|
戦闘は圧倒的だった。 つーか、セシリアのときと比べて鈴がガチすぎる。画面越しのはずなのに、ヒシヒシと殺気が伝わってくる。ヤバイだろ、アレ。
「い、一夏ッ!」 「一夏さん!」
ハーレム要員の二人が心配気に声を上げた。 なんだろう。緊張感溢れてるはずなのに、俺はガッツポーズしたい。 こう――今の一夏、色々美味しいぞ、いい仕事してるぞ! 主に俺を満足にさせる的な意味で。
「鈴の奴、ぶちのめす気満々だな」
つーか、なんだアレ。 肩の浮いてるパーツ――非固定浮遊部位って名前らしい――が開いてなんか撃ち出してる。 そいや、セシリアの肩の部分も浮いてたようななかったような。そもそも、あのフィンファンネ――ゲフンゲフン。ビット攻撃自体がありえないような。世の中は不思議なことでいっぱいだ。 比較的どうでもいいことを考えてたら、さらに試合が防戦一方――いや、この場合一夏は逃げてるだけだけど。
「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成。余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す――ブルーティアーズと同じ第三世代型兵器ですわ」
ナルホド。セシリア、解説乙。 でも、あの一夏がこのまま終わるわけない。 その証拠に一夏は“何か”を狙ってる。
「どうやら勝負を仕掛けるようだな」
千冬さんが腕組みをしたまま、そう呟いた。
「近距離攻撃しかない一夏が狙うなら、それなりの速度を持った攻撃ってことですね」 「『瞬間加速』だ。この一週間で叩き込んだ」 「……」 「なんだ、芳野」
ブラコンとか言ったらまた頭を叩かれるんだろうな…… バシンッ!
「お前は私をからかうためにここにいるのか?」
すみません、千冬さん。 今の俺にはあなたの背後に修羅が見えます。 モニターを見てたいのに、一瞬でも目を離したら殺られそうです。だから、その殺気ビンビンなのを抑えてください。さすがに篠ノ之さんよりも速い太刀筋――出席簿筋が正解なのか?――を止めれる自信がない。
ズドオオオンッ!!!
「何事だ!?」 「侵入者です! 所属不明のISです!」
……は?
「ど、どういうことですのッ!?」 「何が起きてるんだッ!?」
おぉ、凄いな。二人とも。 俺なんて君らみたいに驚くよりも先に呆気に取られたよ。いや、マジで。 え、なに? 侵入者? え? なにそれ?
「『全身装甲』!?」 「仮面ブラック!?」
俺の言葉とやまだせんせーの言葉が完全に被った。 土煙の中、姿を現したそいつはまさに全身に重厚な鎧を纏った変なIS。だってよ、頭にまでしっかりと仮面してるんだから俺の言葉は間違ってない……よな? ま、まぁアレですよ。自重やめてますから。
「どうやら狙いはアイツらのようだな」
普段どおりの冷静な言葉で千冬さんが言い放った。 しかし、俺には分かるぞ。今の千冬さんがめちゃくちゃ動揺しているのが! だって、いつもの千冬さんなら絶対に俺の発言に出席簿喰らわしてるし。 うん、なんだかこの中で俺だけ緊張感に欠けてるね。 だから俺はいつも通りに自重しない。
「先生。ちょっといいですか!」 「助けに行くなどというバカなことは言うなよ?」
お、おりむらせんせー! そんな目されたら助けに行く云々の前に視線で死んじゃいそうです。
「HAHAHA……、ISもないのにどうやって俺が助けに行くんですか」 「それもそうだな……。で、なんだ?」
