書に記載されたトンネル縦断面図をみてみましょう。


図10 南アルプス横断部分全域の縦断面図 準備書を複製・加筆


図11 大井川流域を横断する部分 準備書を複製・加筆


図12 平面図
国土地理院 地形図閲覧サービスうぉっちずよち転載・加筆 等高線の間隔は100m


川の流量への影響は、列車の通るトンネルだけでなく、地表から浅くて川底に近いところを掘り進める、斜坑によるものも大きいのではないのでしょうか。

斜坑入り口の標高は、二軒小屋1350m、西俣1560mとなっています。どちらも下り一辺倒で、列車の通る本坑に接続します。本坑の標高は、西俣上流部(小西俣)直下が最高点で1210mであり、ここから東西に下り勾配となり、小渋川との分水嶺直下で約1180m、早川との分水嶺直下で最も低く980m程度になっています(平面位置は図4をご覧ください)。

したがって斜坑に湧き出した水は、そのままにしておけば本坑に流下し、本坑に湧き出した水とともに、早川あるいは小渋川方面に流れ出すはずです。位置関係からみて、早川方面へ流れ出す量が大部分になると思われますが、西俣に造られる斜坑が、小西俣より西側の部分で本坑に接続する場合は、こちらの斜坑への湧水は長野県側へ流れ出すことになります。JR東海は、この水を大井川に戻すと言っているわけです。

370mもの標高差があるのに、どうやって川に戻すというのでしょう?

ポンプで汲み上げる →ダメ!
「2立方メートル/秒の流量で370mの落差」というのは、富山県にある称名滝に相当します。これを逆流せねばならないのです。また2立方メートル/秒の水を370mの落差で真っ直ぐ落とせば、数千kW程度の発電能力があります。中部電力の赤石発電所並みです。水槽にためて一気に大量に落とせば、2万kW程度は可能になります。逆にいえば、これをポンプで汲み上げるためにはそれ以上の動力が必要になります。
 
ベラボウな電気代がかかります。参考までに検索してみると、青函トンネルには12台のポンプがあり最大2.15立方メートル/秒を汲み上げることが可能であり、フルに稼動しているかどうか分からないけれども電気代は1日230万円とか290万円とかいう数字が出てきます。
 
ただ汲み上げるだけなのに年間8億円以上?
 
しかもポンプが停まると同時に川も涸れてしまいます。全然「恒久対策」ではないのですよ。未来永劫、JR東海が責任を持って管理し続ける保証はないし、そもそも「大井川の水源はポンプで、JR東海が生殺与奪の権利を持つ」だなんてものすごく不自然です。

また、ここはユネスコ・エコパーク登録予定地です、JR東海は「工事を行うのは経済活動の認められる移行地域だから問題ない」という見解を示していますが、それは持続可能な自然の利活用というのが大前提です。「ポンプという動力源を用いて水を汲み上げる」というのは、明らかに持続不可能なものです。→エコパーク登録基準
 
かつてラムサール条約登録湿地の北海道ウトナイ湖で、近傍に巨大な千歳川放水路が計画され、地下水流動の遮断が心配されたのに対して事業者(北海道開発局)が苦し紛れに出し、「ムチャクチャ」といわれてボツになった案が、まさにコレ(放水路計画はその後中止)でした。


ポンプくみ上げ方式以外にも考えて見ましたが…。

トンネルの分水嶺直下から、大井川下流側に送水トンネルでも掘る →ダメ! 
トンネル内への湧水を大井川へ戻すのなら、大井川・早川分水嶺直下のトンネル(標高920m前後)から、下り勾配で大井川下流側の標高900m前後の地点へ向けて導水トンネルを掘らればなりません。しかし大井川の川底が900mとなるのは、直線距離で20q以上も下った畑薙第一ダム下流となります。長さ20q以上の送水トンネルが必要となります。それ自体が新たに支流の枯渇を引き起こすとともに、大量の残土が生まれることになります。しかも、送水トンネル出口上流側への対策にはなりません。というわけで、根本的な解決にはなりません。

水利権を東京電力から買う →ダメ!  
東京電力がおこなっている二軒小屋取水堰からの取水をやめてもらおうという案です。これを実行するなら、水利権と不足する発電能力の代替をJR東海と東京電力とで話し合ってもらわねばなりません。同時にJR東海には、不要となる水力発電施設をすべて撤去し、その場の自然再生にも責任をとっていただく必要が出てきます。リニアのアセスだけでも懸念だらけなのに、そこまで責任を負えるとは到底思えません。さらに取水堰より上流側への対策にはなりません。

見解書には、「やむを得ず補償…」というような内容も書かれていますが、基本的にカネの問題ではありません。カネを払えば川が死なずにすむのですか?

大井川を橋梁で渡る →物理的に不可能
現ルートよりも400mほど軌道の位置を高くせねばなりません。すると甲府盆地では地上300mくらいの高架橋にせねばならず、物理的に不可能です。甲府盆地での高さを変えずに、大井川で地上に出るためには、路線を現ルートよりも10kmほど下流側(椹島付近)に迂回させ、そこから飯田駅方面にぐるりと回らねばならず、トンネルの長さが10kmほども長くなります。そして山梨県側の早川に、高さ300〜400m、長さ2kmという橋梁を築かねばなりません。というわけで、この案も実現不可能です。

トンネルをもっと深くする →ダメ!
正確な数字は分かりませんが、大井川源流に斜坑を掘る限り、たいして変わらないと思います。むしろ斜坑が長くなるぶん、湧出量は増えるかもしれません。かといって斜坑を掘らないと、このトンネルの掘削には25年はかかると思われます。

大井川水系に新しいダムを造る →ダメ! 
誰がつくるのでしょう? どうしようもない浪費と自然破壊の連鎖。しかも源流部への対策にはなりません。

大井川から取水している地域が他の川に水源を求める →対策になっていない
水を使う人間本意の考え方。源流部の生態系には何の対策にもならない。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 

結論として、大井川流域の流量減少問題に対しては、抜本的な対策案も解決方法もないのです。長野県飯田市で問題になった水道水源への問題とは状況が大きく異なります。準備書や見解書の記載内容が具体性に欠けているのも、案を考えていないのではなく、現実的な解決策が出せないためだと思います。

 
これは、谷底の高さの異なる、富士川・大井川・天竜川という異なる3つの流域を1本のトンネルで貫くことに起因する、根本的な欠陥です。そしてその欠陥が生み出されてしまったのは、「一直線で結ばなければ存在意義のない超電導リニア」という走行システムによります。

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