行ったところで邪魔になるだけだろ。 篠ノ之さん。その視線で俺のことを殺そうとするのはやめてくれませんか? どうせ「それでも男か!」とか「根性が足りん!」とか、そんなこと思ってんだろ。一応、生物的には男だし、根性は……まぁ安心してくれ。たぶん、それは俺が決めるもんじゃないし。 でも、根性云々の前に緊迫してる状況なら下手に邪魔できないだろ? 今は二人の集中力を切らせるのが一番危険だ。
「トイレ行ってきていいっスか?」
ガタンっ、と部屋にいた全員がズッコケた。 ふ、俺の捨て身のギャグはどうやらここのメンバーの緊張感をほぐすのに一役買ったらしい。 なんだろう。この学園に入学して、俺一番輝いてない?←ヤケクソです。
「……アリーナなら男子トイレもあるから行ってこい。あまり出歩くなよ、突入部隊の邪魔になる」 「はーい」
アリーナはISの試合が行われるという関係上、男子トイレがしっかりと完備されている。なんでも、代表候補生の試合とかになると世界各国からスカウトや企業のお偉い方が来るらしい。すげぇな、やっぱこの学園。 ……さて、現実逃避はそこそこにさっさとこの部屋から逃避しよう。 ずっとここにいたら篠ノ之さんとセシリアの視線に俺の寿命がストレスでマッハだ。
◇
「う??トイレトイレ」
今トイレを探して全力疾走している僕は、IS学園に通うごく一般的なしいて違うところをあげるとすれば男なのにISが操縦できるってことかな。 このネタはやめておこう。色々と誤解を招きそうだ。 うん、色々とカオスだ。 自重リミッターは解除する気満々だけど、こっちの方面でリミッターを外しちゃダメだ。
「さて、ふざけるのもそこそこにしとかないと」
まずはアリーナのピットからISパクッてこなくちゃいけないし、これからは某凄腕スパイ並に暴れなくちゃ……。アイツって結局、スパイ活動よりも破壊活動、もしくはナンパ活動に専念してるよな。イギリスの七番目の人。 どうやらアリーナ内の騒ぎのせいで、みんな出口へ殺到してるみたいだ。ラッキー。
「えぇっと確かここだっけな?」
前にやまだせんせーから貰った格納庫の鍵。 専用機が来るまで、俺の頼んだ改造打鉄を使ってもいいって言われてそのまま鍵を貰ったのだ。まさかこんなときに役に立つとは思ってなかったぜ……
「おお、さすがにここには誰もいないなぁ」
ま、一般生徒は入れない場所らしいし、格納庫にあるのも打鉄一機だけだし、来る価値あんまないよな?
「さてと。えぇっとどうやってピットから出すんだっけ?」
さっき扉が全部ロックされてるって言ってたし、動かないって思いがちなんだろうけど、ちょっと違うんだぜ?
『ここはアリーナからの電力供給じゃなくて、校舎から電源を引いてるんですよー』 『意味あるんですか?』 『えぇ……。アリーナってたまにISの戦闘で電力が落ちちゃうんですよ?』 『つまり生徒たちの非常口ってことですか? ここ』 『ホントは内緒なんですけどね?』
いや、そんなこと俺に言っちゃいけないだろ。 やまだせんせーと打鉄について話してたときに聞いた話だけど、それがホントならここはたぶん、あの仮面ブラックのハッキングを受けてないと思うんだ。 伊織さん、あったまいいー☆ これからやることはバカ丸出しだけど。
「あー、もうめんどくせぇ!!」
キーボードあるけど日本語にしろ、日本語に。俺は日本に住んでんだ。 ――IS学園はどの国や企業に属さないな場所なんてツッコミはなしだぜ?
「コレがいいなぁ。あ、コッチもいいなぁ。コッチにしようかなぁ」
適当にボタンを押しまくってたらいつか当たるだろ。ここのピッチからアリーナ内に入る入口。 あ。 よく見ると扉にボタンなるじゃん! もうおっちょこちょいなんだから☆ べ、別に緊張してるわけじゃないんだからねッ!
「よっし、行ってくるか!」
いやね、さっきは言ったよ? アイツらの邪魔になるって。 でもさ、たぶんまだ戦ってんだよ、アイツら。上からバカスカ爆音聞こえてるし。 いくらメンタルの強い一夏と鈴でもこれだけ真剣勝負が続くと集中力が切れるだろ。ぶっちゃけあの仮面ブラックはヤバい。完全に殺す気で行ってる。 俺が行っても雀の涙程度の戦力だろうけど、時間稼ぎくらいにはなるだろ。なればいいな。なってほしいな。なってください。
「おぉぉぉ、体が震えてるよ!?」
うん、きっと武者震いだ、そうに違いない。そうあってください。
◇
「鈴、来るぞッ!」 「わ、わかってるわよッ!!」
仮面ブラックが腕を構えて、その照準を鈴に合わせていた。 つーか、お前らさっきから凄いよね。 ビームって言っとくけど光だよ? 見えるってことはその瞬間に当たってるんだぜ、普通。それを目視してから避けるとか人間業じゃねぇよ。 だから、俺はセシリアと戦ったときはとにかく動きまくった。それはそれは動き回った。後でやまだせんせーに言われた。
『ネズミ花火みたいでしたよ?』
あの人的には褒めてるつもりなんだろうけど、絶対にあれは褒めてないぞ。
「――ヤバッ!?」
って鈴の奴、俺が褒めた瞬間に反応遅れてるし!? 一気に機体を加速させて、鈴と仮面ブラックの間に割って入って、両腕に装備された巨大な盾を体の前に繋げた。 名付けて「連結多重シールド」だッ! ISには標準装備で粒子シールドなんて便利なものがついてるけど、どうしても呼び出すまでに時間がかかるんだよ。 なら、実体盾を装備すればいいじゃない! って神の声が聞こえたような気がしたのでやまだせんせーに頼んでみれば、まさかのOK。 なんでもこれまで試したことない発想だから、試験的にやってみようって話になったらしい。 ちなみにこの盾。防御力を第一に考えてるからめちゃくちゃ重い、らしい。IS一機分の重さに相当するらしいよ?
「「伊織!?」」
バカもん。 二人揃って何を驚いてるんだ。 そういうときはこう言うんだ。
「きた! 盾きた! メイン盾きた! これで勝つる!」 「……は?」 「アンタ、何しに来たの?」
あれー? どうしてこんなに嫌そうな顔されるんだろー?
『何してるんですか、芳野くん!!』 「……トイレ?」 『ふざけないでくださいッ!』
わお。あのやまだせんせーまでご立腹だ。 ま、まぁ実力的にもISの性能的にも無謀ですよねー
「来るわよッ!?」 「ぬおッ!?」
再び連結多重シールドで助かったけど、あいつのビームヤバいな。もう俺の盾、ボロボロなんだけど。持って、後二、三回ってところかね。
「とりあえず散開しろ!」 「お、おう!」 「って、無視して仕切るな!」
いや、このまま言い争ってたらいずれ俺、黒焦げにされちゃうから。
「作戦は?」 「俺が決める。バリア無効化攻撃で一気に」 「で、鈴がサポート、と」
なるほど。単純明快でわかりやすい。
「なんで決めれてないの?」 「「う゛……」」 「一夏が!…」 「鈴が!」
ごめん、聞いた俺がバカだった。 と、話してる間にもう一発。 次は移動してたからなんなく回避。
「ま、まぁ落ち着け」 「アンタが原因でしょうがッ!」 「それほどでもない」
うーん、確か白式のバリア無効化攻撃って自分のバリア削って攻撃してんだよなぁ。 何そのハイリスクハイリターン。男のロマンが詰まってんだけど。ってそんなことはどうでもいい。
「後一夏の攻撃は何回いける?」
問題はそこだ。 バリア無効化攻撃が当たらなければ意味が無い。でも、そのためには白式のバリアが絶対に必要。
「一回、だな」 「……お前、何回失敗したんだ?」 「うるせぇよッ!?」
ま、まぁ鈴にボコられてたし、仕方ないか。
「よし、俺が囮になるから、二人で仮面ブラックをボコれ」 「「仮面ブラック?」」
お前ら、どーでもいいことにツッコミを入れるな。
「いや無理でしょ!」 「うるさいわ!」
凰鈴音。なんて失礼な奴だ。
「俺だってそれなりに鍛えてるんでな」 「で、でもアイツはマジで強いぞ?」
一夏よ、男がやる前からビビってどうする。 それにあの先生も言ってたろ。
「諦めたらそこで試合終了ですよ」 「「!?」」
あ、あれ? 二人ともめっちゃ驚いてるんですけど。
「そうだな。やろうぜ、親友!」 「し、仕方ないし、それに付き合ってあげるわ!」 「お、おう」
あのー、今のネタなんですけどー。俺が滑ったみたいになってるんですけどー、ってやかましいわ!
「決めてよ、一夏!」 「任せとけ!」
三人で囲むように散開。 仮面ブラックは誰を狙うか悩んでるみたいだ。
「俺が最初の攻撃を誘う。鈴は奴の回避先を潰してくれ」 「オッケーッ!」
俺の打鉄は、連結多重シールド以外は全部高機動ブースターに拡張領域を割いている。つーか、割かないと高機動での戦闘についていけない。なんで高機動にこだわるかって? そっちのほうがかっこいいからだ!
「……ッ」
無言で仮面ブラックが俺に照準を合わせた。 どうやら、近い奴を優先的に狙うみたいだ。いやいや、単純な奴で助かった。 盾を連結させる。 見てから防御余裕でした。
「一夏! 鈴!」
叫ぶ必要はないけど、ついつい叫んじゃうね、この熱い展開☆
「うおぉぉぉッ!!」
一夏の瞬間加速。 ホントに一瞬で相手の間合いに入ったぞ。 避けようとした仮面ブラックだったけど、鈴の衝撃砲に回避先を潰され、動きが停止する。 そして、一夏の<雪片弐型>が仮面ブラックの右腕を切り落とした。 しかし、喜びもつかの間、仮面ブラックは冷静に反撃を仕掛けてきた。
「……一夏ッ!」
すぐさまブーストを最大加速させ、間に割って入った。
「なんのぉッ!!」
仮面ブラックパンチで俺のISが軋んでる。 この盾、特注品でめちゃくちゃ固いんだぜ!? あと重いんだぜ!? なにコイツのこのパワー!?
「何やってんのッ!!」
鈴が衝撃砲でアイツを動かしてくれたから事無きを得たけど、今のはマジでやばかった。 ちょっと泣きそうだったぞ、コノヤロー。
「助かった。サンキュー、伊織」 「ボヤッとするな。一夏は退け」 「なんでッ!?」
いや、お前の白式、もうバリア残ってないだろ。 なんで結構ガチな戦いでお前はオワタ式で臨もうとしてんだバカヤロー。 それにずっと動き回ってたからか、鈴よりも体力の消耗も激しいはずだ。
「後、一回だけいかしてくれ!」 「……」 「俺はアイツを……、アイツを倒してみんなを守りたいんだ!」
一夏の本気の目。 コイツは俺なんかよりも本気でみんなを守りたいって思ってんだろう。 そういう奴だ。だから、みんなコイツの周りに集まってくる。
「……とは言ってもな」 「頼む!」
いやね、ここで頼まれても困るんだよ。 断ったら俺も後味悪いし、いかせて何かあったらそれこそ後味悪い。
『いかせてやれ』
と、ここで思いもしない乱入者。
「千冬さん!?」
しかも、俺だけに聞こえる回線で。
『なに、ここまで啖呵を切るんだ。それだけの覚悟があるのだろう』
えぇー、保護者からゴーサインが出ちゃったよ。 なら、俺に言えることは何もない。
「次の一回でたぶん、白式のエネルギーは完全にゼロになるんだろ?」
それはつまり一夏を守るものがなくなるということだ。
「あぁ」 「なら次で決めろよ?」
ニヤリと笑い、一夏も俺に答えるように口角をつり上げた。
「あー、それと良いこと教えておく」 「なんだ?」 「アイツはたぶん無人機だ」 「やっぱりそうか」
どうやら一夏も気付いてたみたいだ。アイツのよくわからない行動の原因に。
「『零落白夜』を使う。一気に決めてやるさ」 「おう。行ってこい!」
仮面ブラックは人間が操縦しているものではない。 つまり一夏は“遠慮”をする必要がなくなった。 俺で言う、自重リミッターを開放した状態だ。←意味不明である。 今のアイツはたぶん誰にも止められない。たぶん鈴も篠ノ之さんも止めることができないだろうな。 コイツはいつもの人のいい一夏ではない。
「鈴。ちょっとこっち来い」 「な、なによ?」
仮面ブラックが俺たちを“観察”するかのように立っていることに警戒していた鈴が一夏の側に近づく。 そして、一夏の提案に非難の声を上げた。 いや、非難なんてもんじゃないね。ただの暴言だぞ、それは。
「一夏ぁっ!」
と、予想外の人間の怒鳴り声がアリーナ内に響き渡った。 キーン……とハウリングが尾を引くその声は篠ノ之さんのものだった。 ……何やってんの? あの人。
「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
やめて……、ハウリングで耳が痛い。 つーか、元々試合で解説してた人、篠ノ之さんの隣で倒れてるけど大丈夫? え、なに? もしかしてマイク奪うためだけについに殺っちゃったの? 俺たち、たぶんニュースかなんかで取り上げられるぞ、おい。「女子高生、マイク欲しさに学生を殺害」みたいな感じで。 ま、まぁ、そんなことは些細なことだ、たぶん。 突然の乱入に驚いたのはどうやら俺たちだけじゃなかったらしい。 仮面ブラックが篠ノ之さんに左腕を上げた。 ――いやいやいや、マズイだろ!?
「一夏、やれッ!」
もう俺の盾は壊れる寸前。 アイツのビームを完全に防ぐだけの強度はないはずだ。でも、ここでやらなきゃ男が廃る。 高速ユニットを全基全開で篠ノ之に一直線に加速する。
「篠ノ之さんは任せとけ!」 「あぁッ! 任せた!」
先ほどのむちゃくちゃな作戦を実行するために鈴の前方に構える。 あー、仮面ブラックの左腕が光ってる……。 早くしてよ、一夏さん。たぶんもう間に合わないだろうけどさ☆ ガシャンと盾を連結させた同時に衝撃が俺を襲った。 とりあえず覚えてるのは一夏のぶっとい刀が仮面ブラックの左腕を切り飛ばしている光景だ。 ――
一夏さん、どうせなら後数秒早くしてほしかったぜ……
「グッジョブ、一夏………」
◇
篠ノ之箒は混乱しているさなかにあった。 トイレに行くといったはずの芳野伊織が何故か、戦闘に参加していることにまず管制室で驚いた。 ――そのときは自分だけでなく、千冬を除いた全員が同じような反応をしていたが。
「(コイツは……、コイツは何を考えている!?)」
全身装甲のISの頭部がマイクを握り、大声を出したとき自分に向いた。 何を考えているのだと、そのとき全身装甲のISに対して思った。 そして、そう考えたときにはすでに遅かった。 さきほどまで管制室で見ていたビーム、が来ると数瞬置いて理解した。 思わず目を瞑った。 これは人間の本能だ。 いくら幼い頃から剣道をしているとは言え、後一秒も置かないうちに放たれるものは竹刀などの剣ではない。人間の反応では回避不可能な“光”。 しかし、いくら経とうとも痛みはおろか、一切の音が聞こえない。 ――いや、人間の声が聞こえた。
『グッジョブ、一夏……』
そして、今の状況である。 どこぞのアンドロイドのように右手がサムアップなのが気にはなるが、それ以上に何故彼が身を挺して自分を守ったのか。 伊織の満足そうな表情にさらに、疑問が募る。 彼にとって、自分は決して好かれていない、と箒自身はそう考えている。会う度に口を開けば説教臭く――これは彼女の性分だ――、何かする度に木刀を振り下ろす――これは彼女の照れ隠しだ――。そのような人間を守ろうとするなど考えにくい。
そもそも、彼女が彼の立場であったら反応さえできない。 箒は自分自身があの場に登場することをイレギュラーと考えていた。事実、衝動で行ってしまったことで、伊織とはまた別に、部屋に入る際に扉と衝突してしまった解説者の生徒が倒れている。 ――これは事故だと思おう。 少し前向きにそう解釈し、再び思考を伊織に移した。
「(まさかコイツは私が来ることを予測していた!?)」
彼が戦闘に参加したことで、箒はアリーナ内に向かうことを決めた。 それを予測し、あの反応速度だったのではないか?
「(あの瞬間、『全身装甲』のISは他でもない私に注意を向けた)」
つまり、敵の気を逸らし、一夏に最後の一撃を託す。この位置はちょうどあのISを点に一夏と対称になる場所だ。 彼の頭の中ではこのような戦術があったのではないか。
「だから私を守ったのか、芳野は……」
声に出し、箒はこの男の大博打な戦術にため息をつく。 生身の人間をISの戦闘に利用するなど、危険な行いそのものだが、それでも彼は自分を守った。守る自信があったのだろう。 だからこそのこの右手なのだ。
「(勝利への執念……、そして自らを顧みない行為……)」
しかし、彼女にとってはやはり伊織が何を考えているのかわからなかった。
◇
さて、俺はこの状況で果たして何ができるだろう。 簡単に説明すると、 1、俺、保健室みたいなとこで寝てる。 2、隣に一夏が寝てる。 3、一夏を正面に、俺に背を向ける格好で貧乳ツインテールがいる。 4、お見舞いイベントって大事だよね
「見事だ、一夏!」
正解は5の一夏を褒める、でした!
「きゃああぁぁぁッ!?」
あ、ついつい声に出して一夏を褒めてしまった。
「……お、俺に構わず続けてくれ。ほら、ずずいっと!」 「あ、あ……」
あ? あんぱん食べたい?
「アンタはなんでこのタイミングで起きんのよぉッ!」 「ですよねー」
俺ってば空気読めない子ね。こーいうときは黙っとくのが一番なのに。 でも、俺の中の自重リミッターがそれを許さなかったんだ。
「すまん……、比較的本気でごめん」 「いや、謝られても……」
というわけで俺はこの場から退散しよう。うん、それがいい。それしかない。 こんなギスギスした場所にいつまでもいれるかよ!
「お、おぉぉぉ」 「ちょ、アンタ何してんのッ!?」
なんか変な声が素で出た。 なんだこれ? 体中が痛い。
「ちょっちょっちょっ……」
床に足つけたのはいいけど、足がプルプルする。 俺は生まれたての小鹿か!? ってやかましいわ! よし、クールな俺の脳内会議終了。どっちかってっと、脳内ノリツッコミだったけど、深くは考えまい。
「のわッ!?」 「って、バカッ!?」
見事に倒れた。うん、それはもう見事に。 なんとか耐えようと頑張ったんだけどね。ムリでした。 鈴を何故かドミノ倒し。 いやね、完全に押し倒しちゃったぜ、コノヤロー。
「一夏さーん、伊織さーん」
あ、この声はセシリアか。 なるほど。お見舞いという奴か。 うん、すごく嬉しい。ものすごく嬉しいぞ。でもね、この光景を見て普通の人間はどう思うだろうね?
「入りますわよ」
拒否するわけにはいかず、固まったまま――鈴を押し倒したまま――入室者を迎えることになった。 ここまで元気なんだからもうお見舞いなんていらないぜ? HAHAHA……←もはやヤケクソである。
「って、なにをしているのですかあぁぁぁっ!!」 「ですよねー」
こうなりますよねー
「ままま、まさか伊織さんがこのように不埒者だったなんて……」 「待て、誤解だ。俺が鈴に……」
そこにさらに聞こえるノックの音。
「入るぞ、一夏。芳野」 「うぇっ!?」
意味分からん声が出てしまった。 ここでさらに乱入者はヤバい。しかもセシリアとは比べ物にならない奴だ。
「…………」←俺 「…………」←篠ノ之箒さん 「…………(ニコッ)」←俺 「…………(ぷちっ)」←篠ノ之箒さん
このやりとり前もしたな。飽きないな、俺も。いや、ここではどちらかというと懲りないな、俺も。 篠ノ之さーん。頼むから無言で木刀を構えないでくれー
「ほら、鈴もなんか言えよ!!」 「…………」
あのー、鈴さん? 顔を真赤にして何をしてやがるんですか? こういう場合はだいたい男の俺が集中砲火を受けるんですから、なんとかしてこの場を切り抜けるのに協力してください。
「おーい、鈴さーん」 「…………(ぺちぺち)」
とりあえず頬を軽く叩いてみる。 うん、余計に目を逸らされたぞ。 いやね、俺が立ち上がってもいいんだけど、足が生まれたての小鹿状態なんで立てないんですよ、マジで。
「すまん、セシリアでも篠ノ之さんでもどっちでもいいから俺が立つの手伝ってくれないか?」
あ、二人とも変な顔になった。 でも、この体勢って結構危ないからさ、立ち上がれないのよ、切実に。
「ほぅ、怪我をしたと思っていたが、まだまだ体力が有り余っているようだな」
そして、最も聞きたくない人物の声。 感覚としては死刑宣告のそれ。まぁ、受けたことはないし、受けてたらここにいないだろうし、今後の人生で受けたくもない。 とにかく、イメージBGMがワルキューレの騎行なだけあって、迫力がヤバい。ちなみに一夏はダースベイダーのBGMって言ってたな。
「あはは……、今の状況がどう見えますか?」 「教師の目の前で不純異性交遊とは恐れ入る」 「織斑先生は冗談がお上手ですね」
あー、なんだろう。言ってしまった自分を呪いたい。 隣で呑気に寝てる一夏が羨ましい、いや妬ましい。
「あ、そういえばあの仮面ブラックはどうなったんですか?」 「織斑が両腕を破壊して、機能停止。今、学園の方で調査中だ」
うむ、よかったよかった。 つーか、アイツが停止してなくちゃ俺たちはここで寝てないか。
「だが、芳野。勝手な行動のツケは覚悟しているのだろうな?」 「な、なんのことやら……」 「加えての不純異性交遊。まぁ、楽しみにしておけ」
サディスティックに笑う千冬さん。この人、絶対今の状況を楽しんでるだろ。 あとさ、誰か俺をこの体勢から助けてくれよ……
◇
凰鈴音は部屋の扉を閉めると同時に多大な疲労感に襲われた。 原因は、あの謎のISとの戦闘が6割を占めている。 代表候補生とはいえ、彼女もまだ15歳の少女。生死を賭けた戦いなど経験があるわけもなく、緊張感が欠けていたというのも否めない。
「はあ……」
大きく溜息をつき、今日あったことを振り返る。 運良くルームメイトは食事にも出ているようで、その溜息を聞かれなかったことに再び深い溜息をついた。 何度か危ない場面はあったが、最も危なかったのは確実にあのときだ。 何度振り返っても、無傷で済んだことが不思議なぐらいだ。
「(あのとき、アイツが――伊織が割って入らなかったら確実に攻撃を受けていた……)」
情けないと思うと同時に、助けられたことによる安堵感があった。 何故あのタイミングで助けにこれたのかは不明だが、彼は量産型である打鉄を使い、攻撃こそ一度も行わなかったが、最後の最後まで自分たちの防御、サポートを続けていた。 避けるのではなく、防御。これはIS同士の戦闘においては不利なことこの上ない。たとえ実体盾で防御しようとシールドは減っていく。加えて、盾は劣化していく。それでも彼は“守るために”戦い続けていた。
「あー、もうっ!」
ベッドに制服のまま倒れ込み、声にならない声を上げる。 最初からともに戦っていた一夏が、伊織の参入と同時に眼を見張るような動きを始めた。 単純に戦力の増強によるものだと考えることもできるが、それだけでないことは彼女自身が一番よくわかっていた。コンビネーションなど、一朝一夕で身につくものではなく、ものになるまで最低でも三日はかかる。 それをあっさりと伊織はやってのけた。指示をするだけでなく、一夏をアタッカーに置き、その援護に回ることで。しかも、彼の使っていたISは改造したとはいえ“量産型”である打鉄である。 通常、専用機は個人個人に最適化されている。それを行うことにより搭乗者の動きを最大限に発揮でき、だからこそ一夏はIS初心者とはいえあそこまでの動きが可能なのだ。 しかし、彼はどうだ。 学園のISである打鉄は最適化をされていない。否、することができないのだ。 学園の生徒全員が動かすために、最適化の機能にはロックがされている。つまりそれは、ISの真の性能を発揮できないということだ。
「(それであの動き……)」
不可能ではないはずだ。代表候補生である自分やセシリアならば量産型とはいえ、一般生徒に引けを取ることはないだろう。そう鈴は確信している。 しかし、伊織の動きはどうかと言われれば答えは「No」だ。 仮にもエリートと言われる人間である。あそこまで型を破った動きや、理論的に反する作戦はマニュアルでは習わない。むしろ愚策としてその行動を取ることはできない。
「(アイツは……何者なの)」
中学時代は一夏とともにつるんでいた仲の良い人間、といった認識だったが、ここに入学してからは――それまで知らなかった鈴も鈴だが――一夏と同じくISを起動できる男。友人だという自信はあるが、彼には何か秘密があるのではと鈴は考えた。 織斑一夏という人間は、言わば曰くつきの人間である。IS関係者だけでなく、世界でも知らない人間はいないであろうあの織斑千冬の弟であり、話によるとIS開発者である篠ノ之束の知り合いだとも聞く。 対して、芳野伊織はただの平凡な家庭のただの男。何も話を聞いたことがない。
「(うん? そういえば、アイツの昔の話って聞いたことないな……)」
中学時代からの友人だが、小学校は別々だった。
「(あー、いや引っ越してきたって言ってたっけ?)」
思い出を振り返りながら、鈴は次第にまどろみ、そして闇の中に落ちていった。 翌朝、しわしわとなってしまった制服に涙するのはまた別の話である。
|